家電(商社)に、そもそもAIは必要なのか
家電卸でAIを入れる値打ちが出るかどうかは、二つ数えれば見当がつきます。一つは、同じ型の判断を月のうちに何回しているか。もう一つは、それを外したときに、代金を払った台数がどこで止まるかです。
買い取って持つ商売なので、読み違えた分は倉庫に残ります。回数が多く、損が自社に残る業務から手をつけます。
重なるのは、 台数と値段を動かす仕事 です。
- 入荷が足りない機種を、量販チェーンの本部と地域の電器店にどう回すか
- 生産終了の案内が来た機種を、どの店の棚から後継機に替えるか
- 動きの止まった機種を、いつ、どこまで下げるか
どれも社内に残る出荷と在庫の記録から組み立てます。見に行く先は、機種が替わっても同じ場所です。
人が持ち続けたほうがよい仕事もあります。地域の電器店の店主から「この客にどれを勧めていいか」と電話で相談される場面です。その家の間取りや、前に入れた製品まで知っている人でないと答えが出ません。
不具合が広がったとき、どの店に何をどこまで知らせるかも同じです。知らせ方ひとつで店との付き合いが変わるため、最後は人が引き受けます。
どこに線が引かれるかは、会社ではなく業務ごとに違います。量販チェーンに納める仕事と、電器店へ一台ずつ納める仕事では、同じ機種でも判断の重さが変わります。 自社の仕事を工程に割ってから当てはめないと、線は決まりません 。次の章では、仕入交渉から適合・回収までを順に並べます。
仕入交渉から適合・回収まで、負荷が大きいのはどの工程か
家電卸の仕事は、機種を仕入れる線と、販路ごとに注文を受ける線と、修理や届出を引き受ける線が同時に動いています。工程に割ると、手順の決まったものと、相手ごとに毎回組み直すものが混ざっているのが見えます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 仕入交渉 | メーカーとの年間の取引条件と数量の取り決め、新製品を扱うかどうかの判断 | 極小:条件は相手の事情と過去の経緯で毎回変わる |
| 新製品導入 | 量販チェーン本部への導入提案と棚割りの提示、競合の発売情報の整理 | 中:他社の機種と前の型の売れ方を並べる下地は先に組める |
| 値決め・採算 | 仕切価格の改定、型落ち・在庫過多になった機種の下げ幅と時期の判断 | 大:動きの止まった機種を、値が落ちきる前に名指しできる |
| 世代交代 | 生産終了の案内の受け、後継機への置き換え提案、最終発注の取りまとめ | 大:型番のつながりと店別の取り扱いを突き合わせられる |
| 受注・配分 | 量販本部の一括発注と地域電器店の個別注文の受け、入荷不足時の台数の割り振り | 大:社内の取り決めに沿った配分の案が先に出る |
| 店頭支援 | セット商品の組み合わせ提案、訪問報告の集約、販促の効果の整理 | 中:店から上がる言葉から要望の重なりが見えてくる |
| 返品・修理対応 | 不良品の引き取りと原因の集計、保証・修理の記録の整理 | 中:同じ症状の続きを拾い上げられる |
| 適合・回収管理 | 技術基準適合証明書の期限の管理、家電リサイクル法にもとづく回収実績の集計 | 小:期限と件数は追えるが、届出の中身は人が確かめる |
人の時間と神経がいちばん集まるのは、新製品導入です。
家電は同じ用途の機種が年に何度も入れ替わります。ところが量販チェーンの棚は面積が決まっていて、 一度外れた機種は、その店で次の改定まで戻せません 。商談は一回ごとに勝負がつきます。
担当者の手を止めているのは、提案書を清書する作業ではありません。 その一回に持ち込む根拠を集める作業 です。競合ブランドが同じ価格帯に何を出してきたか、前の型がその店でどう売れたか、省エネの表示や機能がどこで違うか、販促にいくら乗せられるか。これを機種の数だけ、チェーンの数だけ繰り返します。
ここが早く固まると、後ろの工程が軽くなります。棚に載る機種が決まっていれば、入荷が足りないときに取り合う対象も絞れます。
「極小」とした仕入交渉は、メーカーと年間の取引条件を詰める工程です。前の年にどちらが売れ残りを引き受けたか、次の新製品を先に回してもらえるかまで含んだ交換なので、過去の条件表を並べても順番がつきません。
家電(商社)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
三つとも、判断は込み入っていないのに回数だけが多い仕事です。機種の数と店の数を掛けた分だけ戻り、一つ外すごとに買い取った在庫が寝ます。第1章の、回数と損の二つの数え方が強く当たります。
量販の本部と地域の電器店に、限られた台数を配り分ける
動き出すのは、メーカーから入荷の確定数が届いた日です。予約分に届かない機種が新製品のたびに出ます。AIはチェーン本部からの一括の注文と、電器店が一軒ずつ出す注文、直近の売れ方を読み、社内で決めた取り置きの目安に照らして案を組みます。
案は在庫の一覧に出荷指示の下書きとして並び、その販路を持つ営業に業務チャットで知らせが出ます。いまは物流が受付の順に引き当て、そのあと営業が電話で調整しています。順が先にあれば、電話は減らした分の説明で済みます。
営業が引き取るのは、削った店への言い方と、追加に備えて何台残すかです。本部の枠を欠かすのと、地域店の常備を切らすのとでは、後に残るものが違います。 どちらを先に満たすかは、その販路の営業が決めます 。
