SP代理店(イベント・販促提案など)に、そもそもAIは必要なのか
手を入れる先は、二つの物差しで絞り込めます。月に何度、同じ判断を繰り返しているか。そして外したとき、景品の出し直しや当日の中止という形で、どこまで跳ね返るか。
この二つが重なる業務から順に、仕組みにする意味が出てきます。月に一度あるかないかの判断なら、人が手で組んだほうが速く済みます。
この業種の業務に並べてみると、線の引き場所はかなり明確です。効くのは、懸賞企画が景品表示法の規制に収まっているかの確認です。賞品や応募方法が変わっても、当てる条文と社内の可否の判断は同じ引き出しから取り出しています。
会場費と什器、人件費を積み上げる見積書と実施計画書の作成も同じです。費目の立て方と単価の並びは、案件をまたいでほとんど変わりません。天候と安全の計画書も、会場の条件ごとに備える型が決まっています。
向かないのは、 当日、雨脚と客足を見て進行を組み替える判断 です。判断の遅れがそのまま来場者の安全に響く領域です。会場の管理者や警備会社と現場で詰める折衝も、同じ理由で人の仕事です。
ただし、どこに線が来るかは会社によってずれます。店頭サンプリングを数多く回す会社と、大型の展示イベントを年に数本抱える会社では、繰り返している判断そのものが違います。
SP代理店のAI活用 は、自社の案件が通る工程を分けて並べ、同じ判断がどこに集まっているかを確かめるところから始まります。次の章では、その分け方から見ていきます。
与件整理から次回提案まで、負荷が大きいのはどの工程か
販促の案件は、聞き取りから次の提案までがひと続きになっています。工程に分けて置き直すと、判断の中身が案件ごとに変わる場所と、毎回同じところを見ている場所が、はっきり離れて見えます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 与件整理 | 販促目的と予算枠の聞き取り、過去の類似施策の洗い出し | 中:過去事例の引き当てまでは肩代わりできる |
| 提案・コンペ | 販促企画の組み立て、SNS連動施策の設計 | 中:資料の構成と下調べに向く |
| 景表法確認 | 懸賞の区分判定と景品限度額の算定、応募規約の文面確認 | 大:条文と過去の可否を照らす作業が本領 |
| 見積・実行予算 | 会場費・什器・人件費の積算、見積書と実施計画書の作成 | 大:費目の立て方が案件をまたいで同じ |
| 会場・什器手配 | 会場と什器業者の手配リスト、協力会社への発注資料 | 小:発注書の項目埋めにとどまる |
| 安全・天候対策 | 中止と順延の基準づくり、警備動線と救護体制の計画書 | 大:会場の条件ごとに備える型がある |
| 当日運営 | 進行台本に沿った現場の采配、来場者対応 | 極小:その場の客足と空模様で変わる |
| 次回提案 | 報告書と効果測定レポート、来場者アンケートの整理 | 中:数字の整理と下書きまでは任せられる |
負荷が集中するのは、 景表法確認 です。ここで引っかかったとき、文言を直して済む話にはなりません。
懸賞の区分が一般懸賞か共同懸賞か、応募が商品の購入に結びついているかどうかで、出せる景品の上限額が変わります。上限を超えていれば、 賞品の中身と当選本数を組み直す ことになり、企画書と告知物の作り直しが提案の段階まで戻ります。
抱えているのは、営業と企画の担当者です。クライアントの法務部門へ確認を上げ、回答を待つあいだ、会場の仮押さえも告知物の入稿も止まります。答えが返るころには開催日を動かせないところまで来ていて、組み直しに使える時間だけが削られます。
この工程が先に片づくと、前後の流れが変わります。提案の席に出す前に区分と上限が分かっていれば、見積の賞品費を確定した額で積めます。会場・什器手配の側では、刷り直しで手配の日程が押される事故が減ります。
当日運営を極小に置いたのは、AIの出来の問題ではありません。雨脚が強まったとき、人の流れが読みと違ったとき、その場で進行を組み替えられるのは、会場に立っている現場責任者だけだからです。
SP代理店(イベント・販促提案など)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
先に触る業務は、担当者の好き嫌いで決まりません。繰り返しの多さと、外したときの跳ね返り。第1章の二つの物差しで並べ直すと、上に来るのはこの3件です。
景品の上限を、企画が固まる前に出す
動き出すのは、企画書と応募要項の案が提案用のフォルダに保存された時点です。AIが当たるのは、社内にまとめた懸賞の区分と上限額の早見、過去に可否を出したときの記録、クライアントの業種ごとの応募条件の決まりです。
企画の中身を一項目ずつ照らし、区分の判定と、上限を超える箇所を理由つきで並べます。応募規約の必要記載が抜けていないかまで見ます。
出てくるのは、適合チェックの一覧表に積まれた行です。企画担当には業務チャットで知らせが届きます。クライアントに出してから差し戻される流れが、 提案書を組む前に論点が並んでいる 流れに変わります。
挙がった指摘をどう収めるかは、その分野の懸賞を何本も通してきた企画責任者の仕事です。法務に上げて判断を仰ぐ案件か、賞品の本数を減らして社内で収める案件か。ここで名前を出すのは人です。
