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マーケティング・リサーチでのAI活用術

調査会社の仕事は案件ごとに中身が違って見えますが、AIを入れる価値があるかどうかは案件の内容では決まりません。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

マーケティング・リサーチに、そもそもAIは必要なのか

調査会社の仕事は案件ごとに中身が違って見えますが、AIを入れる価値があるかどうかは案件の内容では決まりません。見るべきは、その判断を月に何度繰り返しているか、そして間違えたときに何が起きるかの2点です。回数が多く、誤りが報告書の結論まで届いてしまう業務ほど、仕組みにする価値が出ます。

マーケティングリサーチのAI活用が効くのは、次のような業務です。

  • GT表とクロス集計表から、注目すべき差を洗い出す作業
  • 自由記述を決まったコード体系に沿って分類する作業
  • 過去の企画書と手法別の見積の型から、調査企画書の下書きを起こす作業

どれも、自社が積み上げてきた読み解きの型に照らして、同じ判定を大量に繰り返しています。

一方、グループインタビューの進行と、報告会でのクライアントとの議論には、AIを入れないほうがよいと考えます。対象者が言いよどんだ間や出席者の表情を見て次の問いを変えるのがモデレーターの仕事であり、その結果をどの意思決定に使えるかを助言する責任も担当リサーチャーにあるからです。

ただし、この線引きは業務単位で変わります。同じ自由記述でも、あらかじめコード体系が決まっているものと、初めて聞く言葉を拾って新しい分類を起こすものとでは、向き不向きが逆になります。次のセクションでは案件の流れを工程に分け、どこに余地があるのかを見ていきます。

オリエンから報告会まで、負荷が大きいのはどの工程か

調査会社の仕事を案件の流れに沿って工程に分けると、AIの効き方が工程ごとにはっきり違うことが見えてきます。回答を数として扱う工程と、人と向き合う工程が、同じ案件の中に交互に現れるためです。

業務工程主な作業AI活用の余地
オリエン・提案要望の聴き取り、調査企画書と見積の作成大:企画書の下書きを任せられる
調査設計調査票の作成、サンプルの割付設計中:設問の型の流用と不備の検査まで
リクルーティング対象者条件の設定、スクリーニング中:条件の矛盾の洗い出しを任せられる
実査回収状況の管理、会場調査やインタビューの進行小:回収の遅れの検知まで
データ処理不正回答の除去、自由記述のアフターコーディング大:決まった基準での判定を任せられる
集計・分析GT表とクロス集計表の読み込み、傾向の抽出大:注目すべき差の洗い出しを任せられる
報告書作成図表の作成、レポート本文の執筆大:図表と記述の草案づくりを任せられる
報告会結果の説明、クライアントとの質疑極小:出席者の反応で組み立てが変わる

最も負荷が集中するのは報告書作成です。報告会の日程はクライアントの社内会議に合わせて実査より前に決まっています。ところが集計表が上がるのは実査が終わってからで、読み解きと執筆に使える期間だけが後ろから押し縮められます。

担当リサーチャーが時間を取られているのは、文章を書く作業そのものではありません。何十ページもあるGT表とクロス集計表を、性年代・ブランド利用状況・購入頻度といった軸で順に追い、どの差を報告に載せ、どの差を落とすかを一つずつ決めていく作業です。

そのうえで、載せると決めた差を図表の形に起こし、調査目的に対する答えの順番に並べ直します。この並べ替えが報告会の前夜に集中します。

ここに手を入れると、前後の工程も変わります。注目すべき差が早く並べば、追加集計の依頼を実査の直後に出せます。図表の草案が先にあれば、報告会で聞かれそうな点を見越して補足の集計を用意できます。

報告会を「極小」としたのは、そこが結果を読み上げる場ではなく、出席者がその数字を自社の判断にどう使うかを一緒に考える場だからです。すべての工程を仕組みにできるわけではありません。

マーケティング・リサーチで最初に取り組むべきAI活用、3つ

手をつける順番は、繰り返しの回数と、間違えたときの影響の大きさで決まります。第1セクションで挙げた2軸です。次の3つは、調査会社の業務でこの両方が高く出た業務で、案件のたびに同じ形で発生します。

調査企画書の下書きを、オリエンの直後に起こす

オリエン・提案の工程です。クライアントから受け取った要望を社内の依頼受付フォームに入力した時点で、仕組みが動きます。AIは過去の案件の企画書と、手法別の標準工数と見積の型、自社が得意とする調査手法の一覧を参照し、目的に合う手法の候補と調査規模の案、概算の見積を書き出します。

書き出した内容は文書作成ソフトの企画書の形で案件フォルダに保存され、案件一覧表に行が増えます。これまでは営業担当が過去の企画書を探すところから始めていましたが、候補が並んだ状態から選び直せます。

