業種分類に当てはまらない専門コンサルティング会社に、そもそもAIは必要なのか
自社の仕事にAIを入れる値打ちは、二つの問いで分かれます。同じ形の判断が一か月に何件たまるか。そして取り違えたときに、顧客の認証や許可がどこまで巻き戻るか。 両方が重い業務 だけが、認証取得コンサルティングでAIを検討する範囲に入ります。
二つが同時に重いのは、外部の基準と顧客の実態を突き合わせる仕事です。診断のヒアリングシートが返ってきてから現状レポートの下書きを起こすまでは、顧客が違っても埋める欄の順序が変わりません。
現場で撮った写真と点検記録を条項ごとに並べ直す作業も、条項の側が先に決まっています。追いかけている基準の改訂を、自社の点検表のどこが古くなったかに落とす作業も同じです。
一方、現場で担当者と向き合い、長年続いてきた手順を変えてもらう説得は、 人が出向いて話すしかない仕事 です。相手は自分のやり方を否定されたと受け取ります。
どこまで踏み込めば聞いてもらえるかは、その現場で誰が決定権を握っているかを見ながら決めることで、過去の是正報告書を並べても代わりになりません。
ただし、線は業務ごとに引き直すことになります。同じ現地点検でも、記録を条項に当てはめる作業と、その場で追加確認するかを決める作業では答えが違います。自社が請けている案件を工程ごとに切り分け、どこに同じ判断が積み上がっているかを数えるのが先です。次の章では、その分け方を表にして見ていきます。
見積・契約から更新・動向追跡まで、負荷が大きいのはどの工程か
この仕事を工程に分けて並べると、一件の診断が一方向に進んでいることが見えてきます。そして基準の側が動くので、いったん終わった顧客にも戻っていく工程があります。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 見積・契約 | 対象範囲の聞き取り、業務委託契約の条項確認 | 中:過去の類似案件から条件の抜けを示せる |
| 診断ヒアリング | 診断シートの回答回収、既存の規程と運転記録の読み込み | 大:現状レポートの下書きまで組める |
| 現地点検 | 現場の写真撮影、点検記録の記入、掲示物と設備の目視 | 中:記録の仕分けと是正報告書の下書きが進む |
| 適合性判定 | 基準の条項への当てはめ、要件チェックリストづくり | 大:記録が足りない条項を先に並べられる |
| 報告書づくり | 専門用語の言い換え、改善提言のとりまとめ | 大:顧客向けの版を別に起こせる |
| 是正・審査対応 | 是正の順番の相談、認証審査への同席 | 極小:着手の順は顧客の人手と予算で毎回変わる |
| 相談・研修対応 | 専門相談への回答、研修資料づくり、過去案件の引き当て | 中:過去の回答をそろえた下書きが出せる |
| 更新・動向追跡 | 基準の改訂の追いかけ、更新に向けた定期報告 | 大:改訂で古くなった点検項目を割り出せる |
最も時間と神経を使うのは、 現地点検 です。現場に入れるのは顧客の操業を止めない時間帯に限られます。その日のうちに見落としたものは、次に出張して同じ現場に立つまで判定が止まります。
点検者が削られているのは、見る時間そのものよりも、 見たものを記録に落とす時間 です。写真は基準の条項と結びついていないと後で使えないので、撮った直後にどの条項の証拠なのかを書き添えることになります。
ところが現場では手が空きません。結局は帰りの車内や事務所で、日付順に並んだ写真を一枚ずつ思い出しながら振り分けます。
現地点検に手が入ると、前後の工程が動き出します。写真と点検記録が条項に紐づいた状態で残れば、続く適合性判定は不足している条項を数えるところから始められますし、是正報告書も写真を探し直さずに起こせます。
是正・審査対応を極小と見たのは、どこから直すかが顧客の人手と設備投資の都合で毎回変わるからです。基準の側は同じでも、直せる順番は会社ごとに違い、そこは相手と話して決めるほかありません。
業種分類に当てはまらない専門コンサルティング会社で最初に取り組むべきAI活用、3つ
この3つを先に挙げる理由は単純で、件数が多く、しかも取り違えると顧客の認証や許可に響くからです。第1章の二つの問いに当てはめると、どれも上のほうに来ます。判定・診断・追跡と、属する工程もばらけています。
持ち帰った点検記録から、足りない条項を割り出す
動き出すのは、現地点検の記録と写真が案件フォルダに保存された時点です。AIはその顧客に適用される基準の条文と、事務所に積んだ判定の前例を照らし、条項ごとに「記録がある」「記録が足りない」を割り付けます。顧客の業種が変われば、あたる条文も入れ替わります。
出来上がるのは、条項番号の順に並んだ判定表の下書きで、案件フォルダの適合性一覧に行が増えます。いまは条文集と点検記録を行き来しながら埋めていますが、 足りない条項だけが先に立つ ので、追加で聞くことを決めてから机に向かえます。
適合と書けるかどうかを決めるのは、案件を担当する診断員です。前例にも条文にも当てはまらない状態は下書きに出てこないので、そこは自分で見極め、判定の理由も自分の言葉で書き足します。
診断シートの回答を、現状レポートの形にまとめ直す
