業種分類に当てはまらない会社に、そもそもAIは必要なのか
AIを入れて意味が出る業務には、見分け方があります。ひとつは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もうひとつは、その判断を外したときに何が起きるかです。両方が大きい業務ほど、仕組みにする値打ちがあります。どちらかが小さければ、人がその都度考えたほうが早く済みます。
この2つを自社の業務に当てはめると、線は案外はっきりします。効くのは引き合いへの一次回答、見積書と提案資料の下書き、契約書と仕様書の突き合わせです。どれも週に何度も発生し、書き方も確認する項目も、過去の案件の中にすでに答えがあります。
反対に、入れないほうがよい業務もあります。ひとつは現場に出てからの判断です。扱う事業が一本にそろっていない会社ほど、案件ごとの事情の幅が広いため、相手先の設備や当日の状況を見て段取りを組み替える場面が残ります。
もうひとつは、どの法令が自社の案件にかかるかを最終的に決める場面です。確認作業そのものは型にはめられますが、結論の責任は自社に残ります。人が名前を出して決めるべきところです。
この線引きは、会社ごとにも業務ごとにも変わります。同じ見積書でも、様式が定まっている会社と、案件ごとに一から組み立てる会社では効き方が違います。自社の業務を工程に分け、どこに同じ判断の繰り返しがあるのかを見るところから始めるのが確実です。
引き合い対応から苦情・改善まで、負荷が大きいのはどの工程か
一件の案件を引き合いから検収まで並べてみると、人の手が止まっている場所が見えてきます。事業が複数にまたがっていても、案件そのものの流れは共通しています。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 引き合い対応 | 届いた問い合わせの読み取り、似た案件の有無の確認 | 大:一次回答の下書きを任せられる |
| 見積・提案 | 独自様式の見積書作成、提案資料の組み立て | 大:過去案件からの条件の引き写しが減る |
| 契約・仕様確定 | 契約書と仕様書の条件の突き合わせ、検収条件の確認 | 大:記載漏れの洗い出しが自動になる |
| 法令確認 | 案件にかかる法令の洗い出し、遵守状況の資料化 | 中:確認項目の一覧化まで踏み込める |
| 外注・調達 | 委託先の選定資料づくり、外注先の実績整理 | 中:実績の集約を先に片付けられる |
| 現場作業 | 案件ごとの作業、現場での例外的な判断 | 極小:状況を見た判断が毎回変わる |
| 検収・報告 | 業務報告書の作成、記録の異常値の洗い出し | 中:報告書の骨組みが先に埋まる |
| 苦情・改善 | 苦情内容の整理と分類、満足度アンケートの集計 | 中:分類の振り分けが機械側で済む |
最も神経を使うのは、最初の引き合い対応です。扱う事業が一本にまとまっていないため、届いた一件がどの事業のどの担当の話なのかを、電話を取った人がその場で見分けるところから始まります。
同業他社と共通の問い合わせ様式があるわけでもなく、相手の言葉づかいも案件ごとにばらばらです。受けた人は、似た案件が過去にあったかどうかを、自分の記憶と古いフォルダの両方を当たって探します。一次回答が遅れる理由は、この探す時間にあります。
ここに手が入ると、後ろの工程の景色が変わります。引き合いの中身が最初から整った形で残るため、見積・提案の担当者は条件を聞き直すところからではなく、書き起こされた条件を確かめるところから始められます。契約・仕様確定でも、最初に聞いた条件と契約書の記載を見比べる作業が短くなります。
現場作業を極小としたのは、精度が足りないからではありません。当日の設備の状態や立ち会う担当者の反応を見て段取りを変える仕事には、過去の記録に答えがないためです。ここは人が立つ工程のままにしておくのが筋です。
業種分類に当てはまらない会社で最初に取り組むべきAI活用、3つ
手をつける順番は、思いつきで決めないほうがうまくいきます。繰り返しの多さと、外したときの影響の大きさ。第1章の2つの軸がどちらも高い業務から並べると、次の3つが先頭に来ます。
案件ごとに違う法令の確認を、抜けなく並べる
きっかけは、案件の仕様書がファイル保管サービスの所定のフォルダに入った時点です。AIは仕様書に書かれた対象物や作業の中身を読み取り、自社がこれまでに対応してきた法令の確認項目一覧と照らし合わせて、どの規定が今回かかりそうかを一覧に並べます。
結果は表計算ソフトのチェック表に一行として加わり、担当者には業務チャットで知らせが届きます。いまは案件が動き出してから、似た案件の資料を探して確認項目を書き写しているはずです。その出発点が、埋まった状態に変わります。
見るのは、並んだ項目が今回の案件に本当にかかるのか、抜けている規定がないかの二点です。どの法令を当てはめるかを決めるのは、品質と法務を見ている担当者です。
見積書と提案資料の下書きを、過去案件から起こす