会場と人員の費目を、過去の案件から積む
二件目は、受注が見えた直後の工程です。実施要項の入力フォームが送信されると、記された会場、開催日数、動員規模、賞品構成をもとに、AIが費目別の単価表と、規模の近い過去案件の実行予算と最終精算額を呼び出します。
そこから会場費、什器、マネキンと警備の人件費、輸送と設営撤去を積み上げ、見積明細と実施計画書の下書きを組みます。
組んだ下書きは文書作成ソフトに残り、案件一覧表には賞品費と予備費の欄がついた行が加わります。過去の予算書を探し当てるところから始めていた作業が、 出来上がった明細に手を入れる作業 に変わります。
人が必ず見るのは、予備費の置き方です。屋外か屋内か、会期が週末にかかるかで、抑える幅が変わります。額に判を押すのは、その取引を負う営業責任者です。
中止の線引きを、会場ごとに書き起こす
三件目は、会場が押さえられたあとに始まります。図面と使用規定がファイル保管サービスに収まると、AIは同じ形状の屋外会場で中止・順延を決めたときの記録を呼び出します。
あわせて、警備動線と救護体制の型、会場管理者や地元と交わした取り決めも読み込みます。
そこから、荒天の段階ごとに什器の撤去手順、来場者の誘導先、告知の出し方を書いた下書きを作ります。下書きは進行台本と同じ場所に保管され、協力会社への共有分は現場責任者にメールで届きます。
会場が変わるたびに前の計画書を書き直していた工程が、条件に合った下書きから詰める工程になります。
何をもって中止とするかを決めるのは、当日その会場に立つ現場責任者です。来場者の安全に関わる判断は、人が名前で引き受けます。
業務に組み込むまでの4ステップ
通して説明するのは、天候と安全の計画書づくりです。一から仕組みを組む話ではなく、すでに手元にあるファイル保管サービスと表計算ソフトのあいだを一本つなぐ作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
使う記録は、もう社内にあります。
- 会場ごとの過去の中止・順延の記録と、誰がいつ決めたかの控え
- 警備会社と救護班の配置図、雨天時に切り替えた動線の図面
- 会場管理者や地元の消防と交わした取り決めの書面
新しく作るのではなく、 散っている置き場所を一つにそろえるだけ です。現場の紙のファイルに残っているなら、先に集めます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
きっかけを人の記憶に任せると、案件が重なった週から順に抜けます。会場と開催日が確定し、図面と使用規定がファイル保管サービスに収まった時点が自然です。安全の詰めはそこから始まります。ここを決めずに始めた仕組みは、たいてい二、三件で止まります。
3. 判断の基準を設定しておく
いちばん骨の折れる工程です。現場を仕切ってきた人が経験で決めている線を、言葉に起こして一箇所に集めます。書き留める中身は、たとえばこんな線です。
- 風と雨がどこまで強まったら、屋外の什器を立てたままにしないか
- 中止と順延を、開催の何時間前までに誰が決めるか
- 来場者が想定を超えたとき、入場を止める合図を誰が出すか
骨は折れますが、 一度まとめれば会場が変わっても使い回せます 。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
画面に出して終わりにはしません。下書きは進行台本と同じ場所に保存し、案件一覧表には安全の確認欄がついた行が増えます。確認は設営の前日までと決めておきます。目を通すのは、現場を仕切る立場の人です。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 業界ごとの自主基準を取りこぼす :景品表示法の上限に収まっていても、酒類や医薬部外品、金融商品のキャンペーンには、業界団体が別に定めた応募条件の基準があります。社内の早見だけでは拾えません。クライアントの業種に自主基準がある案件には印をつけ、人が必ず原典を開く決まりにします。
- 会場と単価の条件が古いまま残る:什器の単価も会場の使用規定も、年度の切り替わりで変わります。参照先が前年のままだと、通らない見積と、いまは認められていない動線の計画書が出続けます。 更新する担当と更新日を、参照先のファイルに書き添えます 。
- 現場に届く形になっていない:当日の会場でスタッフが見ているのは、紙の進行台本です。安全の注意点が別の一覧表にだけ出ていると、誰も開きません。 台本と同じ束に綴じられる形 で出し、持ち場ごとに切り分けて配ります。
SP代理店(イベント・販促提案など)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章では、判断の拠りどころが社内の記録に残っている作業と、その場の空模様と人の流れを見て決める作業を分けました。今回の3件は、当てる先が社内の記録とクライアントとの取り決めの中にあり、最後に判を押す人も決まっています。 どれも記録の側に並びます 。
全部をいっぺんに変える必要はありません。まず一つだけ選びます。開催が近づくほど手が詰まる業務を決めて、そこに通してみれば足ります。 線引きの元になるものは、過去の可否の記録と実行予算の控えに、すでに残っています 。

