食品・飲料・たばこ(商社)に、そもそもAIは必要なのか
AIを入れて元が取れる業務は、二つを見れば絞り込めます。一つは、その見分け方を月に何度繰り返しているか。もう一つは、外したときに誰が困るかです。自社の在庫評価で収まるのか、得意先の売場や、口に入れる人にまで及ぶのか。両方が大きい業務にだけ、仕組みを作る意味があります。
この業種でそれが重なるのは、 自社で作っていない商品を、期限を抱えたまま預かって売る からです。品質の申し出が入ったとき、納品伝票からロットをたどり、どのメーカーのどの製造所かを割り出して過去の同種の件と照らす作業は、何度も起きます。
賞味期限の残った在庫を見て、まだどこへ納められるかを見分ける作業も、手順は毎回同じです。得意先が出す販売計画と実際の発注の差を数える作業も、月ごとに戻ってきます。
一方で、 人の手元に残る仕事 もあります。小売のバイヤーと棚割を詰める場は、相手の売場方針とその期の競合提案で条件が動き、前回通った提案がそのまま通りません。
申し出を受けて回収に踏み切るかどうかも同じです。作った側ではない立場で言い出す以上、メーカーと小売の双方に何を背負わせるかを、人が引き受けて決めることになります。
食品商社のAI活用は、会社ごとに一本の線で引けるものではありません。輸入品が主か国内メーカー品が主かで、同じ判断の起きる回数が変わります。次章では仕事を工程に分け、どこに負荷が寄っているかを見ます。
取扱決定から採算の見直しまで、負荷が大きいのはどの工程か
商品を仕入れて売るという一言の中に、届出も期限の管理も申し出への対応も入っています。工程に並べると、書類をひたすら照らす仕事と、相手の出方を見て決める仕事が、はっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 取扱決定 | 新しい商品を扱うかの見極め、メーカーとの取引条件の取り付け | 極小:棚が空くかで決まり、社内の記録に前例が残りません |
| 輸入・届出 | 輸入食品の届出書類の作成、残留農薬・添加物とアレルゲン表示の適合確認、たばこ税制と広告規制の照合 | 大:品目ごとの条文と商品の規格書を照らせます |
| 提案・値決め | 棚割と季節商戦の提案資料づくり、市況を踏まえた提示価格の点検 | 中:資料の下書きと値の根拠までは作れます |
| 受注・調達 | 得意先の販売計画と発注実績の差の集計、メーカーへの発注数量の決定 | 大:得意先ごとの外し方が数字で並びます |
| 保管・出荷 | 温度帯別倉庫への入庫登録、賞味期限の残りと回転の点検、店着期限に合う在庫の引き当て | 大:納められる先が残っているかを日ごとに出せます |
| 品質の申し出 | 異物混入・風味劣化の申し出の受付、メーカーへの照会と回答の取りまとめ | 大:調査記録の骨組みと照会文の下書きを組めます |
| 採算の見直し | 取引先別・カテゴリ別の粗利の集計、販促の費用対効果のコメント作成 | 中:集計と所見の下書きまで進みます |
一番人の手を食うのは 輸入・届出 です。自社で作っていない商品の中身を、メーカーから届く書類だけで証明しなければならないからです。
時間を取られているのは届出の入力ではなく、その前段です。海外の仕入先から送られてくる製造工程表や分析結果は、書式も言語も社ごとに違い、日本の基準のどの項目に当たるのかを一つずつ読み替えることになります。同じ棚に並ぶ商品でも、加工の度合いで届出が要る品目と要らない品目が分かれます。
たばこはさらに別の法体系で動きます。税率の区分と、広告や陳列でできることの線引きが、食品の側とは別の条文で決まっていて、同じ担当が両方を頭に入れています。
ここが片づくと、 どの商品がいつから売れる状態になるか が先に見えます。発注の数量を固める工程も、店着の日から逆算して組めるようになります。
極小とした取扱決定は、新しい商品を扱うかどうかを決める場です。売れるかどうかより先に、小売の棚に空きが出るか、いまの定番を落としてまで入れる理由があるかで決まります。その見極めは、売場を見てきた人の頭の中にしかありません。
食品・飲料・たばこ(商社)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
繰り返しの多さと、外したときの重さ。第1章の二つを当てはめると、上に残るのは次の三つです。いずれも、作っていない商品を預かって売る立場だからこそ起きる業務です。
小売とメーカーの間の往復を、一件分にまとめる
まず動くのは、小売の相談窓口から回ってきた申し出が、受付のフォームに登録された時点です。AIは納品伝票からその商品のロットと納め先をたどり、メーカーから預かっている規格書と製造所の情報、過去の同種の申し出とそのときの回答を突き合わせます。
出てくるのは、案件ごとの調査記録と、メーカーへ出す照会文の下書きです。ファイル保管サービスに保存され、品質担当と担当営業には業務チャットで知らせが飛びます。これまで記憶をたどって伝票を探すところから始めていた調査が、 聞くべきことがそろった状態 から入れるようになります。
照会文をそのまま出すかを見るのは品質担当です。どこまでを自社の保管や配送の側で引き取り、どこからメーカーに投げるのか。その線を最後に引くのは、間に立つ側の責任者です。
