医療コンサルティングに、そもそもAIは必要なのか
医療コンサルティングでAI活用を考えるときの判断軸は2つです。同じ判断を月に何度繰り返しているか、そしてその判断を誤ったときに何が起きるか。支援先の病床規模も診療科の構成も案件ごとに違いますが、この2つがともに大きい業務ほど、AIを組み込む価値が出ます。
この軸に当てはめると、AIが効くのは次のような業務です。
- 厚生労働省の告示や通知を読み、支援先の施設基準にどう響くかを整理する作業
- 診療科別の収支や病床稼働率を、同じ規模の病院の水準と並べる作業
- 業務の見直し案を、過去案件の型に沿って提案資料に落とす作業
いずれも、自社が積み上げた 論点の整理軸 に照らした、同じ確認の繰り返しです。
一方、理事長や院長に改善案を納得してもらう場や、医事課と看護部の間で運用ルールの落としどころを探る場には、AIを入れないほうがよいと考えます。現場の抵抗がどこから来ているかを口ぶりと表情から読む仕事であり、 提案の結末に責任を負う のも担当コンサルタントだからです。
ただ、この線引きは業務単位で変わります。同じ人員配置の話でも、勤務シフトの偏りを数字で洗い出す作業と、看護部長が誰をどの病棟に置きたいかの見極めとでは、向き不向きが逆になります。次のセクションで、案件の流れに沿って工程ごとに見ていきます。
引き合いから実行支援まで、負荷が大きいのはどの工程か
医療コンサルティングの案件を工程に分けて見ると、AIの効き方が工程ごとに大きく違うことが見えてきます。数字を組み立てる工程と、病院の中の人と向き合う工程とで、性質が正反対だからです。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 引き合い・提案 | 提案書と報酬見積の作成、契約書のドラフト | 大:過去案件の型からの下書きを任せられる |
| 現状ヒアリング | 理事長・事務長・看護部長への聞き取り、外来と病棟の同行観察 | 中:議事録からの論点の拾い出しまで |
| 経営数値の分析 | 診療科別収支とDPCデータの読み込み、病床稼働率の推移整理 | 大:他院の水準との突き合わせを任せられる |
| 外部環境の調査 | 診療報酬改定の告示・通知の読み込み、地域医療構想と競合病院の動向調査 | 大:制度変更の影響の一次整理を任せられる |
| 改善案の設計 | 業務の見直し案の組み立て、人員配置と組織体制の設計 | 中:過去案件を踏まえた案の下書きまで |
| 報告会・合意形成 | 理事会向けプレゼン資料、月次の進捗報告書 | 中:資料と報告書の下書きまで |
| 実行支援 | 現場に入っての運用ルールの調整、定着の見届け | 極小:部署ごとの抵抗の解き方は相手次第 |
最も負荷が集中するのは 経営数値の分析 です。支援先から出てくる数字が、一つの病院の中でも様式が揃っていないためです。
担当者が時間を取られているのは、分析そのものより手前の作業です。医事会計システムから出る患者数と診療点数、DPCのデータ、財務会計の勘定科目は、それぞれ診療科・病棟・部門という別々の単位で集計されています。どれを分母に置くかを決め、 同じ粒度に組み替える 作業を案件ごとにやり直しています。
そのうえで、他院の水準と並べられる形に整える作業が、報告会の直前に集中します。
ここに手を入れると、前後の工程も変わります。数字が早く揃えば、ヒアリングで聞くべき点を絞って訪問できます。診療科別の採算が固まれば、人員配置の案を数字の裏づけ付きで示せます。
実行支援を「極小」としたのは、そこが提案の中身ではなく、長年のやり方を変えたくない部署の言い分を一つずつほどく場だからです。ここを省くと、報告書だけが残って現場が動きません。
医療コンサルティングで最初に取り組むべきAI活用、3つ
繰り返し発生していて、かつ誤ると支援先の経営判断を歪める業務から手をつけるのが定石です。次の3つは、第1セクションで挙げた2つの軸で見たときに、どちらも高く出た業務です。
提案書と契約書の下書きを先に起こす
引き合い・提案の工程です。問い合わせの内容を入力フォームに登録した時点で仕組みが動きます。AIは、過去に受注した提案書と締結済みの契約書の一式、支援先の病床数と診療科構成の記録を参照し、支援範囲・期間・報酬の条項と、提案の骨子を書き出します。
書き出した内容は文書作成ソフトの下書きとして保管場所に保存され、担当コンサルタントに業務チャットで知らせが届きます。これまでは似た案件のファイルを探すところから始めていましたが、下書きに支援先の事情を上書きする作業から入れます。
支援範囲をどこで区切るか、成果物として何を約束するかは 担当パートナー が決めます。医療法人との契約で成功報酬の形を取れるかの見極めも、人が確かめる箇所です。
制度改正の影響を支援先ごとに読み替える
