SMOに、そもそもAIは必要なのか
AIを入れる値打ちがあるかどうかは、2つの軸で決まります。同じ判断を月に何度繰り返しているか。そして、その判断を誤ったとき、被験者と治験の記録に何が起きるか。
SMOのAI活用を考えるときも、この2つがともに大きい業務から見ていくのが順番です。
この軸に当てはめると、AIが効くのは次のような業務です。
- 次回来院日を、プロトコルが定める許容期間の内側に収める調整
- 診療科から挙がった候補者を、選択基準と除外基準の項目に当てはめる一次確認
- 依頼者と治験責任医師に出す進捗報告の、症例の内訳の集計
どれも、 プロトコルと院内の取り決めに書かれた条件 を、被験者ごとに何度も照らし直す作業です。
反対に、被験者への同意説明の場と、来院時に聞き取った体調の変化をどう記録に残すかの見極めには、AIを入れないほうがよいと考えます。
前者は、質問の仕方や表情から理解の程度を確かめながら進め、 説明した本人が記録に名前を残す 場です。
後者は、被験者の言葉のどこが有害事象に当たるのかを、その場のやりとりの文脈ごと受け止める必要があります。
この線引きは、業務単位で変わります。同じ有害事象でも、報告の様式に沿って記載漏れを拾う作業と、重篤かどうかを医学的に見極める作業とでは、向き不向きが逆になります。次のセクションで、治験を受託してから終わるまでの流れに沿って、工程ごとに見ていきます。
受託検討から終了・保管まで、負荷が大きいのはどの工程か
SMOの業務を、1つの治験を受託してから終わるまでの流れで分けると、工程ごとにAIの効き方がはっきり分かれます。文書に書かれた条件を照らす工程と、被験者の前に立つ工程とで、性質が正反対だからです。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 受託検討 | 依頼者からの事前調査への回答、施設の受入体制の確認 | 中:過去の受入実績に照らした整理まで |
| 治験立上げ | 治験審査委員会に出す資料の準備、同意説明文書の平易化 | 大:プロトコルと院内様式の突き合わせを任せられる |
| 候補者抽出 | 診療科から挙がった候補者の、選択・除外基準への当てはめ | 大:基準の項目ごとの仕分けを任せられる |
| 同意取得 | 被験者と家族への説明の場への同席、同意書の受領と記録 | 極小:理解を対面で確かめる場は代われない |
| 来院対応 | 次回来院日の調整、事前の連絡、治験薬の交付への立ち会い | 大:許容期間の割り出しと文面の下書きを任せられる |
| 記録・入力 | 原資料から症例報告書への転記、記載不備の確認 | 大:様式に沿った照合を任せられる |
| モニター対応 | CRA訪問時の原資料の準備、依頼者への進捗報告 | 中:報告書の下書きまで。現地での確認は人が担う |
| 終了・保管 | 治験関連文書の保管状況の確認、監査に向けた資料の整理 | 中:一覧との突き合わせまで |
最も負荷が集中するのは 来院対応 です。来院日が三方から挟まれるためです。プロトコルは来院の間隔と許容期間を定めており、施設の外来枠と検査枠は曜日で埋まり、被験者には仕事や他科の通院の都合があります。
CRCが時間を使っているのは、日程を決める場面そのものより、その手前の条件の割り出しです。被験者ごとに初回投与日からの経過を数え直し、今回の来院で必要な検査と、絶食や併用薬の持参といった事前の準備を拾い出します。
しかもCRCは、複数の治験と複数の被験者を掛け持ちしています。治験が変われば許容期間の決まりも準備の中身も変わるため、 条件を頭の中で切り替えながら 一件ずつ組み直すことになります。
ここが整うと、前後の工程も変わります。来院がずれる兆しが早く見えれば、逸脱として扱う前に日程を寄せられます。検査枠を前もって押さえられれば、当日の記録・入力の段取りも崩れません。
同意取得を「極小」としたのは、被験者が治験の内容を本当に理解したかどうかを、質問への答え方や表情から確かめる場だからです。ここは説明した本人が記録に名前を残す工程でもあり、肩代わりできる部分がありません。
SMOで最初に取り組むべきAI活用、3つ
手をつける順番は、第1セクションの2つの軸で決まります。何度も繰り返していて、なおかつ誤ると治験の記録そのものに傷がつく業務が先です。次の3つは、どちらの軸でも高く出ました。
次回来院日の候補を、許容期間を切る前に出す
来院対応の工程です。被験者が来院し、その日の記録を被験者別の一覧に入力した時点で動き出します。
AIが見るのは、プロトコルに定められた来院間隔と許容期間、その被験者の初回投与日と前回来院日、施設の外来枠と検査枠の曜日です。
次回来院の許容期間を割り出し、枠の空いた候補日を並べ、その来院で必要な準備を織り込んだ連絡文面を下書きします。
結果は被験者別の一覧に、次回候補日と期限の行として戻り、期限が近づいた被験者の担当CRCに業務チャットで知らせが届きます。手控えと外来の予約画面を往復して数え直す段階がなくなり、候補日を被験者に当たるところから始められます。
候補日が被験者の都合と合うかは、担当CRCが確かめます。どうしても許容期間に収まらないとき、 逸脱として扱うかを決めるのは治験責任医師 です。