まだ納められる得意先が、何社残っているか
賞味期限のある在庫は、数が減らなくても出口のほうが先に狭まります。得意先ごとに、店に着く時点で期限がどれだけ残っていることを条件にするかが決まっているからです。温度帯別倉庫の在庫データが日ごとに取り込まれたことを合図に、AIは商品とロットごとの残り日数を、得意先ごとの受け入れ条件に当てはめます。
まとまるのは、商品ごとに納められる先が何社あるか、その数がいつ減るかを並べた一覧です。在庫の表計算ソフトに行が増え、営業に通知が出ます。月末の棚卸しで初めて見つかっていた寝た在庫が、 出口が消える前に 目に入ります。
振り替え先を探すか、早めに出す条件をメーカーと相談するかを選ぶのは営業です。廃棄に落とす線を引くのは、在庫の評価を持っている管理部門の責任者になります。
外れれば捨てることになる数量を、発注の前に見る
得意先から翌月の販売計画が入力フォームで届くと、そこから仕組みが動き出します。期限のある商品では、多めに引いた分がそのまま廃棄に向かうからです。AIは前月までの計画と実際の発注の差を商品ごとに取り、社内でまとめた外れ方の見方に沿って、その得意先の癖まで拾います。
差と癖を織り込んだ発注数量の案が、仕入の予定表に行として並び、担当者にメールが届きます。いまは一社ずつ計画を開いて、前に外された覚えの分だけ数字を落としています。メーカーの生産の単位には刻みがあるので、案が先に出るぶん、 捨てる分を減らす側に寄せられます 。
外れた理由を見るのは営業です。店頭で動かなかったのか、はじめから厚めに出す先なのかで、次の扱いが変わります。最後に発注数量へ線を引くのは仕入の担当です。
業務に組み込むまでの4ステップ
一つ目に挙げた申し出の記録づくりで、四つとも通します。組むのはシステムではなく、一報が入ってから小売に報告を返すまでの間で、記録をどこから集めどこへ出すかの取り決めです。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
集めるものは、どれもすでに社内のどこかに届いています。起こすのではなく、置き場所を決めるだけです。
- 受付のフォームに入る申し出の記録(商品名、買った店、中身)
- 納品伝票と出荷記録(どの得意先に、いつ、どのロットを納めたか)
- 倉庫と配送の温度記録
- メーカーごとの窓口と、過去に返ってきた回答の控え
控えが担当者のメールに散っているなら、一箇所へ寄せます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
合図は、受付のフォームが送信された時点です。一報は営業の携帯に電話で入ることが多く、メモのまま止まります。思い出したときに開く形では、 小売への一次報告が期限を越えます 。
3. 判断の基準を設定しておく
四つの中でいちばん手間がかかるのがここです。ベテランの品質担当が一報を聞いた瞬間に見分けている中身を、文章に起こしてまとめます。
- どの申し出をメーカーへの照会に回し、どれを自社の保管や配送の側で見るか
- 同じロットで何件目から、横に広がっている疑いとして扱うか
- 小売へ一次報告を返す期限を、申し出の中身ごとにどう区切るか
書き終われば次の案件からそのまま効きます。手を入れるのは、新しいメーカーとの取引が始まったときだけです。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
行き先は案件ごとの調査記録です。照会文の下書きが添えられ、品質担当と担当営業に業務チャットで知らせが届きます。品質担当は 照会を出す前 にこれを開き、文面と範囲を直します。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- ロットと期限の印字がメーカーごとに違う :製造所固有記号の付け方も、期限の年月表示か年月日表示かも、仕入先ごとに別です。そのままでは在庫の残り日数も申し出のロット追跡も合いません。仕入先ごとの読み替えの対応表を先に作り、そこを通してから数えさせます。
- 得意先の商品コードが期中で振り直される :春と秋の棚替えのたびに、同じ商品に別のコードが振られる得意先があります。差の集計が別商品の扱いになり、外れ方の傾向が消えます。コードの新旧を突き合わせた表を用意し、棚替えの時期には人が目を通します。
- 原因の候補を、回答が来る前に外へ出してしまう :調査記録に並ぶのはあくまで社内の見立てで、メーカーの検証を経たものではありません。小売へ出す文面には、確かめられた事実と見立てを分ける欄を設け、品質担当が線を引いてから送ります。
食品・飲料・たばこ(商社)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章で引いたのは、同じ見分け方が何度も戻ってきて、外せば得意先の売場か自社の廃棄に出る業務にAIが効き、棚割の商談や回収の決断は人が引き受ける、という線でした。4章で挙げた三つは、いずれも 書類と数字を照らし直す仕事 です。
三つまとめて始める必要はありません。申し出の受付がフォームでそろっている会社なら一つ目から、温度帯別の在庫データが日ごとに届いている会社なら二つ目から、 一つだけ選べば十分 です。必要な記録は、どちらもいま毎日届いています。