こちらの入口は、顧客が診断シートを入力フォームで送り返した時点です。AIは、届いた回答と、事前に預かった社内規程や運転記録を読み、自社のレポートの章立てのどこに何が入るかを振り分けます。空欄のまま返った設問は別に立てます。
戻るのは、章立てだけ埋まった現状レポートの下書きで、案件フォルダに版として保存されます。これまでは回答一覧を眺めて書き出す順番を考えていましたが、並べ替えが済んだ状態から書き始められます。 空欄の一覧は、そのまま追加依頼の連絡文 になります。
顧客の言葉づかいのまま書き写された箇所を直すのは診断員です。回答と現場の実態が食い違っていないかは次の現地点検で確かめるので、下書きの段階では言い切らせません。
基準が改訂された週に、古くなった点検項目が分かる
三つ目は曜日で動きます。毎週決まった曜日に、AIが追いかけ先として設定した官公庁と規格の発行元の公開情報を読み、自社の点検表とチェックリストの項目一つひとつに突き合わせます。見るのは改訂そのものではなく、 文言が変わった項目がどれか です。
出てくるのは、直しが要る点検項目だけを並べた一覧で、社内のドキュメント管理ツールの改訂待ちリストに積まれます。いまは気づいた人が自分の担当分だけ直していますが、誰が見ても同じ一覧が出るので、古い項目のまま次の診断に持ち出すことがなくなります。
点検表を書き換えるのは、その分野を受け持つ技術責任者です。経過措置のある改訂でいつから新しい項目に切り替えるか、古い項目のまま出した報告をどう扱うかまで背負うのも同じ人です。
業務に組み込むまでの4ステップ
例に取るのは、点検記録から足りない条項を割り出す仕組みです。作るものはなく、記録を置くファイル保管サービスと判定表の表計算ソフトのあいだにAIを挟みます。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
読ませるものは三つとも社内にあります。
- 点検記録と、条項の番号を書き添えた現場写真
- 顧客の業界にかかる基準の条文集(版の日付つき)
- 過去に同じ基準で出した判定表と判定理由
新しく起こす書類はありません。ただし条文集が手元に分かれると 古い版で判定される事故 が起きます。案件フォルダの下に置き場を一つ設けます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
合図は、点検から戻った担当者が記録と写真を案件フォルダの決まった場所に保存した時点です。出張の日は案件ごとに違い、曜日では拾えません。
ここを固めずに「手が空いたら」にすると、翌週に別の現場へ出た時点で誰も回さなくなり、期限の直前に条文集を開く元の形へ戻ります。
3. 判断の基準を設定しておく
ベテランが条文を読むときに頭の中でかけている補正を、文章にして一箇所にまとめます。 いちばん手間がかかるのはここ です。
- 条文に数値の定めがない項目を、どの状態なら適合と見るのか
- 写真が撮れていない設備を、未確認と書くのか不適合と書くのか
- 業界団体の自主基準が法令より厳しいとき、どちらで判定するのか
書き出すと、同じ事務所でも人で線が違うと分かります。一度まとめれば別の顧客にも効きます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
戻し先は案件フォルダの適合性一覧です。足りない条項が上に寄った形で一行ずつ増え、担当の診断員に業務チャットで知らせが届きます。
読むのは翌日までで、顧客へ追加依頼を出す前です。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 条文集の版が古いまま判定される :基準の条文集はファイル名を変えずに差し替えられることがあり、置き場に旧版が残っていても気づけません。判定表の下書きには参照した条文集の版の日付を必ず書かせ、最新でない行は担当者に知らせが飛ぶようにしておきます。
- 顧客の言い回しが現状レポートから消える :診断シートの回答には、その会社だけで通じる設備名や工程名が並びます。下書きが一般的な語に置き換えてしまうと、現場で通じない報告書になります。置き換えない語を顧客ごとに登録し、読み替えた語には印を付けさせます。
- 追いかけ先に入っていない発行元の改訂を取りこぼす :基準は官公庁だけでなく、業界団体や認証機関の運用文書でも変わります。一覧に入れていない発行元の改訂は、更新審査の場で初めて知ることになります。年に一度、追いかけ先を顧客の業界ごとに見直します。
業種分類に当てはまらない専門コンサルティング会社のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章で引いた線は、外部の基準と顧客の実態を突き合わせる仕事には効き、現場で手順を変えてもらう場には効かない、というものでした。3つとも線の内側にあるのは、当てる先の条項も埋める欄も、 顧客に会う前から決まっている からです。
最初から八工程を見渡す必要はありません。 件数のいちばん多い工程を一つ 選び、そこだけ通せば十分です。買い足すものもなく、いま使っている診断シートと、事務所に積まれた過去の判定表と、条文集の置き場だけで始められます。