進捗報告の下書きを、報告日を待たずに用意する
2つ目は、きっかけが人の操作ではありません。モニター対応の工程で、依頼者への定例報告の数日前、毎月決まった日に動きます。
AIが読むのは、被験者別の一覧に記録されたスクリーニング・同意取得・登録・中止の別、症例報告書の入力状況、その月に記録された有害事象、依頼者が指定した報告書の様式です。
症例の内訳を様式に沿って集計し、前月からの増減と未回答のクエリの状況をまとめます。
下書きは文書としてファイル保管サービスに保存され、担当CRCと治験事務局に知らせが届きます。月末に一覧と入力画面を突き合わせる作業が、数字の裏づけを確かめる作業に変わります。
原記録と数字が合っているかは、CRCが確かめます。有害事象の記述は、 治験責任医師の名前で出る文書 として医師が目を通します。
候補者の適格性を、医師に上げる前に一次で絞る
候補者抽出の工程では、診療科の医師が被験者識別コードと該当する検査値を入力フォームで治験事務局に送った時点が起点になります。
AIは、プロトコルの選択基準と除外基準を項目に分けた一覧、併用禁止薬の一覧、これまでに不適格となった理由の記録を照らし、項目ごとに適合・不適合・情報不足を仕分け、確認の足りない検査や問診を書き出します。
結果はスクリーニングの一覧に、候補者ごとの行として増えます。基準の一覧を横に広げて一項目ずつ目で追う段階が省け、情報不足と付いた項目をカルテで確かめる作業から入れます。
ここで出るのは、あくまで確認すべき項目の整理です。 適格かどうかを判断するのは治験責任医師 であり、その判断の根拠は医師自身がカルテに記録します。
業務に組み込むまでの4ステップ
ここでは3つ目の「適格性の一次確認」を例に、通して説明します。新しいシステムを作る話ではなく、すでにあるツールの間に情報の通り道を一本作る作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
使う情報は、どれも すでに社内と施設の中にあります 。
- プロトコルの選択基準・除外基準と、併用禁止薬の一覧
- 診療科から挙がる候補者の被験者識別コードと検査値
- これまでに不適格となった理由を書き留めた記録
新しく作るのではなく、置き場所を決めるだけです。3つ目は担当CRCの手控えに残りがちなので、一箇所にまとめます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
きっかけは、医師が候補者の情報を入力フォームから送った時点にします。人が思い出して開く形にすると、外来が立て込んだ日ほど後回しになり、候補者が次の来院までに抜けます。
3. 判断の基準を設定しておく
ここがいちばん時間のかかる工程です。ベテランのCRCが基準の一覧を見た瞬間に補っている読み替えを、 文章にして一箇所にまとめ ます。次のようなものです。
- 検査値をどの時点のものと数えるか(直近の外来か、期間内の最新値か)
- 併用禁止薬に当たるかを、薬効分類まで広げるのか、指定の薬剤名だけで見るのか
- 妊娠の可能性や同意能力のように、検査値では仕分けられない項目の扱い
一度まとめれば、次の治験でも土台として使い回せます。新しく入ったCRCに読み方を伝える資料にもなります。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
結果はスクリーニングの一覧に行として戻し、情報不足が残った候補者は担当CRCに業務チャットで通知します。CRCは次の外来までに不足を埋め、そろった候補者だけを治験責任医師に上げます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 施設ごとに様式も置き場所も違う :CRCは複数の医療機関に出向いて働きます。1つの施設で組んだ流れを別の施設に持ち込むと、記録の様式も電子カルテから取り出せる範囲も違うため止まります。プロトコル由来の条件など施設をまたいで共通する部分だけで組み、施設ごとの様式は手元の確認に残します。
- 被験者の情報を施設の外に出してしまう :カルテの記載や氏名は医療機関の管理下にあり、施設との取り決めや個人情報の規定に触れます。仕組みに載せるのは被験者識別コードと、治験で定められた検査項目の値までに限り、氏名や連絡先を含むやりとりは施設内の手順に沿って別に扱います。
- 一次仕分けを判定の記録にしてしまう :AIが出した適合・不適合をそのまま登録の根拠として扱うと、医師が適格性を判断した記録が原資料に残りません。一次仕分けは確認項目の整理にとどめ、判断とその理由は治験責任医師がカルテに記録する手順を崩さないようにします。
SMOのAI活用は、どこから考えればいいか
第1セクションでは、被験者の前に立って理解を確かめる場は人が担い、プロトコルと院内の取り決めに書かれた条件を何度も照らし直す業務にAIが効く、と線を引きました。紹介した3つは、いずれも 照らす先の条件が文書として手元にある 業務です。
全部を一度に仕組みにする必要はありません。 まず1つの治験の、1つの業務から 始めれば十分です。来院の許容期間も選択基準の一覧も、受託している治験のプロトコルにすでに書かれており、そこから着手できます。

