Business Type Guide

CROでのAI活用術

CROでAI活用を考えるときの判断軸は2つです。同じ判断を月に何度繰り返しているか、そしてそれを誤ったとき何が起きるか。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

CROに、そもそもAIは必要なのか

CROでAI活用を考えるときの判断軸は2つです。同じ判断を月に何度繰り返しているか、そしてそれを誤ったとき何が起きるか。受託する試験の疾患領域も規模も案件ごとに違いますが、この2つがともに大きい業務ほど、AIを組み込む価値が出ます。

この軸に当てはめると、AIが効くのは次のような業務です。

  • 委託元から届いた治験実施計画書を、規制要件と過去試験の指摘記録に照らす作業
  • 施設ごとの症例登録の進み具合を、契約症例数と期日に並べて遅れを拾う作業
  • 施設から上がった有害事象の記録を、判定基準に沿って一次的に仕分ける作業

いずれも、 委託元と交わした取り決めや自社の判定基準 という物差しに照らした、同じ確認の繰り返しです。

一方、治験責任医師に症例登録のテコ入れを頼む場面や、当局の査察で指摘の意図を読み取って回答方針を決める場面には、AIを入れないほうがよいと考えます。診療の合間を縫って協力してもらう相手の事情を、その場の口ぶりから汲む仕事であり、 受託者として説明責任を負う のも自社だからです。

ただ、この線引きは業務単位で変わります。同じ安全性情報でも、報告の期限と経路を基準に沿って仕分ける作業と、因果関係を医学的に見極める作業とでは、向き不向きが逆になります。次のセクションで、治験の流れに沿って工程ごとに見ていきます。

受託提案から監査対応まで、負荷が大きいのはどの工程か

CROの業務を治験の流れに沿って工程に分けると、AIの効き方が工程ごとに大きく違うことが見えてきます。書類と数字を組み立てる工程と、施設に出向いて現物を確かめる工程とで、性質が正反対だからです。

業務工程主な作業AI活用の余地
受託提案委託元への提案書と見積の作成、競合CROとの比較資料づくり中:過去案件の型からの下書きまで
プロトコル作成支援治験実施計画書のレビュー、統計解析計画書のドラフト大:規制要件との突き合わせを任せられる
施設選定治験施設候補の絞り込み、過去の症例集積実績の整理大:実績記録に照らした選別を任せられる
治験立上げ治験審査委員会向け資料の準備、被験者向け同意文書の平易化中:文書の下書きまで。手続きは施設ごと
施設訪問・SDV原資料と症例報告書の突き合わせ、治験協力者との調整極小:現地で原本に当たる作業は代われない
進捗管理施設別の症例登録状況の集計、遅延の兆候の拾い出し大:決まった様式への集計を任せられる
データ管理・安全性疑義照会の文面作成、逸脱値の検知、有害事象の一次仕分け大:判定基準に沿った仕分けを任せられる
報告・監査対応委託元向け進捗報告書、総括報告書のドラフト、監査資料の整理中:下書きと資料の所在整理まで

最も負荷が集中するのは 進捗管理 です。症例登録の期日が委託元との契約で決まっている一方、実際の登録ペースは施設の外来の混み具合に左右されるためです。

担当者が時間を取られているのは、集計より手前の作業です。電子データ収集システムに入力済みの症例数、担当CRAが訪問時に聞き取った同意取得の見込み、施設から届いた月次の連絡は、それぞれ別の場所に別の粒度で残っています。

どれを登録済みと数えるかを決め、 施設ごとの行に並べ直す 作業を毎週やり直しています。

そのうえで、遅れている施設にテコ入れするか、他施設に症例数を振り替えるかの見極めを、委託元への報告の直前にまとめています。

ここに手を入れると、前後の工程も変わります。登録の失速が早く見えれば、訪問の順番を組み替えられます。振り替えの検討が早く始まれば、契約の変更にも余裕が生まれます。

施設訪問・SDVを「極小」としたのは、そこが紙の診療録や検査伝票の原本に当たり、記載の食い違いをその場で治験協力者と確かめる場だからです。ここを省くと、後の監査で裏づけのない記録だけが残ります。

CROで最初に取り組むべきAI活用、3つ

繰り返し発生していて、かつ誤ると委託元と被験者の双方に影響が及ぶ業務から手をつけるのが定石です。次の3つは、第1セクションで挙げた2つの軸で見たときに、どちらも高く出た業務です。

プロトコルの論点を、レビュー会の前に洗い出す

プロトコル作成支援の工程です。委託元から治験実施計画書の新しい版がファイル保管サービスの所定の場所に保存された時点で動き出します。

AIは、自社が積み上げたレビュー指摘の記録、疾患領域ごとの確認観点、過去試験で逸脱が多発した手順の一覧を照らし、評価項目の定義の曖昧さや、来院スケジュールと検査項目の食い違いを論点として書き出します。

論点は一覧表の形で保管場所に保存され、担当者に業務チャットで知らせが届きます。版が届くたびに全文を頭から読み比べていた段階を飛ばし、挙がった論点の当否を確かめる作業から入れます。