外部環境の調査の工程では、動き出すきっかけが変わります。厚生労働省の告示や通知、疑義解釈の文書を所定のフォルダに保存すると、そこが起点になります。AIは自社がまとめた読み解きの観点と、支援先ごとの施設基準・病床機能・算定している加算の一覧を照らし、どの支援先のどの項目に影響が出るかを拾います。
結果は表計算ソフトの一覧表に、支援先と項目の組み合わせごとに行が増える形で戻ります。通知が出るたびに全支援先の資料を開き直していた段階を飛ばし、拾われた項目の当たりを取るところから始められます。
算定要件の読み方が支援先の実態に合っているかは、担当コンサルタントが施設基準の届出内容と突き合わせます。改定への対応方針として理事会に示すかどうかは、 担当マネージャー が最後に判断します。
業務の見直し案を提案資料の形に整える
改善案の設計の工程は、週に一度、定例会の前日に自動で動きます。AIが読むのは、その週までに保存された現場の観察記録と部署ごとの聞き取りメモ、それに自社が蓄積した改善パターン集です。外来の待ち時間が延びている箇所や、同じ書類を複数の部署が書き写している箇所を、提案資料の骨子として並べます。
戻ってくるのは、見出しと論点だけが入った資料の下書きです。定例会の前夜に白紙から資料を組み立てていた作業が、骨子に現場の数字と写真を足す作業に変わります。
並んだ案がその病院の人員と設備で本当に回るかは、担当コンサルタントが見極めます。外来の動線や病棟の看護体制に手を入れる案は、 看護部長との事前のすり合わせ を経てから資料に載せます。
業務に組み込むまでの4ステップ
ここでは1つ目に挙げた「提案書と契約書の下書き」を例に説明します。新しいシステムを作る話ではなく、すでにあるツールの間に情報の通り道を一本作る作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
使う情報は、どれも すでに社内にあります 。
- 過去に受注した提案書と、締結済みの契約書一式
- 支援先の病床数・診療科構成・開設主体の記録
- 断られた提案と、その理由を書き留めたメモ
担当者ごとのフォルダやメールに散らばりがちなので、保管場所を一箇所に決めます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
きっかけは、問い合わせの内容を入力フォームに登録した時点です。紹介や学会での面識から始まる相談も、同じフォームに転記してから流します。人が思い出して開く形にすると、締め切りが近い案件ほど使われなくなります。
3. 判断の基準を設定しておく
ここがいちばん時間のかかる工程です。ベテランが引き合いを聞いた瞬間に決めている線を、 文章にして一箇所に書き留め ます。たとえば次のようなものです。
- 病床規模と開設主体で、支援範囲をどこまで広げるか
- 医療法人の会計年度と改定の時期を見て、期間をどう区切るか
- 成果の測り方として、稼働率と診療単価のどちらを約束するか
- 受けるべきでない引き合いの条件
一度書き留めれば、次の引き合いからはAIがそこを参照し続けます。新しく入った担当者が自社の値づけの考え方を学ぶ資料にもなります。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
下書きは文書作成ソフトの形で保管場所に保存し、担当パートナーに業務チャットで通知が届くようにします。提案が通ったか断られたかを同じ場所に残すと、次の下書きを見直す手がかりになります。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 患者の診療情報まで参照経路に入れてしまう:支援先から受け取ってよいのは、患者個人が特定されない集計値までです。カルテやレセプトの明細を保管場所に置くと、医療機関側の情報管理規程と要配慮個人情報の扱いに触れます。受領する資料を診療科別・病棟別の集計に限ると先に決めておきます。
- 疑義解釈の追加に流れが追いつかない:改定は告示が出た後も疑義解釈が何度も追加され、先に出た解釈が上書きされます。参照する文書に発出日を付けて保管し、古い版を残したまま読ませない決まりにしておきます。
- 病院ごとの例外を取りこぼす:同じ加算でも、へき地の医療機関や特定機能病院では要件の読み方が変わります。支援先の記録に、施設の類型と地域の区分を必ず入れておきます。
医療コンサルティングのAI活用は、どこから考えればいいか
第1セクションでは、理事長や現場の部署と向き合って納得を作る場は人が担い、 決まった軸 に照らして同じ確認を繰り返す業務にAIが効く、と線を引きました。紹介した3つは、どれも自社が積み上げた型や観点という軸が、すでに手元にある業務です。
全部を一度に仕組みにする必要はありません。 まず1つの業務から 始めれば十分です。過去の提案書も、支援先ごとの施設基準の一覧も、担当者のフォルダにすでにあり、そこから着手できます。

