Webマーケティング(広告代理店・コンサルティング・制作)に、そもそもAIは必要なのか
WebマーケティングでAIを入れる価値が出るかは、2つの軸で見分けられます。1つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう1つは、その判断を外したときに何が起きるかです。
広告表現の可否をひとつ見落とせば、配信が止まり、クライアントが行政から指摘を受けます。両方が大きい業務から手をつけるのが順当です。
この2軸を当てはめると、AIが効くのは次の業務です。
- 入稿前の広告文・バナー・LPを、薬機法や景品表示法、媒体の審査基準に照らす確認
- 過去案件の配分と実績をもとにした、提案書と見積のドラフト作成
- 運用中の設定や請求内訳についての、クライアントからの問い合わせへの一次回答
どれも 判断のよりどころが社内に残っている 作業で、クライアントをまたいで同じ見分け方が続きます。
反対に、定例会での成果説明と、次の一手をどこに置くかの合意は、AIに寄せないほうがよい業務です。目標に届かなかった月にどこまで説明し、翌月の予算を増やすのか絞るのか。それはレポートの数値ではなく、クライアントの予算期と、決裁者がいま何を気にしているかで決まります。
訴求の切り口も同じで、外れたときに 引き受けるのは提案した側 です。
ただし線引きは業務の単位で変わります。同じレポート作成でも、数値の集計と前月との差分の整理は基準に照らせますが、その差分をどう説明するかは相手を見て決めます。次は、この仕事を工程に割って見ていきます。
引き合い受付から定例・折衝まで、負荷が大きいのはどの工程か
Webマーケティング会社の仕事は、引き合いを受けてから月次の定例で報告するまで、案件ごとに同じ順路をたどります。工程に割ると、社内の記録に照らす作業と、相手の反応を見て決める作業がはっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 引き合い受付 | 新規の相談、既存クライアントからの依頼の一次受け | 中:過去の回答に照らした一次回答を任せられる |
| 提案・見積 | コンペ用の戦略資料、媒体配分と見積の作成 | 大:過去案件の配分と実績から下書きを起こせる |
| 制作・入稿 | 広告文とバナーの制作、LPの構成案、入稿設定 | 中:構成案の初稿は起こせるが、訴求の決めは人 |
| 審査対応 | 表現規制の確認、媒体審査の差し戻し対応 | 大:決めた基準での照合を毎日繰り返す |
| 日次運用 | 入札と予算の調整、SNS投稿とコメント対応 | 中:投稿文の下書きは任せられる |
| 分析 | 離脱要因の洗い出し、A/Bテスト結果の整理 | 大:同じ観点での分類が案件ごとに発生する |
| レポート作成 | 実績値の集計、改善提案の下書き | 大:毎月同じ様式で同じ項目を埋める |
| 定例・折衝 | 成果の説明、翌月予算と継続可否の相談 | 極小:予算期と決裁者の関心で決まる |
人の時間と神経がいちばん削られるのは、 審査対応 です。健康食品や化粧品、医療、金融のクライアントを持つと、1本の広告文に薬機法と景品表示法、そして媒体ごとの審査基準という別々の物差しを重ねて当てることになります。
やっかいなのは、同じ文言でも通る媒体と通らない媒体があることです。差し戻しの理由は広告ポリシー違反とだけ返ってくることも多く、どこを直せば通るのかは、過去に似た差し戻しを受けた担当者の記憶に頼ることになります。
担当者が取られているのは、書き直す時間よりも、その前の 突き合わせ です。この訴求は前回どう言い換えて通したか、この媒体は打消し表示をどの位置まで求めるか。過去の入稿記録と媒体の規定を開いては閉じる往復が続きます。
ここに手が入ると、制作が上げた原稿の段階で引っかかる箇所が見えるため、配信開始日が差し戻しで動くことが減ります。
表で「極小」とした定例・折衝は、成果が目標に届かなかった月に、どこまで踏み込んで説明し、翌月の予算を組み直すかを決める場です。よりどころが社内の記録ではなくクライアント側の事情にあるため、ここは担当者が引き受けたままになります。
Webマーケティング(広告代理店・コンサルティング・制作)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
着手の順番は、同じ判断を繰り返している回数と、外したときの影響の大きさで決まります。はじめに挙げた2つの軸で並べると、入稿前の表現チェック、提案と見積の下書き、問い合わせへの一次回答が上位に来ます。
引っかかる表現を、入稿前に洗い出す
起点は制作の完了です。広告文とバナー、LPの原稿が入稿前のフォルダに保存されると、仕組みが動きます。
AIが照らすのは、社内にまとめた表現の可否一覧です。薬機法で言い切れない効能の型、最上級の表現に必要な出典と時点の条件、媒体ごとの打消し表示の扱い、過去に差し戻された文言と通った言い換え。これらと原稿を一行ずつ突き合わせ、該当箇所に根拠と代替案を添えます。
出てくるのは、入稿チェック一覧に積まれた行です。差し戻されてから直す進め方が、 入稿前に候補をつぶす進め方 に変わります。制作担当には業務チャットで知らせが届きます。
