スポーツ・レジャー用品(商社)に、そもそもAIは必要なのか
スポーツ用品商社のAI活用を考えるとき、先に数えるものが二つあります。その判断が一か月のあいだに何度めぐってくるか。そして、外したときの後始末をどこが被るかです。
この業種では、外した判断は 翌シーズンまで動かない在庫 になって倉庫に残ります。回数が多く、後始末の重い業務から手をつけます。
重なるのは、 本数と値段を決める仕事 です。
- 受注会で、小売店ごとに何本発注すべきかを出す仕事
- 入荷した本数を、どの店に何本ずつ回すかを割り振る仕事
- 後継モデルが出た旧年式を、いつどこまで下げるかを見立てる仕事
どれも前のシーズンの実績と、店ごとの売れ方の記録を見て組み立てています。見る資料の置き場所は、年が変わっても動きません。
前に出さないほうがよい仕事もあります。ブランドの本社と、翌シーズンの最低仕入本数と独占の範囲を詰める場面です。何年つき合ったか、去年どちらが売れ残りを引き受けたかまで含んだ話です。
大会の主催者と、どの種目にどこまで協賛を出すかを判断する場面も同じです。その年の枠だけでなく、翌年以降の出展位置の取り合いまで見て答えを出します。
どこで線を引くかは、会社単位ではなく業務単位で動きます。冬物の板やブーツを先物で抱える仕事と、通年のシューズを補充する仕事では、同じ会社の中でも位置が変わります。自社の業務を一度工程に分けて当てはめないと決まりません。次の章で、仕入計画から保証・修理までを並べて見ます。
仕入計画から保証・修理まで、負荷が大きいのはどの工程か
スポーツ用品商社の一年は、翌シーズンの仕入枠を固めるところから始まり、売れ残りの処分で終わります。順に見ていくと、毎年同じ手順をなぞる工程と、その年限りの事情でしか動かない工程が分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 仕入計画 | ブランドごとの翌シーズンの仕入枠決め、競合の新製品と店頭価格の調べ、素材と機能の比較資料づくり | 中:他社の動きを並べるところまでは先に片づく |
| 展示受注 | 受注会での先物受注の取りまとめ、小売店ごとの推奨本数の提示、試打・試用機材の貸出と回収 | 大:前年の売れ方から推奨本数の素案が起こせる |
| 輸入・適合 | 関税分類の確認、技術基準への適合確認、安全基準の証明書とサイズ表記の管理 | 大:素材と用途の組み合わせから、当たる基準を並べられる |
| 入荷・配分 | 入荷検品、小売店ごとの出荷本数の割り付け、欠品が出たときの振り替え | 大:受注の残と店の売れ行きを突き合わせた案が出る |
| シーズンイン販促 | 大会協賛と連動した企画、選手・チームの露出の整理、大会会場や展示会への出展 | 極小:どの大会にどこまで乗るかは主催者との関係で決まる |
| 値下げ・処分 | 型落ちになった年式の下げ時期と幅の判断、取引先別・カテゴリ別の粗利の整理 | 大:後継モデルの発売日を起点に、下げ幅の候補が並ぶ |
| 保証・修理 | 修理で戻った用具の記録の整理、返品・不良の原因のまとめとメーカーへの返し | 中:同じ部位の壊れ方が続いていないかを拾える |
人の時間と神経がいちばん集まるのは、意外にも入口の仕入計画です。
スポーツ用品は、売れる時期を天気が握ります。雪が少なければ板もブーツも動かず、梅雨が長引けばランニングのシューズが止まります。ところがブランドの生産枠は、シーズンの半年以上前に締まります。
ここで担当者が背負うのは、見込みでも推奨でもありません。 自社が買い取る本数 です。買い取った分はそのまま倉庫に入り、売れなければ翌年の型落ちになります。メーカーなら作る数を後から削れますが、 卸には削る先がありません 。
手が止まるのは表を作る作業ではなく、 根拠を集める作業 です。前シーズンの店別の実績、返品の出方、競合が同じ価格帯に何を置いてきたか、為替と船賃。これを品番の数だけ繰り返します。
ここが先に固まると、受注会に持ち込む資料が前年の数字で組めるようになります。入荷後の配分も、余りを見越した本数から始められます。
「極小」としたシーズンイン販促は、どの大会に乗り、どの選手に用具を託すかを選ぶ工程です。競技団体や主催者と話しながら翌年以降の枠まで含めて詰めるもので、過去の露出の数字だけでは順番がつきません。
スポーツ・レジャー用品(商社)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
先に手をつけるのは、シーズンのたびに戻ってきて、外すと自社の在庫が動かなくなる仕事です。第1章の二つの見方を当てると、本数と値段にかかわる三つです。工程では入荷・配分、値下げ・処分、展示受注です。
入荷が足りない品番を、店ごとの本数に振り分ける
動き出すのは、ブランドから入荷確定の連絡が入った日です。先物受注で約束した本数に届かない品番が、毎シーズン生じます。AIは先物受注の残数と店ごとの週の動き、前年に同じ品番をどこが売り切ったかを読み、社内で決めた優先の順に照らし、店別の出荷本数の案を組みます。
案は出荷指示の下書きとして在庫の一覧に行が増え、担当営業に業務チャットで通知が出ます。これまでは物流が受注の順に切り、営業があとから掛け合っていました。案が先にそろえば、掛け合いの前に配る形が決まります。