棚に載った型番を、生産終了の前に後継機へ差し替える
メーカーから生産終了の案内が届いた時点で動きます。AIはその型番の店別の出荷記録、棚に載せている店の一覧、後継機との仕様の差、各店に残る台数を読み、社内の置き換えの見方に照らして店ごとの対応表を起こします。
出てくるのは、店別に「この型番はこれに替わる」と並べた一枚と、締め日までに勧める台数です。ファイル保管サービスの担当者ごとのフォルダに保存されます。いまは案内を受けた担当が、覚えている店から順に当たっています。表が先にあれば、締め日を越えて慌てずに済みます。
営業が確かめるのは、後継機との価格差の説明の仕方です。据え置きで通る店と、差額を販促で埋めないと動かない店があります。 置き換えを勧めるか、旧機種で引っ張るかは、その店を回る営業の判断 です。
動きの止まった機種の下げ時を、次の商戦の前に見計らう
三つ目は、外からの知らせではなく在庫の側から動きます。毎週決まった曜日に、AIが機種ごとの滞り方を集め、社内で引いた在庫日数の線を越えたものを抜き出します。似た価格帯の機種を前に下げたとき、どこまで下げて何週で捌けたかも並べます。
並ぶのは、下げ始める週と、そこまでなら採算が残る線です。採算の表に行が足され、商品部の担当に知らせが届きます。いまは決算を前に倉庫から報告を受け、まとめて処理しています。先に出れば、新生活や年末の商戦に間に合う時期から下げられます。
担当が見るのは、その機種が量販の売価に直結するかどうかです。仕切を下げた分は店頭に出るので、電器店が同じ機種を定価で売っている間は動かせません。 どちらの販路から先に下げるかは、商品部の責任者 が決めます。
業務に組み込むまでの4ステップ
例に取るのは三つ目、下げ時の見計らいです。組むのは新しいシステムではありません。倉庫の在庫表と販路ごとの売れ方の報告を、いまの表計算ソフトの上でつなぎ直します。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
下げ時に使う数字は、三か所に分かれています。
- 倉庫の在庫表にある、機種ごとの入庫月と残り台数
- 量販チェーンから届く販売の報告と、電器店への出荷の履歴
- 過去に下げた機種の、下げ幅と売り切るまでの週数
集めてくるものはありません。報告がメールの添付で届くなら、表の側に取り込みます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
合図は毎週の決まった曜日です。入荷や案内を待つ形は合いません。下げ遅れは動かない週が積み重なって起きるからです。思い出したとき開く形では、決算の前しか動きません。
3. 判断の基準を設定しておく
四つの中で、ここだけは腰を落ち着ける時間が要ります。値決めを長くやってきた人が、在庫の一覧を眺めて「これはもう下げる」と言い当てている 線を、文章にして一箇所に設定しておく 作業だからです。
- 何か月動かなければ下げる側に回すのか。品目で線を変えるのか
- 後継機の発表が先か、在庫日数が先か。どちらを重く見るか
- 量販の売価に響く機種と、電器店が定価で売る機種で、下げ方をどう変えるのか
一度書いたものは、機種が入れ替わっても効きます。書いてみると、値決めの線が担当者ごとにずれていたと分かります。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
戻す先は 採算の表 です。下げ始める週と下げ幅の候補を行に足し、商品部の担当に業務チャットで知らせます。開くのは、次の商戦の条件をメーカーと詰める前です。どちらの販路から下げるかは、そこで直します。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 販売の報告が、販路でそろっていません :量販チェーンからは本部が束ねた形で届き、地域の電器店からは自社の出荷の履歴しか残りません。同じ機種でも数え方が違うので、配分も下げ時も片方の数字だけで決まります。販路ごとに何が取れるかを先に書き出し、取れない側は出荷の履歴で代えると決めておきます。
- 色違い・容量違いが、一つの機種に丸められます :同じシリーズでも色や容量で型番が枝分かれし、売れ残るのは決まって特定の一色です。シリーズでまとめて見ると、その一色が平均に埋もれます。型番の枝まで残した形で在庫を持ち、置き換えの表も枝ごとに出します。
- 販促の負担が、仕切価格の欄に出ません :チェーンに出す販促の費用や、後継機への切り替えで引き受けた値引きは、仕切の数字には残りません。採算が残る線を仕切だけで引くと、実際には割っていた、ということが起きます。機種ごとの負担を同じ表に並べてから線を引きます。
家電(商社)のAI活用は、どこから考えればいいか
値打ちが出る業務と、人が抱えたままにする業務の境目は、第1章で引きました。三つを選んだ理由は同じところにあります。台数も値段も、答えの手がかりが社外ではなく、 自社が払った仕入と、自社が出した出荷の記録 の側に落ちているからです。
全部を並行して始めるものではありません。まずは色と容量で枝の多い機種群を一つ決めて、そこだけで一巡させれば十分です。そのとき手を伸ばす先は、倉庫の在庫表と、販路から毎週上がってくる報告です。 どちらも今すでに社内で動いているもの です。

