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医薬品卸でのAI活用術

仕組みを作る先を選ぶとき、支店で見るべきものは二つです。その判断が月に何回戻ってくるか。そして、外したときに得意先の棚や患者の治療まで響くのかどうかです。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

医薬品卸に、そもそもAIは必要なのか

仕組みを作る先を選ぶとき、支店で見るべきものは二つです。その判断が月に何回戻ってくるか。そして、外したときに得意先の棚や患者の治療まで響くのかどうかです。

月に一度しか来ない判断や、間違えても翌日に社内で直せる作業なら、覚えている人が手で片付けたほうが早く済みます。 二つがそろって大きいところ にだけ、仕組みを作る意味があります。

この二つを日々の仕事に当ててみます。先に手をつける候補として挙がるのは、 支店をまたいだ在庫の偏りと欠品、地域の連携会議に出す供給体制の説明、MSが訪問前に用意する提案資料 の三つです。

反対に、自主回収がかかったときの連絡と現品の引き取りは、人が受け持つ場面です。どこに何本残っているかは電話でひと声かけて初めて分かり、相手の返事しだいで回る順番が変わります。

新しい薬を採用してもらうために、薬事委員会の前に重ねる折衝も同じです。誰に何を先に通しておくかは院内の力関係で決まるため、そこは MSと支店長 が背負います。

ただし、この線は支店ごとに引き直すことになります。得意先が病院中心の支店と、調剤薬局が大半を占める支店とでは、繰り返しの多い仕事がそもそも違うからです。次の章では、医薬品卸の仕事を働きごとに分けて並べます。医薬品卸のAI活用は、繰り返しの多い判断が自社のどこに寄っているかを探すところから始まります。

需給調整から債権回収まで、負荷が大きいのはどの工程か

医薬品卸では、一つの注文が端から端まで流れていくというより、部門ごとに別の時計で仕事が回っています。働きで区切って並べると、同じ基準を繰り返し当てている作業がどこに寄っているかが見えます。

業務工程主な作業AI活用の余地
需給調整メーカーとの割当量の折衝、発注データからの需要の読み中:数字は集まるが最後の配分は人が決める
MS訪問得意先への採用品目の提案、地域の連携会議向けの供給体制の説明大:説明の型が過去の資料に残っている
受注・出荷当日締めの受注入力、センターでのピッキングと誤出荷の点検大:出荷の記録から誤りの出方をたどれる
配送・納品ルート便の配り順の組み替え、急配の差し込み極小:朝までに入った急配で前提が変わる
在庫・期限管理支店間の在庫の偏りの確認、使用期限とロットの整理大:同じ品目の残り方が支店ごとに出そろう
特別管理品麻薬・向精神薬の譲受譲渡記録、帳簿と現品の数の照合小:帳簿の突き合わせは型になるが件数が限られる
価格妥結納入価の妥結交渉、薬価改定の影響の試算中:試算は任せられるが妥結の線は人が引く
債権回収入金の消込、支払の遅れている取引先の洗い出し中:遅れ方は記録に出るが督促の切り出しは相手しだい

八つのうち、人の手が最も長くとられるのは 需給調整 です。供給が絞られた品目では、メーカーから届く割当量が、得意先から上がってくる注文の合計に届きません。

前月の購入実績で機械的に割ると、患者が急に増えた病院と、余裕を見て多めに頼んでいた薬局が同じ扱いになります。どちらを削るかは、数字だけでは決まりません。

そして時間を取られるのは、削る先を選ぶことそのものではなく、 削った理由を得意先ごとに言い分ける段取り です。同じ品目でも、他の銘柄に替えられる薬局と、替えの利かない患者を抱えた病院とでは、返す言葉が変わります。

ここに手が入ると、MS訪問では割当の根拠を持った状態で話を始められます。在庫・期限管理でも、割当で押さえた分を除いた手元の数で、支店間の偏りを見られるようになります。

配送・納品を極小としたのは、その日の配り順が朝まで決まらないからです。夜間に入った急配と、施設ごとに決まっている受入の時間帯の隙間を見て、出発の直前に並べ替えます。前日の順路がそのまま使える日は、ほとんどありません。

医薬品卸で最初に取り組むべきAI活用、3つ

繰り返しが多く、外したときの影響も大きい。第1章の二つの見方が重なるところから着手するのが順当です。支店をまたぐ在庫の偏り、地域への供給体制の説明、MSの訪問前の準備が上位に来ました。

支店をまたいだ在庫の偏りを、欠品になる前に掴む

毎週決まった曜日に動きます。AIが開くのは、支店と物流センターの在庫と使用期限の一覧、得意先ごとの直近三か月の出荷実績、出荷調整品の一覧です。自社で決めた持ち高の目安に当て、品目ごとに、どの支店で切れそうか、どこで動かずに残っているかを見比べます。

結果は在庫の一覧表に「支店間で振り替え」「追加発注」「返品の検討」の別で行が増え、支店の在庫担当と物流センターの管理者に業務チャットで知らせが届きます。いまは欠品の連絡が入ってから、他支店を電話で当たっています。先に動かす品目が決まった形で、週に入れるようになります。

