建材(商社)に、そもそもAIは必要なのか
AIを入れて割に合う業務と、合わない業務があります。分ける軸は二つだけです。
一つ目は、同じ形の判断が月に何度戻ってくるか。二つ目は、その判断を読み違えたときに、誰にどんな形で跳ね返るかです。建材商社のAI活用で先に手をつけるのは、この二つがどちらも大きい業務になります。
二つの軸を建材の商いに重ねると、線の位置はわりと明快です。内側に入るのは、工事の繁閑を見た在庫と仕入の計画です。同じ品目を、同じ季節の出方を見ながら毎月積み直しています。
施工会社ごとの与信枠の監視も同じで、枠の数え方は社内の規程に書いてあります。 材はいったん現場に降ろせば回収できません 。鋼材や木材の相場を見た見積価格の確認も、当て方が決まっています。
一方で、人が抱え続ける仕事もあります。品質クレームが出た現場での立会いです。割れや反りが材のせいか、施工の納まりのせいかは、 その場で現物と取り付け方を見ないと決まりません 。しかも直す費用を誰が持つかまで、その日のうちに話がつながります。
どこに線が引けるかは、扱う品目と取引先の顔ぶれで変わります。鋼材が主体の会社と、内装材が主体の会社では、繰り返している判断の中身が違います。自社の仕事を工程に割ってから当てはめるほかありません。次の章では、営業の引合から債権と採算の管理までを工程に割り、人手が最も要る場所を探します。
営業・引合から債権・採算まで、負荷が大きいのはどの工程か
建材商社の仕事は、一本の流れにはなっていません。引合を受ける営業、材を手当てする仕入、現場へ運ぶ物流、証明書と債権を押さえる管理が、別々の周期で回っています。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 営業・引合 | 施工性や適合性の問い合わせへの回答、サンプルと仕様承認の進み具合の追跡 | 中:仕様書の範囲で答えられる問いに限られます |
| 見積・積算 | 図面からの数量の拾い出し、相場を織り込んだ見積価格の組み立て | 大:品目ごとの値の当て方が文書で決まっています |
| 仕入・調達 | 工事の繁閑を見た在庫と仕入の計画、輸入建材の関税分類と基準適合の確認 | 大:入荷までの待ち時間と出荷の山が記録に残っています |
| ヤード保管 | 屋外に置いた材の雨濡れ・変形の見回り、置き場の割り当て | 中:見る項目は決まりますが、最後は現物を触ります |
| 現場配送 | 施工の工程に合わせた納品日の調整、現場での荷受け時間の詰め | 極小:搬入できるかはその日の現場が決めます |
| 品質・証明書 | 品質証明書と出荷ロットの突合、環境配慮建材の該当性の確認 | 大:突き合わせる相手が規格と認定の番号で定まります |
| クレーム対応 | 施工不良か材の不良かの切り分け、原因調査の記録の整理 | 中:記録を集めて並べるところまでを任せられます |
| 債権・採算 | 施工会社ごとの与信枠の利用状況の確認、取引先別の粗利の分析 | 大:数え方が与信規程と原価の台帳にあります |
八つのうち、人の手が最も長く止まるのは品質・証明書の工程です。件数ではなく、 求められる時期が納めた後にずれている ことが効いています。
建材商社は証明書を作る側ではありません。メーカーから受け取り、現場へ回す側です。施工会社が証明書を求めてくるのは、中間検査や竣工検査の日取りが決まってからで、材はとうに現場に入っています。
担当者はそこから、どの現場へ、いつ、どのロットを出したかを出荷記録で遡ります。同じ品目でもメーカーが違えば認定の番号が変わり、同じメーカーでも製造の時期でロットが分かれます。届いた証明書は紙とPDFが混ざり、現場名ではなくメーカーの伝票番号で並んでいます。
しかも 検査の日は動きません 。出荷のたびにロットと証明書が結び付いていれば、後から遡る作業そのものがなくなります。クレームが出たときに、同じロットの材がどの現場に入っているかも先に分かります。
現場配送を極小としたのは、AIの精度の問題ではありません。搬入路が空いているか、揚重の機械を押さえられるか、職人の手が足りるかは、現場に立った人どうしの電話で決まります。前もって文章にしておける部分が、ほとんどありません。
建材(商社)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
手をつける順番は件数の多さでは決まりません。第1章の二つの軸、繰り返しの回数と読み違えたときの跳ね返りが、どちらも大きい業務から入ります。在庫と仕入の計画、与信枠の監視、見積価格の確認です。
工事が動く時期から、仕入れの山を先に組む
動き出すのは月に一度、決まった日です。仕入・調達の数字として、AIが集めるのは、品目ごとの出荷実績、受注済みの現場の着工予定日、メーカーごとの入荷までの待ち時間、いまの置き場の在庫です。切らしてはいけない水準と屋外に置ける上限に照らし、来月以降の必要量を積み直します。
行き先は仕入の計画表で、品目ごとの必要量が上書きされます。増減の大きい品目は、仕入担当と営業所長に業務チャットで知らせが出ます。いまは前年の同じ月の数字を見ながら、担当者が勘で上下させています。 発注の前に、置き場に載るかどうかまで見られます 。
確かめるのは前年と大きく変わった品目です。近くで大きな現場が動く、終わるといった事情は社内の数字に出ません。発注の数量を最後に決めるのは、置き場を預かる仕入の責任者です。
