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自動車・バイク(四輪・二輪)メーカーでのAI活用術

AIを組み込む値打ちがあるかどうかは、二つの物差しで測れます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

自動車・バイク(四輪・二輪)メーカーに、そもそもAIは必要なのか

AIを組み込む値打ちがあるかどうかは、二つの物差しで測れます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。自動車メーカーのAI活用は、この二つを自社の業務に当ててみるところから始まります。

四輪も二輪も、一つの型式を量産し、仕向け国や仕様ごとに枝分かれさせて売る商売です。決まった基準に照らして同じ判定を繰り返す場面が、工程のあちこちにあります。

  • ディーラーやお客様相談室から上がる不具合の申告を、部位と現象で仕分ける作業
  • 新しい仕向け国へ出すときに、その国の排出ガス基準と安全基準が何を求めているかを洗い出す作業
  • 排出ガスと燃費の試験成績を、型式指定の申請に要る諸元と突き合わせる作業

いずれも 判定の根拠が社内の記録として残っている 作業です。

反対に、テストコースでの乗り味と操縦安定性の作り込み、そしてリコールを届け出るかどうかの最終判断は、人の側に残します。

前者は路面と気温、運転者の感じ方を込みで評価するため、合否の線をその場で引き直すからです。後者は 安全にかかわる責任そのもの で、分析の資料をどれだけそろえても、決断は人が負います。

この線引きは業務の単位で変わります。同じ市場品質の仕事でも、過去の対策履歴から答えられる問い合わせと、保証の範囲を決める話とでは分かれます。次は、業務を工程に分けて見ていきます。

車両企画から市場品質まで、負荷が大きいのはどの工程か

自動車メーカーの業務は、一つの車種が企画から量産、販売、そして市場での不具合対応まで長く続きます。工程に分けて並べると、基準に照らす作業と、実車を走らせて決める作業がはっきり分かれます。

業務工程主な作業AI活用の余地
車両企画市場ニーズと競合の調査、仕向け先の検討中:調査資料の下書きを組める
設計・開発車体とパワートレインの設計、発明提案書の作成中:出願書類の一次点検を任せられる
実車評価テストコースでの走行評価、乗り味と操縦安定性の作り込み極小:路面と気温込みで線を引き直す工程
型式認証仕向け国ごとの要求項目の洗い出し、試験成績と諸元の突き合わせ大:申請資料の下地を先に組める
部品調達部品メーカーの品質監査、長納期部品の手配中:監査資料と供給遅延の兆しの整理が効く
生産・検査ラインでの組立、完成検査の記録、生産計画の見直し大:検査記録から外れていく動きを拾える
販売支援ディーラー向けの技術情報とサービスキャンペーンの案内作成中:過去の案内から下書きを組める
市場品質不具合申告の受付と仕分け、リコール判定の資料づくり大:申告の仕分けと類似案件の引き当てが効く

負荷が最も集中するのは 市場品質 です。自動車は一つの車種を数年にわたって造り続け、その間に仕様の変更や部品メーカーの切り替えが入ります。そのため、同じ現象の申告でも生産時期によって原因が違うことが起こります。

担当者は、ディーラーの修理記録とお客様相談室の受付票を読み、どの部位のどの現象かを見分け、過去の対策履歴と照らして、設計に起因するのか個体の初期不良かを切り分けます。申告は毎日届くため、この読み解きが日々の時間を食います。

ここに手を入れると、担当者は仕分けではなく、 同じ型式と同じ生産時期に偏っていないか の見極めに時間を使えます。設計・開発の工程にも、どの部位を見直すべきかが早く戻ります。

極小とした実車評価は、同じ車体でも路面と気温で挙動が変わる工程です。過去の評価記録は参考になりますが、乗り味の合否はその場の条件込みで引き直すため、判定そのものは任せられません。

自動車・バイク(四輪・二輪)メーカーで最初に取り組むべきAI活用、3つ

手をつける順は、同じ判断の繰り返しが多く、しかも誤れば市場での対応の遅れや出荷の差し止めにつながる業務からです。第1章の二つの物差しを当てると、次の三つがその位置に来ます。

ディーラーから上がる不具合申告を、先に仕分けておく

一つ目が動くのは、ディーラーの修理記録とお客様相談室の受付票が、市場品質情報として登録された時点です。AIは、社内で決めている部位と現象の分類体系、過去の同じ部位の対策履歴、これまでのサービスキャンペーンの記録に照らし、その申告がどこに当たるのかを判定します。

あわせて、同じ型式と同じ生産時期に申告が偏っていないかを照合します。

結果は品質情報の一覧表に、分類と似た過去案件が付いた行として積まれ、設計品質の担当者に業務チャットで知らせが届きます。受付票を一件ずつ読んで仕分けていた作業が、 分類が付いた状態 から確かめる作業に変わります。