提示する手法が調査目的に答えられるかは、担当リサーチャーが見極めます。工数と見積の責任は、案件を受ける営業担当にあります。

報告会の資料を、聞き手の言葉と数字の範囲に合わせる

報告書作成から報告会へ向かう工程です。報告会用の資料を案件フォルダに保存した時点が起点です。AIが読むのは資料本文と、その案件の集計仕様、そしてどこまで言い切ってよいかを決めた社内の申し合わせです。

加重をかけているか、どの設問が何人を基数にしているかと照らし、有意差のない差を言い切っている箇所や、基数の小さいセグメントを傾向として書いている箇所に印を付けます。同時に、有意差やウェイトバックといった調査の言葉には、宣伝部や商品開発部の出席者に向けた注記を添えます。

戻るのは、印と注記の候補が入った資料です。報告会の前夜に言い回しを一人で見直していた作業が、指摘の採否を選ぶ作業に変わります。

印の付いた表現を直すか残すかは、担当リサーチャーが集計表に戻って決めます。結論の責任は、この担当者にあります。

集計表から注目すべき差を、先に洗い出してもらう

集計・分析の工程です。集計を終えたGT表とクロス集計表が納品用の場所に上がったときに動きます。

AIが参照するのは、同じ案件の調査票と仮説一覧、それに自社の読み解きの型です。どの属性軸を必ず見るか、経年調査なら前回との変化をどこから拾うか、基数の小さいセルをどこから読まないことにするかといった決めごとです。

結果は表計算ソフトの一覧表に設問ごとに1行ずつ追記されます。どのセルに差が出ているか、それが仮説のどれに当たるかが並び、担当リサーチャーに業務チャットで知らせが届きます。集計表を頭から追って差を拾う段階を飛ばし、差の意味を考えるところから始められます。

その差を報告に載せるかは担当リサーチャーが元の集計表に戻って見極め、調査目的への答えをどう書くかは人が決めます。

業務に組み込むまでの4ステップ

ここでは3つ目の「集計表からの差の洗い出し」を例にします。新しいシステムを作る話ではなく、すでに使っているツールの間に情報の通り道を一本つくる作業です。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

使う情報は、どれもすでに社内にあります。

  • 集計を終えたGT表とクロス集計表
  • その案件の調査票と、オリエンで立てた仮説一覧
  • 過去の報告書で、どの差を載せどの差を落としたかの記録

新しく作るのではなく、置き場所を決めるだけです。案件フォルダと担当者の手元に散らばっているなら、集計結果の置き場を一箇所に決めます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

きっかけは、集計を終えた表が納品用の場所に保存された時点です。追加集計が後から届く案件では、保存のたびに増えた表だけが読まれる形にします。担当者が思い出して操作する形にすると、締め切りが迫った時期ほど使われなくなります。

3. 判断の基準を設定しておく

ここがいちばん時間のかかる工程です。経験の長いリサーチャーが集計表を開いた瞬間に見ている点を、文章にして一箇所にまとめます。たとえば次のようなものです。

  • 調査目的の型ごとに、どの属性軸を必ず見ることにしているか
  • どれくらいの差から「差がある」と扱い、どこから誤差の範囲とみなすか
  • 基数の小さいセルを、どの時点で読まないことにするか

一度まとめれば、次の案件からAIがそこを参照し続けます。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

洗い出した差は表計算ソフトの一覧表に設問ごとの行として追記し、担当リサーチャーに業務チャットで知らせが届くようにします。採否を同じ表に残すと、読み解きの型を見直すときの記録になります。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • 加重をかけた表を、そのままの人数として読む:割付とウェイトバックをかけた表は、並んでいる数字が実際の回答者数と一致しません。単純集計の表と同じ扱いで読むと、全体の傾向を取り違えます。集計表の様式に、加重の有無と基数を必ず書く欄を決めておきます。
  • 集計表の様式が案件ごとに変わって流れが止まる:表頭と表側の並びは、集計を担当する人や外注先によって変わります。並びが変わると、どの列がどの属性か判別できなくなって止まります。自社の標準様式を一つ決め、外注先にもその形で納品してもらいます。
  • 自由記述に個人が特定できる記述が混ざる:オープンアンサーには、勤務先や店舗名、家族の事情がそのまま書き込まれます。回答データをAIに読ませる前に、そうした記述を落とす工程を、データ処理の中に位置づけておきます。

マーケティング・リサーチのAI活用は、どこから考えればいいか

第1セクションでは、対象者や出席者と向き合って場を動かす仕事は人が担い、自社が積み上げた読み解きの型に照らして同じ判定を繰り返す業務にAIが効く、と線を引きました。紹介した3つは、どれも判断の基準がすでに過去の企画書や集計表の中にある業務です。

全部を一度に仕組みにする必要はありません。まず1つの業務から始めれば十分です。GT表も過去の報告書も調査票も案件フォルダの中にすでにあり、そこから着手できます。

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