最後に目を通すのは、審査対応の長いディレクターです。規制の厳しい商材では、クライアントの法務に出す前にどこまで踏み込むかを決めるのは人の側です。
提案の媒体配分を、過去の実績から組む
二つ目はコンペの与件から動きます。クライアントから受け取った与件シートが案件フォルダに保存されると、AIは業種と予算帯の近い過去案件を探し、そのときどの媒体にどう配分し、どの水準の実績が出たかを読み比べます。
そのうえで、媒体ごとの配分案と、その配分にした理由、対応する見積の区分を組み立てます。
結果は提案書のドラフトとして文書作成ソフトに保存され、営業担当と運用担当の両方に通知が出ます。過去の提案書を開いて切り貼りしていた作業は、組まれた配分を直すところから始まります。
配分が運用として成り立つかを見るのは運用担当です。手数料の料率と初期費用の引き方、成果目標をどこに置くかは、営業責任者が決めます。
細かい問い合わせに、一次回答を用意する
三つ目が動くのは、クライアントからのメールが届いた時点です。今月の獲得単価が上がっている理由、審査が通る見込み、請求額の内訳。運用担当の手元には、こうした質問が毎日入ります。
AIが見るのは、過去の回答の履歴と、その案件で何をいつ変更したかの記録、媒体の仕様をまとめた社内のドキュメントです。事実として答えられる部分だけを埋めた返信の下書きを組み、まだ特定できていない項目は空欄で残します。
下書きはメールの下書きとして保存され、運用担当に通知が入ります。調べ直してから書き始めていた流れは、埋まっている部分を確かめるところから入れます。
空欄を埋めるのは運用担当です。数値が動いた原因をどこまで言い切るかは、 翌月の期待を作る判断 だからです。
業務に組み込むまでの4ステップ
ここでは「入稿前の表現チェック」を例に通して説明します。新しいシステムを作る話ではなく、すでに使うファイル保管サービスと表計算ソフトの間に通り道を一本引く作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
必要な記録は、すでに社内にあります。
- 過去に差し戻された広告文と、媒体からの指摘
- 修正して通った言い換えの控え
- クライアントから預かった商品資料(効能の根拠、成分、届出の区分)
新しく作るのではなく、置き場所を決めるだけです。担当者ごとに分かれているなら、先に 一箇所へ集めます 。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
人が思い出して開く形にすると、入稿が重なる月末に飛びます。制作が原稿を入稿前のフォルダに保存した時点を合図にします。入稿の直前ではなく、原稿が上がった時点にするのがこつです。ここを決めないと、結局は使われません。
3. 判断の基準を設定しておく
いちばん時間のかかる工程です。審査に強い担当者が無意識にやっている見分け方を、文章にしてまとめます。たとえば次のような基準です。
- 効能の言い切りは、使用後の体感を描く表現に換える
- 最上級の表現は、出典と時点を併記できないなら使わない
- 打消し表示は、本文と同じ大きさで同じ画面に収める
媒体によって通る範囲が違うので、基準には媒体名の欄を持たせます。骨は折れますが、 一度書けばクライアントをまたいで使い回せます 。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
画面に出して終わりにはしません。表計算ソフトの入稿チェック一覧に、該当箇所と根拠、言い換え案の列をつけた行を積み、制作担当に業務チャットで知らせます。目を通すのは審査対応の長いディレクターで、入稿の操作に移る前です。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 媒体の審査基準が変わったことに気づけない :媒体側の規定改定は、こちらに通知が来ません。古い基準のまま照合を続けると、通っていた表現が急に差し戻されます。差し戻しの理由を基準の一覧に書き戻す担当と、見直す間隔を決めておきます。
- 商材の区分を取り違える:同じ肌への表現でも、化粧品と医薬部外品と健康食品では言える範囲が違います。案件ごとに商材の区分を登録する欄を設け、区分が空欄のときは照合を止める形にします。
- バナーの文言が画像の中にしか残らない:制作したバナーはコピーが画像に焼き込まれるため、照合にかけても画像内の文言だけが抜け落ちます。制作の段階で コピーをテキストでも残す様式 にし、照合の対象に含めます。
Webマーケティング(広告代理店・コンサルティング・制作)のAI活用は、どこから考えればいいか
はじめに引いた線は、社内の記録に照らして決まる作業と、クライアントの事情を見て決まる作業の間にありました。今回の3つは、どれも照らす先が社内にあり、最後に人が名前を出して確かめる箇所がはっきりしています。だから 線の内側 に入ります。
全部に手を入れる必要はありません。入稿が重なる時期に一番手が止まる業務を1つ選び、そこだけ通してみれば十分です。 必要な記録は、過去の入稿と差し戻しの中にすでにあります 。