その論点を委託元に上げるかは、プロジェクトマネージャーが決めます。医学的な妥当性に関わる指摘は、 社内の医学専門家 が確かめてから提出します。

症例登録の失速を、報告書より先につかむ

2つ目は、動き出すきっかけが違います。毎週決まった曜日に自動で走ります。AIが読むのは、電子データ収集システムから出力した施設別の症例登録数、治験契約に書かれた施設ごとの契約症例数と登録期日、過去の類似試験で記録した登録ペースの推移です。期日に対して何例足りないかを施設ごとに算出し、失速の兆候がある施設を拾い上げます。

結果は表計算ソフトの一覧表に、施設ごとの行が更新される形で戻ります。訪問記録とデータ収集システムの画面を往復して数え直していた段階がなくなり、拾われた施設の事情を聞くところから始められます。

その施設が本当に遅れているのか、同意説明が進行中なのかは、担当CRAが確かめます。症例数を他施設に振り替えるかは、 委託元との協議事項 です。

治験責任医師への説明資料を、施設ごとに起こす

治験立上げの工程では、施設との治験契約が締結され、施設情報が入力フォームに登録された時点が起点になります。

AIは確定したプロトコル、その施設の診療科体制と過去の受け入れ経験の記録、自社が型として持つ説明資料の構成を突き合わせ、選択基準と除外基準、来院ごとの検査と処置、施設側で必要になる手間を、その施設の言葉に直した下書きにまとめます。

下書きは文書作成ソフトの形で保管場所に保存され、担当CRAに知らせが届きます。着任したばかりの担当者が似た施設の資料を探し回る段階がなくなり、その施設の事情を書き足す作業から入れます。

負担の見積もりが実態に合っているかは、担当CRAが確かめます。治験責任医師に何をどこまで約束するかは、 委託元が定めた実施体制 の範囲を超えません。

業務に組み込むまでの4ステップ

ここでは2つ目の「症例登録の進み具合を追う仕組み」を例に説明します。新しいシステムを作る話ではなく、すでにあるツールの間に情報の通り道を一本作る作業です。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

使う情報は、どれも すでに社内にあります 。

  • 電子データ収集システムから出力できる施設別の症例登録数
  • 治験契約に書かれた施設ごとの契約症例数と登録期日
  • CRAが訪問後に書いた報告書と、施設からの連絡メール

担当CRAの手元と共有フォルダに散らばりがちなので、保管場所を一箇所に決めます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

きっかけは、毎週決まった曜日です。定例報告の数日前に走らせると、確かめる時間が残ります。人が思い出して開く形にすると、施設対応が立て込んだ週ほど使われなくなります。

3. 判断の基準を設定しておく

ここがいちばん時間のかかる工程です。ベテランのCRAが登録状況を見た瞬間に感じ取っている線を、 文章にして一箇所にまとめ ます。たとえば次のようなものです。

  • どの段階から登録済みと数えるか(同意取得か、適格性確認の完了か)
  • 期日までの残り週数と不足症例数が、どの組み合わせになったら要注意とするか
  • 施設側の事情(治験協力者の交代、倫理審査の日程)を、どう差し引くか

一度まとめれば、次の試験からもAIがそこを参照し続けます。進み具合の見方を新しい担当者に伝える資料にもなります。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

結果は表計算ソフトの一覧表に施設ごとの行として戻し、要注意と付いた施設の担当CRAに業務チャットで通知が届くようにします。プロジェクトマネージャーが定例報告の前に目を通し、委託元に上げる範囲を決めます。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • プロトコル改訂に基準が追いつかない :治験の途中で実施計画書が改訂されると、選択基準や来院スケジュールが変わります。前の版の基準で判定が続くと、改訂後に登録した症例が誤って適合と扱われます。参照する文書に版番号と発効日を付け、改訂時に基準を見直す担当を決めておきます。
  • 記録の直しが追えなくなる :治験の記録は、誰がいつ何を変えたかを残すことが求められます。AIが書き出した下書きと人が直した版を同じファイルに上書きすると、監査で経緯を示せません。下書きと確定版を別に保存し、確定の操作を人の手で残す決まりにします。
  • 施設によって元の記録が電子で取り出せない :紙の診療録や検査伝票が残る施設では、症例報告書の裏づけが電子になっていません。すべての施設を同じ流れに載せようとすると止まります。電子データ収集システムに入っている範囲と契約情報に限って組み、紙が残る部分は訪問時の確認に任せます。

CROのAI活用は、どこから考えればいいか

第1セクションでは、治験責任医師や査察官と向き合って言葉を選ぶ場は人が担い、委託元との取り決めや自社の判定基準という 決まった物差し に照らして同じ確認を繰り返す業務にAIが効く、と線を引きました。紹介した3つは、どれもその物差しがすでに契約書と過去試験の記録の形で手元にある業務です。

全部を一度に仕組みにする必要はありません。 まず1つの業務から 始めれば十分です。過去のレビュー指摘の記録も、施設ごとの契約症例数も、すでに社内のどこかにあり、そこから着手できます。

#医薬品・医療機器・ライフサイエンス・医療系サービス#CRO#AI活用