ゲーム(商社)に、そもそもAIは必要なのか
どの業務にAIを入れるかは、二つの問いで決められます。同じ判断が一か月に何度戻ってくるか。そして、その判断を外したときに、損が誰のところまで広がるかです。
両方が大きい業務ほど、仕組みにした効き目が出ます。
ゲーム卸のAI活用を考えるとき、この二つを当てはめると、線は思ったよりはっきり出ます。効くのは次の仕事です。
- 小売店から戻ってくる在庫に、引き取る値をつける仕事
- 発売日や仕様の変更が来たときに、予約と手配を振り直す仕事
- 年齢区分と箱の表記が、審査で下りたとおりかを見る仕事
契約に書いた返品の条件、店ごとの予約の数、過去に審査を通した表記の控え。 照らす先は、どれも自社の中にあります 。
反対に、まだ世に出ていない新作が何本売れるかの読みは、人の側に残ります。前作の数字も他社の数字も当てになりません。試遊の手ごたえと、発表したときの反応から決める仕事です。
出荷した品に不具合が出たあと、小売店とどこで折り合うかも同じです。 その店の事情とこれからの取引 を見ながら、人が引き受けるほかありません。
線を引く単位は、会社ではなく業務です。同じ小売店との取引の中にも、契約の条文と記録で答えが出る仕事と、相手の出方でその都度変わる仕事が隣り合って並んでいます。
そこで、自社の仕事を工程ごとに割って眺めます。次の章では、タイトルの情報を集めるところから精算までを一列に並べ、負荷がどこへ寄っているかを見ます。
タイトル情報から精算まで、負荷が大きいのはどの工程か
この商売は、 発売日という一点 に全部が寄っていきます。仕入も配分も販促もそこへ向けて前倒しで動き、発売を過ぎると実売と返品が逆向きに戻ってきます。工程に分けると、その前後で負荷の質が変わることが見えます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| タイトル情報 | メーカーの発売予定と仕様の把握、レーティングの区分と箱の表記の確認、海外版の言語対応の確認 | 中:発表の内容を社内の登録様式へ落とすところまで |
| 予約受注 | 小売店からの予約数の取りまとめ、発売日と仕様の変更の受発注への反映 | 大:変更が及ぶ注文と手配を残らず並べられる |
| 初回配分 | 小売店別の初回出荷数の割り付け、限定版・同梱版の数量の振り分け | 中:過去の実績から配分の案までは出せる |
| 販促手配 | 販促物の配布先の管理、配信者へのサンプル提供の記録、展示会の出展効果の整理 | 小:配布と提供の記録の整理にとどまる |
| 発売・出荷 | 発売日に合わせた全店一斉の着荷の手配、解禁日までの情報の管理 | 極小:段取りが運送側の都合でその場で組み替わる |
| 実売追跡 | 発売後の実売数の集計と予約数との乖離の確認、追加生産の判断資料づくり、中古の買取相場の把握 | 大:毎日の数字を決まった形へ並べ直せる |
| 返品・買取 | 小売店から戻る在庫の査定、買取の処理資料づくり | 大:状態の区分と掛け率の当てはめが型どおりに決まる |
| 精算 | ロイヤリティの計算と支払明細の確認、タイトル別・チャネル別の粗利の整理 | 中:計算と突き合わせは寄せられるが控除の扱いは個別 |
発売してから最初の数週間に、担当者の時間がいちばん集まります。
パッケージのゲームは、発売直後の数字で大勢が決まります。ところが追加の生産をかけるには、ディスクやカートリッジを作って箱に詰める期間が要ります。メーカーが追加分の受付を締めるのは、実売がまだ数日ぶんしか見えていない時点です。
担当者はその短い窓のあいだに、店別の実売、残っている予約、小売店から入ってくる追加の要請、そして早くも動き始める中古の買取相場を、同時に見ることになります。
読みが足りなければ店頭が欠品し、多めに取れば数か月後に返品と買取の相談になって戻ってきます。 どちらに外しても跳ね返りが来る のが、この工程の性質です。
毎日の数字が決まった形で並ぶようになれば、担当者は集計ではなく判断に時間を使えます。後ろの返品・買取の工程へ戻ってくる量も、その分だけ減ります。
極小とした発売・出荷は、全国の店へ同じ日に着けるための段取りが中心です。運送の混み具合や店ごとの受け入れ時間で組み替えが入り、先に書き留めておける決まりがほとんど残りません。
ゲーム(商社)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
先ほどの工程表のうち、繰り返しの回数と外したときの損が両方大きいところに、この三つは集まっています。戻ってきた在庫の値づけ、発売日と仕様の変更への対応、年齢区分と箱の表記の点検です。
小売店から戻る在庫に、荷を解く前に値をつける
動き出すのは、小売店から返品の申請が届き、現品が入荷の検品に載った時点です。AIが照らすのは、その店との契約に書いた返品と買取の条件、タイトルごとの仕切単価と発売からの経過、箱と説明書の状態の区分、そして過去に同じ条件で引き取ったときの値です。
出てくるのは、品番ごとの引取額と 掛け率を当てた根拠 を並べた査定の明細です。返品受領の記録として残り、物流の担当には仕分けの指示が同時に届きます。いまは担当者が契約書を開き直し、品番ごとに電卓を叩いています。荷を解いた日のうちに値が出る形になります。
