Business Type Guide

鉄道業でのAI活用術

鉄道会社でAIを入れる価値が出るかどうかは、二つの軸で見分けられます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

鉄道業に、そもそもAIは必要なのか

鉄道会社でAIを入れる価値が出るかどうかは、二つの軸で見分けられます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。この二つがどちらも大きい業務ほど、組み込む価値が出ます。鉄道会社のAI活用も、この順番で見ていきます。

鉄道の仕事には、決められた基準に照らして同じ確認を何度も重ねる業務があります。AIが効くのはそちら側です。

  • 検査記録に残った数値の動きから、部品の傷みの兆しを拾う確認
  • ヒヤリハット報告を、起きた場所と原因の型ごとに仕分ける整理
  • 運休や遅れが出たときの、駅の掲示や放送に使う案内文の下書き

いずれも過去の記録と見比べれば答えが出る業務です。

一方、どの列車を先に通すか、どこで折り返しを打つかという運転整理の判断と、出勤時の点呼から運転士がブレーキを当てるまでの取扱いには、入れないほうがよいと考えます。

運転整理は、旅客の滞留、乗務員の残り勤務、車両の所在が同時に動くなかで、数分先の姿を描いて決める仕事です。点呼と運転取扱いは、その日の天候や乗車率で手前の目標が変わり、 最後は現認した人が責任を負うという前提の上に成り立っています。

ただ、この線引きは業務ごとに変わります。同じ運転指令のなかでも、判断そのものと、判断に要る情報を並べる作業では向き不向きが分かれます。次のセクションでは、鉄道会社の業務を工程に分けて見ていきます。

輸送計画から関連事業まで、負荷が大きいのはどの工程か

鉄道会社の仕事を工程に分けて並べると、定めた基準や過去の記録に照らして同じ確認を重ねる工程と、目の前の列車と旅客を見て毎回違う判断を下す工程が、はっきり分かれます。

業務工程主な作業AI活用の余地
輸送計画ダイヤ改正時の列車の設定、乗務員の行路作成、沿線の利用動向の下調べ中:需要の試算と資料の組み立てを任せられる
運転指令平常時の運行監視、異常時の運転整理、荒天時の計画運休の判断中:判断に要る情報の集約を任せられる
乗務出勤時の点呼、運転取扱い、車内の客扱い極小:天候と乗車率で手前の判断が毎回変わる
駅務改札・きっぷの取扱い、旅客案内、寄せられた声への対応大:問い合わせの仕分けと案内文の下書きを任せられる
車両検修仕業検査・交番検査と検査記録の記入、不具合の原因切り分け大:記録に出る変化の拾い上げを任せられる
施設保守線路の巡視、軌道変位の測定、保守間合いの割り振り中:点検計画書の下書きを任せられる
安全管理ヒヤリハット報告の整理、事故報告書の作成、国や自治体への報告大:定めた様式への整理と仕分けを任せられる
関連事業駅ナカのテナント提案、企画乗車券の企画中:提案資料の骨組みづくりを任せられる

負荷が最も集中するのは運転指令です。一本の列車が遅れると、後続の列車、折り返しの行路、乗務員の残り勤務、車両の所在が同時にずれていき、そのすべてを整合させた案を短い時間で組む必要があります。

指令員は、運転整理の案を描きながら、各駅と乗務員に無線で伝え、旅客案内の文面を起こし、振替輸送の手配まで抱えます。荒天時はさらに、気象情報と過去の運転規制の記録を突き合わせ、駅間に列車を止めない時刻を逆算して計画運休を決めます。

判断そのものより、判断に要る情報をかき集める時間のほうが長いのが実情です。

ここに手を入れると、指令員は資料を探す手を止めて、どの列車を先に通すかに専念できます。前工程の輸送計画も、遅れの出方の記録が整うことで、次のダイヤ改正で余裕時分をどこに置くかの議論に使えます。

極小とした乗務は、駅ごとの停止位置、雨や雪による粘着の変化、駅での停車時間の延びを見ながら、次の一手を決め続ける仕事です。過去の運転記録は参考になりますが、目の前の線路と信号現示に対する判断は任せられません。

鉄道業で最初に取り組むべきAI活用、3つ

先に手をつけるのは、同じ確認が何度も起きていて、かつ取りこぼすと運行や安全に響く業務です。第1セクションの二つの軸に当てはめると、荒天時の運行計画の組み替え、検査記録の確認、駅に寄せられた声の仕分けが、そこに当たります。

荒天時の運休判断に要る情報を、一枚にまとめる

起点は、気象の警報や注意報が出て、気象情報が指令の共有先に取り込まれた時点です。AIは、路線ごとに定めた運転規制の基準値、似た気象で規制をかけたときの過去の記録、その時間帯の列車の本数と乗務員の行路を照らし、規制がかかりそうな区間と、駅間停車を避けるための折り返し候補を並べた資料を組み立てます。

資料は指令席の一覧表に一件ずつ積まれ、輸送の責任者と関係する駅に業務チャットで知らせが届きます。これまでは指令員が規制値の表と過去の対応履歴を別々に開いて突き合わせていましたが、 突き合わせが済んだ状態から検討に入る形に変わります。