分類が妥当かどうかは、品質保証の担当者が見ます。設計に起因する不具合かどうかを決めるのは、設計品質の責任者です。

新しい仕向け国で何を求められるかを、開発の前に洗い出す

二つ目の起点は、新型車をどの国へ出すかが計画として固まった時点です。AIが参照するのは、国ごとの排出ガス基準と安全基準の要求項目をまとめた一覧、新型車と継続生産車で分かれる申請区分ごとの必要書類、そして過去に同じ国へ出した型式の申請の記録です。

そこから、申請区分ごとの要求項目をチェックリストの形に組み、過去の申請から流用できる書類と、新たに要る試験とを分けます。

出来上がったチェックリストは文書として保管され、開発と認証の担当者が同じものを見ます。前回の申請書を引っ張り出して項目を並べ直していた作業が、 抜けを潰す 作業から始まります。

基準の読み方で解釈が割れる項目は、認証の担当者が精査します。その国へ出すと決めるのは、車種の企画を統括する責任者です。

排ガスと燃費の試験成績を、申請資料の形に組み直す

三つ目は開発の後段で動きます。試験部門が測定した排出ガスと燃費の結果が、所定の場所に保存された時点が起点です。AIは、その型式の諸元、申請資料に求められる記載の様式、基準値と過去の申請での書き方を参照し、測定結果を資料の形に組み直します。

あわせて、 基準に対して余裕の小さい項目 を別に抜き出します。

資料の下書きはファイル保管サービスに保存され、余裕の小さい項目は表計算ソフトの一覧に行として積まれます。試験成績書から数値を書き写していた作業が、書かれたものを点検する作業に変わります。

試験条件と数値の出どころは、試験部門が確認します。この内容で申請へ進めてよいかを決めるのは、認証の責任者です。

業務に組み込むまでの4ステップ

例にするのは「顧客からの品質クレームの分類分析」です。新しい仕組みを一から作る話ではなく、社内にある記録と表計算ソフトの間に、情報の通り道を一本引く作業です。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

仕分けに使う記録は、すでに社内にあります。

  • ディーラーから上がる修理記録と、交換した部品の情報
  • お客様相談室が受け付けた申告の票
  • 部位と現象の分類体系、過去の対策履歴とサービスキャンペーンの記録

新しく作るものはありません。品質保証と顧客対応の部門で別々に持っているなら、一箇所に集めます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

申告が市場品質情報として登録された時点を起点にします。担当者が手の空いた時間に見る形にすると、申告が増えた週ほど後回しになり、やがて使われなくなります。

3. 判断の基準を設定しておく

何をもって同じ不具合と見るのかを文章にし、一箇所にまとめて設定します。AIは毎回そこを参照します。品質保証を長く担当してきた人が頭の中で済ませている見分け方を、 外に書き出す作業 です。

  • ディーラーの記述のどの言い回しを、どの部位・どの現象に対応させるのか
  • どこまで似ていれば過去の案件と同じ扱いにし、どこから別件とするのか
  • 生産時期や仕向け先の偏りを、どの単位で見るのか

この工程がいちばん時間がかかります。一度書き留めれば、車種が替わっても使い回せます。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

品質情報の一覧表に、分類と類似案件の付いた行が増えます。過去に対策を打った部位と同じ分類に落ちた申告は、設計品質の担当者に業務チャットで知らせます。 週次の品質会議の前 に中身を確かめ、設計に戻す案件を絞り込みます。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • 二輪と四輪で部位の呼び方が揃わない:同じ現象でも、四輪の修理記録と二輪の整備記録では呼称が違います。混ざったまま流れると分類がばらけ、件数の偏りが見えなくなります。四輪と二輪で用語の対応表を先に決め、どちらの記録から来たかを行に残します。
  • 仕分けの結果を、安全上の判定として扱ってしまう:走行データから拾った予兆やAIが付けた分類は、見るべき先を絞るためのものです。そのまま届け出の要否の根拠にすると、人が検証できない判断が混じります。安全にかかわる判定は、試験と現品の確認を経てから下します。
  • 修理記録が自由記述のまま残る:ディーラーの記録は、現象と処置と部品交換の経緯が一つの欄に続けて書かれることが多く、そのままでは突き合わせに使えません。部位と現象は選択式に切り替え、経緯は別の欄に分けます。

自動車・バイク(四輪・二輪)メーカーのAI活用は、どこから考えればいいか

第1章で引いた線は、社内の記録や基準に照らして同じ判定を繰り返す業務にAIが効き、実車を走らせて決める評価と、安全にかかわる最終判断は人の側に残る、というものでした。先に挙げた三つは、いずれも 判定のよりどころが社内にそろっている 業務です。

すべてを一度に進める必要はありません。 まずは一つの業務から で十分です。ディーラーの修理記録、部位と現象の分類体系、国ごとの要求項目の一覧、表計算ソフトといった、すでに手元にあるもので着手できます。

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