明細に目を通して引取額を確定するのは、その店の担当営業です。再出荷に回せないほど傷んだ分をどう扱うかは、商品部の受け持ちです。
発売日と仕様の変更を、予約と手配に引き直す
メーカーからの案内が所定のフォルダに保存された時点が合図になります。AIはその文面から、対象のタイトルと変わった中身、新しい発売日を読み取ります。
突き合わせる先は、確定済みの予約数、小売店へ出した店着日の連絡、押さえてある販促物の投入日と同梱版の構成、そして何日以上のずれで予約の取り直しと販促の差し替えに回すかを書いた社内の取り決めです。
影響を受ける注文と手配が、一覧に行として積み上がります。いまは連絡を受けた担当が、予約の表と販促の予定表を別々に開いて拾い直しています。 どこに何件の手直しが要るか が、案内を読んだその日に出そろいます。
小売店へいつ知らせるか、予約をそのまま残すかは、担当営業が一覧を見て決めます。延期に伴う費用をメーカーとどう分け合うかは、仕入の責任者の領分です。
年齢区分と箱の表記を、刷る前の確認表に起こす
起点は、審査の結果が届いた日と、入稿の期日が近づいた日の二つです。AIが読むのは、審査で下りた年齢区分と表現の区分、箱と帯に入れる表記の決まり、入稿前のデザインの版、過去に指摘を受けて直した記録です。
出来上がるのは、表記すべき項目ごとに有無と位置を一覧にした確認表で、文書として保管されます。いまは担当者が見本と規定を見比べ、目で追っています。 刷り直しや貼り替えになる抜け が、入稿の前に表の形で見えます。
確認表の最後の目視は商品担当が行います。表記の責めは発売元と自社の双方に及ぶため、区分に疑義が残る表現を審査側へ問い合わせるかどうかは、上長と相談のうえです。
業務に組み込むまでの4ステップ
通して説明するのは、一つ目に挙げた返品の査定です。新しい仕組みを買う話ではなく、社内のツールと記録をつなぐ段取りです。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
査定に使うものは社内のどこかにあります。新しく起こす必要はなく、 どこに何があるかを決めておく だけです。
- 小売店から届く返品の申請と、検品で付けた状態の記録
- 返品と買取の条件を書いた取引の契約書
- これまでの買取実績を残した表計算のファイル
契約書は担当者の手元に散りがちなので、ファイル保管サービスへ集めます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
起動のきっかけは、担当者の記憶ではなく業務の出来事に置きます。返品の申請フォームが送信された時点、または現品が検品を通った時点です。
ここを決めずにおくと、忙しい月ほど手つかずで残ります。
3. 判断の基準を設定しておく
四つのうち、いちばん手が止まるのがここです。何をもっていくらと見るのかを、先に文章にして一箇所へまとめます。長く査定をしてきた人が 口に出さないまま使い分けている線 を、外へ書き出す作業です。
- 発売から何か月たったタイトルを、どの掛け率に置くのか
- 箱の角つぶれ、帯の欠け、包装の破れを、どの状態区分に入れるのか
- 中古相場が新品の仕切りに近づいたタイトルは、どこから引き取らずに返すか
書き出すのは一度きりで、タイトルが増えても同じ文書が効きます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
査定の結果は品番ごとの行として表計算ソフトに積み、返品受領の記録として保存します。物流の担当には、再出荷と処分の仕分けが業務チャットで飛びます。
小売店へ金額を返す前に、その店の担当営業が目を通します。その順番も先に固めます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 案内の様式がメーカーごとに違う :発売日や仕様の変更は、会社ごとに知らせ方が違い、同じ会社でも担当者が替われば書き方が変わります。読み取りが外れたまま一覧が出ると、手直しの漏れに気づけません。案内の受け口を一つにまとめ、読み取れなかったものは未処理の行として残す設定にします。
- 限定版と特典違いの品番が、一つにまとめられる :同じタイトルでも通常版、同梱版、店舗別の特典付きで品番が分かれ、返品の条件も配分の枠も別々です。タイトル名だけで束ねると、特典だけ違う品番が取り違えられます。枝番まで見る設定にし、同梱版は別の枠で扱います。
- 解禁前のタイトル情報が、社外に触れる場所へ出る :発売前の名称や仕様、発売日は、メーカーとの取り決めで解禁日まで出せません。読ませる情報の保管先を通常の案件と同じ場所にすると、この取り決めに触れます。解禁前は保管先と閲覧できる人を分けておきます。
ゲーム(商社)のAI活用は、どこから考えればいいか
はじめに、繰り返しの多さと、外したときに損がどこまで広がるかで線を引きました。契約書と記録の中に 答えの手がかりが残っているもの は内側、前例のない新作の売れ行きを読む場面や、不具合が出たあとの折り合いを探す場面は外側です。今回の三つは、いずれも内側の深いところに入ります。
全部を一度に立ち上げる必要はありません。先月いちばん手を焼いた一つを選べば、それで足ります。返品の伝票も、予約の数字も、取引の契約書も、すでに社内にあるものばかりです。 買い足すものは、ほとんどありません 。