候補の区間と時刻が実際の線路の状況に合っているかは、指令員が確かめます。計画運休を発表するかどうかは、輸送の責任者が決めます。

検査記録に出ている変化を、故障になる前に拾う

いまは、検修庫で記入された検査記録が車両ごとに積み上がり、前回との違いに気づけるかどうかが、その車両を何度も見てきた検修担当の記憶に頼っています。ここを仕組みにします。

検査記録が指定の保管先に取り込まれたときが起点です。AIは、同じ形式の車両の過去の測定値の幅、交換に至った部品の記録、走行距離と検査の間隔を突き合わせ、 基準の内側にありながら一方向に動き続けている項目を拾い上げます。

結果は車両ごとの点検表に一行ずつ足され、検修と技術の担当に知らせが届きます。指摘が摩耗の進みなのか、測定器の誤差や測り手の癖なのかは、現車を見ている検修担当が確かめます。次の検査を待たずに手を入れるかは、車両の責任者が判断します。

駅に寄せられた声を、駅ごとの手当てに変える

戻り先は、駅ごとの一覧表です。毎週決まった曜日に、その週に駅係員が記録した問い合わせと申し出の履歴が集まり、AIが仕分けにかかります。

AIは、社内で定めた分類の区分、過去に同じ申し出から改修や掲示の見直しにつながった事例、駅の構造と設備の一覧を参照し、案内の分かりにくさ、設備の不具合、接続が切れたことへの申し出といった型ごとに束ね、増えている駅を並べます。

出来上がった一覧は駅ごとの文書として保存され、駅長と営業の担当に知らせが届きます。個々の応対の記憶を持ち寄って会議で話していた状態から、 束ねられた傾向を見て手当てを決める形に変わります。

仕分けが実態に合っているかはその駅の駅長が、掲示や案内を直すかどうかは営業の責任者が決めます。

業務に組み込むまでの4ステップ

例にするのは「検査記録から傷みの兆しを拾う仕組み」です。新しいシステムを作る話ではなく、いま使っているファイル保管サービスと表計算ソフトの間に、情報の通り道を一本引く作業です。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

拾い上げに使う記録は、すでに社内にあります。

  • 仕業検査・交番検査で記入された測定値と所見
  • 交換した部品と、そこに至るまでの不具合の記録
  • 車両ごとの走行距離と、検査を通した日付の履歴

新しく作るものはありません。検修庫の控えと本社の保管先に分かれているなら、一箇所にまとめます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

検査記録が指定の保管先に取り込まれたときを起点にします。担当者が思い出して始める形にすると、検査が立て込む時期ほど後回しになり、やがて誰も開かなくなります。

3. 判断の基準を設定しておく

何をもって兆しとみなすのかを文章にし、一箇所にまとめて設定します。AIは毎回そこを参照します。何十両も見てきた検修担当が、記録を眺めた瞬間に無意識で拾っている点を、 外に書き出す作業です。

  • 基準の内側でも、何回続けて同じ向きに動いたら気にかけるのか
  • 走行の条件が違う車両どうしを、どこまで同じ物差しで比べてよいのか
  • 測り手や測定器が替わったときの振れを、どう差し引くのか

この工程がいちばん時間がかかります。一度書き留めれば、他の形式の車両にも使い回せます。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

拾った項目は車両ごとの点検表に一行ずつ足し、業務チャットで検修と技術の担当に知らせます。 次の検査を組む前に担当者が開き、指摘の当否を見てから、車両の責任者の確認に回します。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • 検修庫と保線区に紙の記録が残る:測定器の前で手袋のまま書き込む都合上、検査票や巡視記録は紙のまま回り、押印で完結する運用が残ります。紙のままでは仕組みに入りません。検査票の様式を決まった入力の形に揃え、記入したその場で取り込む段取りに変えます。
  • 工事や徐行の期間を平常時と同じに扱う:保守間合いの工事、代行輸送、臨時ダイヤの期間は、遅れ方も検査の間隔も平常時と違います。区別せずに読ませると、傾向が歪みます。工事や規制の期間を記録に印として残し、集計から外すか別に見る形にします。
  • 正式な記録をAIの出力で置き換えてしまう:検査記録や安全報告は、保存の義務と記載の要件が法令で定められています。AIが整えた文をそのまま正式な記録にすると、要件を満たさない恐れがあります。出力は下書きにとどめ、記録として残す文は担当者が確定させます。

鉄道業のAI活用は、どこから考えればいいか

第1セクションで引いた線は、社内の記録や定めた基準に照らして同じ確認を重ねる業務にAIが効き、運転整理の判断と乗務の取扱いは人が担う側に残る、というものでした。紹介した三つは、いずれも見比べる先が記録として残っている業務です。

全部を一度に進める必要はありません。 まずは一つの業務からで十分です。検査記録、過去の運転規制の履歴、駅で受けた申し出の控え、表計算ソフトといった、すでに手元にあるものから始められます。

#運輸・物流業界#鉄道業#AI活用