引き合いの中身が入力フォームに登録されると、そこから仕組みが動きます。AIが見に行くのは、過去の見積書と提案資料、それに自社で定めている単価と納期の基準です。条件の近い過去案件を探し当て、項目と金額の並んだ下書きを組み立てます。
出来上がった下書きは、文書作成ソフトのファイルとして案件のフォルダに保存されます。業界共通のひな形がない以上、様式も項目名も自社の過去案件から起こすほかありません。
いまは似た案件の見積書を開いて、日付と数量を打ち替えるところから始めているはずです。その手順が、できあがったものを直す手順に置き換わります。
確認するのは、金額と納期の二か所です。値引きの可否と納期の約束は、営業の責任者が引き受ける判断として残ります。
契約書と仕様書の食い違いを、先に洗い出す
先方から届いた契約書の案を、メールから案件のフォルダに取り込んだところが起点になります。AIは契約書と仕様書を突き合わせ、過去に条件で揉めた条項をまとめた一覧を照らしながら、数量、納期、検収の条件、責任の分担について書きぶりがずれている箇所を拾います。
ずれた箇所は差分の一覧として文書に残り、案件の担当者にはメールで知らせが届きます。一件の中に工事分と保守分が並ぶ案件では同じ条件が二か所に書かれるため、いまのように一条ずつ目で追うやり方では取りこぼしが出ます。その突き合わせが、示された箇所を確かめる作業に変わります。
目を通すのは、指摘された食い違いのうち、どれを先方に戻し、どれを自社が飲むかの切り分けです。ここは案件の責任者が決める判断です。
業務に組み込むまでの4ステップ
見積書と提案資料の下書きを例に、四つの段取りをたどります。新しい仕組みを一から作る話ではなく、すでに使っているツールの間に情報の通り道を一本つくる作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
下書きのもとは、すでに社内にあります。
- 過去に出した見積書の控え
- 先方に送った提案資料
- 自社の単価表と標準の納期
これらが担当者の手元に散っていては参照できません。ファイル保管サービスの一箇所にまとめ、どこを見れば揃うのかを決めるまでが、この段取りです。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
人が思い出して操作する形にすると、忙しい週から使われなくなります。引き合いの中身が入力フォームに登録された時点を、動き出すきっかけにします。電話で入った分も受けた人が書き写す形にしておけば、入口が一本になります。
3. 判断の基準を設定しておく
いちばん時間がかかるのがここです。見積もりのとき、ベテランが頭の中で無意識にやっている線引きを、文章にして一箇所にまとめます。
- 案件の規模がどこを超えたら単価を変えるのか
- 納期をどこまで詰めてよく、どこからは受けないのか
- 値引きに応じた条件と、応じなかった条件の境目
思い出しながら書き出すので、数日では終わりません。ただ、一度まとまれば使い回せるので、単価が変わったときに直すだけで済みます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
画面に答えが出て終わりでは、業務は変わりません。下書きは文書作成ソフトのファイルとして案件のフォルダに保存し、登録した担当者に業務チャットで知らせが届くようにします。確認は先方に出す前の一回、金額と納期を営業の責任者が見る、と決めます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 見積書の様式を個人の判断で作り替えると、流れが止まります。項目名や置き場所が担当者ごとに変わると、参照先がずれて出てくる中身が合わなくなります。様式を直すときは一箇所で直し、基準を書いた文章も同時に直す、と決めておきます。
- 事業をまたぐ案件が取りこぼされます。一件の中に工事と保守が混ざるような案件を片方の事業の型で処理すると、抜けた側の条件がそのまま先方に出ます。混ざった案件は下書きの対象から外し、人が組み立てると先に決めておくのが安全です。
- 過去の資料が参照できる形になっていません。古い案件の見積書が紙の控えでしか残っていなかったり、現場で手書きした条件がそのままだったりします。全部を電子にしようとすると止まるので、直近の数年分に絞って形をそろえます。
業種分類に当てはまらない会社のAI活用は、どこから考えればいいか
はじめに引いた線は、繰り返しが多く、外すと痛い業務は仕組みにできるという一本でした。法令の確認、見積書と提案資料の下書き、契約書と仕様書の突き合わせは、どれも確認する項目が過去の案件の中に出そろっています。だから線の内側に入ります。
三つとも同時に始める必要はありません。引き合いが多い月にいちばん手が止まる一つを選んで、そこだけ通してみるだけで十分です。使うのは、いま社内にある見積書の控えと、ベテランが頭の中に持っている線引きを文章にしたものです。