営業が引き取るのは、減らした店への伝え方と、期中の追加に何本残すかです。削った分を次の入荷で埋めると約束できるかは、 そのブランドを預かる担当の判断 です。
後継モデルが出る前に、旧年式の下げ時を見定める
板もクラブも自転車も、後継モデルが発表された時点で前の年式は別物になります。起点は、ブランドから新モデルの発売日と価格の案内が届いたときです。AIは倉庫に残る年式ごとの本数と入庫月、過去に同じカテゴリで下げたときの下げ幅と売り切りまでの週数を並べます。
出てくるのは、品番ごとの「いつから、いくらまで」の候補です。採算の表に列が増え、カテゴリの担当に通知が届きます。いまは小売店から値引きの相談が来てから調べています。候補が先に出れば、相談を受ける側から出す側に回れます。
担当が確かめるのは、下げ幅がメーカーの販売協力金の相談に上げる線を越えていないかです。同じ年式でも定番色は据え置いて通ります。 値をどこまで下げるかの決裁は、カテゴリの採算を負う担当 が持ちます。
受注会で出す推奨本数を、前年の売れ方から積み上げる
三つ目は、決める人がこちら側にいない点が他の二つと違います。発注するのは小売店で、こちらは数字を持ち込む側です。受注会の日程が固まった時点で動きます。AIは店ごとの前シーズンの販売実績と売れ残り、売場の大きさ、その地域のゲレンデの開場時期と気温の記録を読みます。
出るのは、店別・品番別の推奨本数を並べた商談資料です。ファイル保管サービスの案件フォルダに保存され、営業に知らせが届きます。いまは営業が前年の伝票をめくって手で起こしています。資料が先にあれば、商談はその数字を直すところから始まります。
営業が目を通すのは、その店が去年とは違う売場を作ろうとしていないかです。改装や取扱ブランドの入れ替えは前年の数字に出ません。本数をいくつで受けるかを決めるのは、 相手のバイヤー です。
業務に組み込むまでの4ステップ
一つ目の、店ごとの本数への振り分けで通します。開発の話ではありません。ブランドから届く入荷の連絡と、店から上がる売れ行きの報告を、同じ表の上でつなぎます。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
使うものは、もう社内にあります。
- 受注会で取った先物受注の明細と、その後の追加・取消
- 小売店から週ごとに届く販売報告と店頭の残り本数
- 前シーズンの店別の返品と引き取り実績
作り足すのではなく、どこに置くかを決めます。販売報告がメールの添付のままなら、表に写します。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
合図は、ブランドから入荷確定の連絡が届いたときです。曜日を固定する形は合いません。連絡は船と通関の都合で前後するためです。思い出して開く形にすると、立ち上がりと重なって後回しになります。
3. 判断の基準を設定しておく
振り分けの順を何で判断しているのかを、文章にして一箇所に設定しておきます。配分を長くやってきた人が、 店の名前を見た瞬間に当てている線 です。
- 先物で約束した本数と、期中の追加の要望と、どちらを先に満たすか
- 同じ品番を複数の店が欲しがったとき、何を見て順をつけるか(前年の売り切り方か、売場の大きさか)
- 期中の追加に備えて、何本を手元に残すか
四つのうち、ここだけは腰を据える時間が要ります。担当者で線の引き方が違うことも、書き出して初めて分かります。書いたものは翌年も効きます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
戻す先は在庫の一覧です。振り分けの案を出荷指示の下書きとして行に足し、その店を持つ営業に業務チャットで知らせます。開くのは 物流が出荷を切る前 です。減らした店への連絡と残す本数を、そこで直します。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 店から届く販売報告の様式が、店ごとに違います :品番の書き方がメーカーの型番だったり店の社内コードだったりして、チェーンを一つ増やした週に振り分けが止まります。新しい取引先を開くときに、品番の対応表を先に足しておきます。
- 大会や地域クラブ向けに押さえた本数が、通常の在庫と同じ顔で並びます :渡す約束のある分まで他店に回る案が出ます。確保した本数には在庫表の側で印をつけ、振り分けの対象から外す設定にします。
- 天候の先読みそのものを出させてしまいます :雪の量や梅雨入りは、外れたとき誰も検算できません。使うのは過去のシーズンに実際どう動いたかの記録までとし、この冬が暖冬かどうかの見立ては人が持ちます。
スポーツ・レジャー用品(商社)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章で分けたのは、前のシーズンの記録を見れば同じ手順で決まる仕事と、相手の顔を見ながらでないと決まらない仕事でした。今回の三つは、どれも前の側にあります。決め手の数字が、 自社の受注明細と店から届く報告 の中にすでに残っているためです。
三つを一度に抱える必要はありません。板やシューズのように品番が多いカテゴリを一つ決めて、そこだけで回すのが早道です。受注会の明細も、店から届く週ごとの報告も、倉庫の在庫表も、 今シーズンすでに手元で動いているもの です。買いそろえる段取りは要りません。