工期の残りと手形の期日から、枠の余りを出す
債権・採算の工程で、売上が計上された時点と手形を受け取った時点の二つで動きます。AIが積み上げるのは、取引先ごとの与信枠と支払条件、未入金の売掛、受け取った手形の期日と金額、これから現場に降ろす受注残です。与信規程の数え方に沿って、会社ごとの残りを引き直します。
結果は与信の監視表に行が増え、枠に近づいた取引先は審査の担当と担当営業にメールが届きます。いまは月末の締めが終わってから、超えていたと分かることがあります。 現場へ出す手配をかける前に、残りが見えます 。
止める判断を持つのは審査の部門です。ただし建材は、現場に取り付いてしまえば引き上げられません。どこまで納め終わったかを見て、止める現場を選ぶのは担当営業です。
出したまま決まらない見積を、相場が動いた品目から洗い直す
三つ目は毎週決まった曜日に動きます。AIはまず、見積・積算で提出済みのまま、受注にも失注にもなっていない見積を並べます。そこへメーカーの改定案内、鋼材・木材・セメントの市中相場、見積の有効期限と着工予定日を重ね、いまの水準で引き直します。
引き直した結果は、開きの大きい案件から順に見積の一覧へ書き戻ります。有効期限が近く開きも大きい案件は、担当営業に業務チャットで届きます。いまは値上げの案内を見た担当者が、記憶にある案件だけを開き直しています。 提出から着工までが長い見積ほど、置いていかれます 。
見るべきなのは開きの出た行です。相場が動いたせいか、拾い出した数量が変わったせいかを分けます。出し直すか、この価格のまま通すかを決めるのは、その現場の採算を負う営業所長です。
業務に組み込むまでの4ステップ
一つ目の在庫と仕入の計画を例に最後まで通します。用意するのは新しいシステムではなく、社内にある数字の置き場所と動く順番を決めることです。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
計画に要る数字は、 すでに社内にあります 。
- 品目ごとの出荷実績が入る基幹の記録
- 受注済みの現場と、聞いている着工予定日
- メーカーごとの入荷までの待ち時間の一覧
- 屋外ヤードと倉庫の、品目別に使える面積
揃えるのではなく置き場所を一つに決めるだけです。最後の面積は担当者の頭にしかないことが多く、先に表へ起こします。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
人が思い出して開く形にはしません。合図は月末の売上が締まった日です。着工の予定が受注の記録に入った時点を足してもかまいません。
手が空いたときに回す形では、現場が立て込んだ月ほど後回しです。厚く持つか薄く持つかを決めたいのは、その月です。
3. 判断の基準を設定しておく
四つでいちばん日数を取られるのがここです。 仕入担当が経験だけで決めてきた線 を、文章にして一箇所にまとめます。
- 品目ごとに、切らせない水準をどこに置くか
- 未確定の着工予定を、どこまで見込みに入れるか
- 着工がずれたとき、仕入を止める品目と持ち越す品目の線
書き出すと、同じ品目でも担当者ごとに幅が違うと分かります。一度まとめれば、品目が増えても行を足すだけです。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
画面に出して終わりにはしません。戻すのは仕入の計画表で、前月から大きく動いた品目は、同じ表を見る営業所長にも知らせが届くようにします。
目を通すのは仕入担当で、メーカーへ発注をかける前です。決めずに走らせると、誰も開かない表が一枚できます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 別注・特注の材が計画から抜けます :建材の在庫には、定尺の品目に混じって、現場の寸法に合わせた別注材が入ります。品番が立たないので出荷実績にも積み上がらず、仕入の計画から丸ごと落ちます。受注の時点で別注の印を持たせ、計画の対象から外して人が別に手配する形にします。
- 認定の適合判断まで持たせないこと :防火や耐火の建材は、大臣認定の番号ごとに使える下地や厚みの組み合わせが決まっています。ここを外すと建物が検査に通りません。認定書と納品の品番を並べるところまでに留め、適合の可否は技術の担当が引き受けます。
- メーカーの品番改定で突合が止まります :建材メーカーは仕様変更や統合で品番の体系を組み替えます。旧品番のまま記録が残っていると、証明書と出荷ロットが結び付かなくなります。改定の案内が届いたときに、誰が対応表を直すかを先に決めておきます。
建材(商社)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章では、現物と取り付け方をその場で見ないと決まらない仕事は人が抱える、と書きました。逆から言えば、 突き合わせる相手が社内の記録と規程の中にある業務 は、仕組みの側に置けます。今回の三つは、どれもそこに当たります。
三つを同時に走らせる理由はありません。出荷の本数がいちばん多い品目を一つ決めて、その品目だけで入口から出口まで組んでみるのが現実的です。新しく集める数字もほとんどありません。過去の出荷記録も与信の台帳も見積の控えも、 基幹の記録と営業所の表計算の中に残っています 。