在庫担当が見るのは、振り替えの候補に 出荷調整中の品目 が混じっていないかです。調整中の品目を支店間で動かすと、地域への配分の約束が崩れます。振り替えの可否は在庫担当の判断に残ります。

地域の連携会議に出す供給体制を、実績の側から組み立てる

二つ目は、地域の医療連携の協議会や災害対策の会議の案内が、予定管理ツールに登録された時点で動き出します。AIは、その地域の医療機関と薬局のこの一年の購入実績、自社センターの在庫と配送圏の一覧、供給が不安定な品目と代替銘柄の対応表を読みます。

そのうえで自社で決めた備蓄日数の目安に当て、地域で切らせてはいけない品目を拾い出します。

出てくるのは 提案資料の下書き です。押さえておきたい品目と想定の備蓄日数、供給が止まったときの切替の順番が並び、地域ごとのフォルダに文書として保存されます。いまは前回の会議資料を探すところから始まります。実績の数字が入った状態から、書き直す作業に移ります。

支店長が確かめるのは、備蓄日数を自社の配送体制で支えられるかです。地域に約束する形になるため、対外に出す前の判断は支店長に残ります。

訪問前のMSの手元に、提案の骨子を用意しておく

三つ目の起点は、得意先ごとの月次の購入データが締まった時点です。AIは、その施設の採用品目と購入の増減、前回までの面談記録、自社が定めた切替提案の対象薬効群を照らし、次に持っていく話を三つほど組み立てます。

出力は、 訪問予定の一覧に添えられた下書き です。訪問先ごとに、話の切り口と裏づけになる数字が並びます。いまは前夜に自分の面談記録をさかのぼっています。訪問の合間に中身を直すだけで足ります。

MSが落とすのは、院内の事情に合わない話です。切替の提案は、薬事委員会の時期や、その施設が採用品目を絞る方針かで出し方が変わります。何を持っていくかはMSが選びます。

業務に組み込むまでの4ステップ

二つ目の地域向け供給体制の資料を例に、四つの段取りを追います。開くのは受発注のシステムと在庫の一覧、表計算ソフトです。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

地域の購入実績は、受発注のシステムに一年分そろっています。ほかに開くのは次の三つです。

  • 物流センターの在庫と、配送圏に入る施設の一覧
  • 出荷が絞られている品目と、代替できる銘柄の対応表
  • 前回までに同じ協議会へ出した資料

新しく作るものはなく、散っているなら 一箇所に寄せる のが段取りです。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

協議会や災害対策の会議は、年に数えるほどしかありません。記憶に任せると、案内が回ってから前回の資料を探し始めます。

そこで、案内が予定管理ツールに登録された時点をきっかけにします。ここを決めないと、思い出したときだけ動く仕組みになります。

3. 判断の基準を設定しておく

四つのうち日数がかかるのはここだけです。 地域に何を約束するかの線引き を、文章にして一箇所にまとめます。支店の古参が会議で口にしてきた中身を書き留める作業です。

  • どの薬効群を「地域で切らせてはいけない品目」として挙げるか
  • 備蓄の目安を何日分とし、品目によってどう変えるか
  • 供給が止まったとき、どの順で代替銘柄への切替を案内するか

言葉にするまでが山場ですが、まとめれば隣の地域の資料でも同じものを開けます。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

下書きは文書として、ファイル保管サービスの地域ごとのフォルダに残します。支店長と担当MSには業務チャットで知らせが届く形にします。

会議の一週間前までに支店長が目を通す、という約束にします。空けたままだと、誰も開かない下書きが積み上がります。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • メーカーからの出荷調整の連絡は、個別の文書やメールで届き、受発注のシステムの在庫数には表れません。システムの上では在庫があるのに回せない品目が出て、支店間の振り替えの提案が空振りになります。 出荷調整中の品目を登録する担当と締め時刻 を決め、AIが在庫を読む前にその一覧を参照する順番にしておきます。
  • MSは日中のほとんどを社外で過ごします。出力を社内の画面にだけ置くと、目に入るのは夕方に戻ってからになり、訪問の前に間に合いません。知らせは業務チャットで手元に届く形にし、開かなくても要点が読める長さに収めます。
  • 得意先との細かい取り決めは、データになっていないことがあります。 「この施設は午前中に届ける」「この薬局は月末にまとめて」 といった約束が、MSの手帳や個人あてのメールにしか残っていません。振り替えや配分の提案が現場と食い違う前に、得意先ごとの申し合わせを一覧に書き出しておきます。

医薬品卸のAI活用は、どこから考えればいいか

第1章で線の外に置いたのは、自主回収の電話と、薬事委員会に向けた院内の折衝でした。どちらも相手の返事を聞いてから次が決まります。三つが内側に入るのは、 拠り所になる記録 が出荷実績と購入実績として支店にそろい、基準を一度書けば同じ見方を繰り返し使えるからです。

八つの工程を一度に整える必要はありません。件数がいちばん出ている一つを選び、そこだけ通してみれば入口としては十分です。手元にあるのは、受注と在庫を記録している 受発注のシステム と、支店の業務チャットです。この二つで一つ目を組み始められます。

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