総合電機メーカーに、そもそもAIは必要なのか
総合電機メーカーでAIを入れる値打ちがあるかどうかは、二つの軸で見分けられます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。
この二つがどちらも大きい業務ほど、AIを組み込む意味が出ます。総合電機メーカーのAI活用も、この順に見ていきます。
総合電機メーカーは、家庭向けの製品も工場の装置も社会インフラの設備も、同じ会社の中に並んでいます。そのため、同じ形の確認作業が事業部の数だけ重なります。AIが効くのは、次のような業務です。
- 仕向地ごとの規制に製品が適合しているかの確認
- 各事業部から上がる不具合報告の仕分けと原因の絞り込み
- お客様相談センターに届いた応対記録の分類
いずれも判断のよりどころが社内の記録にある業務です。
一方、電力会社や自治体を相手にした社会インフラ案件の仕様の詰めと、事業の組み替えの判断には入れないほうがよいと考えます。前者は、相手の設備更新の計画と予算の都合を聞きながら、その場で条件を動かす交渉です。後者は、どの事業を伸ばしどこから退くかという、 経営が責任を負う判断 です。
ただ、この線引きは業務ごとに変わります。同じ顧客対応でも、過去の記録に照らして答えられる問い合わせと、納入後の設備の扱いを約束する話とでは向き不向きが分かれます。次のセクションでは、総合電機メーカーの業務を部門ごとに分けて見ていきます。
経営企画からお客様対応まで、負荷が大きいのはどの工程か
総合電機メーカーの業務は、一本の流れになりません。事業部ごとに製品も納入先も違い、知財や品質保証のような本社の部門が横串で関わります。部門ごとに並べると、社内基準に照らして同じ判定を繰り返す仕事と、相手や現場を見て毎回決める仕事が分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 経営企画 | 提携候補先の一次スクリーニング、サステナビリティ報告書の下書き | 極小:案件ごとに見る観点が変わり、反復がない |
| 商品企画 | 新製品の企画提案資料づくり、競合製品との違いの洗い出し | 中:公開されている仕様の整理までなら任せられる |
| 研究・知財 | 特許出願書類の一次チェック、事業部間の技術転用の検討 | 中:出願書類の形式面の抜けは洗い出せる |
| 設計・法規対応 | 仕向地ごとの規制対応チェックリスト作成、型式ごとの認証の準備 | 大:規制の条文と製品仕様の照合が繰り返し起きる |
| 調達・生産 | 需要見通しに沿った生産計画の立案、調達先の品質監査資料づくり | 中:監査資料の下案は作れるが、決めるのは人 |
| 品質保証 | 検査データの規格外傾向の確認、各事業部の不具合報告の分類と原因分析 | 大:社内基準に沿った仕分けが毎日積み上がる |
| 営業・販促 | 法人・個人向け提案資料の下書き、展示会やカタログ向けの製品説明 | 中:過去の提案例をもとに下書きが起こせる |
| お客様対応 | 相談センターの応対記録の分類、修理・部品手配への振り分け | 大:問い合わせの型が限られ、振り分けの判断が定型 |
負荷が最も集中するのは品質保証です。総合電機メーカーでは、家庭用の製品から工場の装置、社会インフラの設備まで、性格の違う不具合報告が同じ部門に集まります。
担当者は、事業部ごとにばらばらの様式で上がってくる報告を読み、どの部位でどんな現象が起きたのかを自分の言葉で書き直してから、過去の同種案件を探します。製品群が違えば見るべき点も変わるため、一件ずつ頭を切り替えることになります。
そのうえで、単発の不具合か、同じ型式に広がる可能性があるかを見極めなければなりません。ここを読み違えると自主回収の判断が遅れるため、報告の多い日ほど神経を使います。
ここに手を入れると、担当者は報告を整理し直すことではなく、 広がりの有無を見極める ことに時間を使えます。前の調達・生産では、あとで問われる検査の記録を先に残す形に整い、後ろのお客様対応とも、同じ現象が届いていないかを照会し合えるようになります。
極小とした経営企画は、どの事業を伸ばし、どこから退くかを決める場です。過去の案件の記録は参考になりますが、見るべき観点がその都度変わるため、判定そのものを任せられません。
総合電機メーカーで最初に取り組むべきAI活用、3つ
最初に手をつけるのは、同じ判断が事業部をまたいで繰り返し起き、誤れば出荷の停止や自主回収につながる業務です。第1セクションの二つの軸を当てはめると、仕向地ごとの規制対応、検査データの規格外傾向の確認、応対記録の分類がここに当たります。
製品群ごとに違う国別規制を、一覧に起こす
起点は、事業部が新しい仕向地への出荷計画を登録した時点です。国と型式が入力されると動きます。
AIは、その国で製品群ごとに求められる規制の条文、過去に取得した認証の記録、社内で定めた適合判定の基準を照らし合わせ、型式ごとに必要な試験と提出書類のチェックリストを組み立てます。同じ国でも家庭向けと工場向けでは適用される規制が違うため、製品群ごとに分けて書き出します。
チェックリストは案件フォルダに文書として保存され、事業部の法規担当と輸出管理の担当に業務チャットで通知が届きます。国ごとの規制を一から調べ直していた作業が、 抜けている項目だけが残った状態 からの確認に変わります。
条文の解釈が分かれる項目は法規の担当者が見ます。出荷の可否は、事業部の品質保証の責任者が決めます。
拠点ごとの検査値を、同じものさしで並べる
二つ目は、拠点ごとに別々に見ている検査データを並べます。毎週決まった曜日、各生産拠点の検査記録が出そろった時点が起点です。
AIは、同じ型式を作る複数の拠点の測定値を、規格の中心からのずれという共通の尺度に直し、拠点ごとの管理の幅や部材のロットの切り替え記録と重ねます。そのうえで、一つの拠点だけが規格の外へ動いている型式を抜き出します。
結果は拠点を横に並べた比較の表として品質保証の管理表に積まれ、該当する拠点の品質担当に通知が届きます。一つの拠点の中では正常の幅に収まり気づけなかったずれが、 拠点間の差として見える ようになります。
測定器の癖か工程の変化かは、その拠点の技術者が切り分けます。ラインの条件を直すかは、製造の責任者が決めます。
相談センターに届く声を、事業部ごとに仕分ける
三つ目は、日々の応対記録を事業部ごとの一覧に変えます。記録が保存されるたびに仕組みが働きます。
AIは記録の文面を読み、社内で定めた事業部への振り分けの基準、製品群ごとの型式の一覧、分類済みの応対記録と突き合わせ、どの事業部のどの製品の相談かを判定します。あわせて、使い方の問い合わせか、故障の申し出か、修理の依頼かを分けます。
仕分けの結果は事業部ごとの一覧表に行として積まれ、同じ型式で故障の申し出が続けば品質保証の担当者に通知が届きます。月末に数え直す作業が、 その日のうちに並ぶ 形に変わります。
分類が相談の中身とずれていないかは、応対責任者が抜き取りで見ます。品質の問題として事業部に上げるかは、品質保証の担当者が判断します。
業務に組み込むまでの4ステップ
例にするのは「相談センターに届く問い合わせの仕分け」です。新しいシステムを作る話ではなく、応対記録の保管先と一覧表の間に情報の通り道を引く作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
仕分けに使う情報は、すでに社内にあります。
- 相談センターの応対記録と、そこで使っている分類の区分
- 事業部ごとの製品群と型式の一覧
- 過去に事業部へ引き継いだ案件の記録
新しく作るものはありません。センターと事業部で別々に保管されているなら、一箇所にまとめます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
応対記録が保存された時点を起点にします。担当者が思い出して操作する形にすると、新製品の発売直後や冷暖房の需要が立ち上がる時期ほど後回しになり、使われなくなります。
3. 判断の基準を設定しておく
どの相談をどの事業部に振り分けるのかを文章にし、一箇所にまとめて設定します。AIは毎回そこを参照します。長く相談センターに座ってきた人が無意識に見分けている点を、外に出して 書き留める作業 です。
- 型式が分からない相談を、どの手がかりから製品群に割り当てるのか
- 使い方の相談と故障の申し出を、どの言い回しで分けるのか
- 複数の事業部の製品がつながっている相談を、どちらの担当とするのか
この工程がいちばん時間がかかります。一度書き留めれば、製品が入れ替わっても応対する人が替わっても使えます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
仕分けの結果は事業部ごとの一覧表に積み、同じ型式の故障の申し出が続いたときだけ品質保証に知らせます。 すべてを通知しない ことが大切です。応対責任者が日ごとに抜き取りで見て、品質の問題として扱うかは品質保証の担当者が決めます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 事業部ごとに型式の書き方が違う:同じ製品でも事業部や拠点で型式の表記が揃っていないため、同じ現象の報告が別の製品のものとして数えられます。表記の書き方を社内で一つに決め、古い表記と新しい表記の対応も基準に書き込んでおきます。
- 応対記録に個人の情報が混ざる:相談センターの記録には、家庭のお客様の氏名や住所、電話番号がそのまま残ります。個人が特定できる部分を外した記録だけを対象にする段取りを、記録を保存する時点に組み込みます。
- 現地を見ないと分からない不具合まで任せる:昇降機や受変電設備のような据え付けの製品は、設置された場所の環境や使われ方で現象が変わり、記録の文面だけでは原因の候補が挙がりません。現地の確認が要る案件は仕組みから外し、保守の技術者が見る扱いにしておきます。
総合電機メーカーのAI活用は、どこから考えればいいか
第1セクションで引いた線は、社内の記録と決まった基準に照らして同じ判定を繰り返す業務にAIが効き、社会インフラ案件の仕様の詰めや事業の組み替えの判断は人が担う側に残る、というものでした。紹介した三つは、どれも判定のよりどころが文書として社内にある業務です。
すべての事業部で一度に進める必要はありません。 一つの業務に絞る ところからで十分です。仕向地ごとの認証の記録、各拠点の検査データ、相談センターの応対記録など、すでに手元にあるものだけで着手できます。

