道路貨物運送業(宅配便・トラック運送など)に、そもそもAIは必要なのか
どの業務にAIを入れると元が取れるのかは、二つの問いで見分けがつきます。その判断は月に何度戻ってくるか。取り違えたとき、荷物と会社に何が残るか。どちらの答えも大きい業務ほど、仕組みにする値打ちが出ます。トラック運送業のAI活用も、この順で当てはめていきます。
運送会社の一日には、決まった基準に照らして同じ確認を重ねる作業が並んでいます。AIが効くのはそちら側です。
- 運行日報と車載の記録からの、危ない運転の癖の洗い出し
- 誤配と破損の報告を突き合わせ、同じ原因が重なっていないかを見る作業
- 車両の点検記録から、故障に至る前の変化を拾う確認
いずれも判断のよりどころが、社内に残った記録の側にある作業です。
一方、乗務前の点呼と、荷主構内での荷役の段取りには入れないほうがよいと考えます。点呼は、ドライバーの顔色と受け答えを見て、その日乗せるかどうかを判断する場です。法令が対面を原則としているのは、 最後に運行管理者が責任を負う判断だからです。
荷役の段取りは、構内の広さ、パレットの有無、当日の待機の列が毎回違い、現場で組み替えるほかありません。
この線引きは、業務の単位ごとに引き直す必要があります。同じ配車の仕事でも、翌日の車両とドライバーを組む作業と、荷主から入る当日の変更をさばく作業では、向き不向きが割れます。この先は、運送会社の仕事を受注から請求までの工程に区切って見ていきます。
見積から運賃請求まで、負荷が大きいのはどの工程か
運送会社の仕事は、荷主からの見積の依頼に始まり、配車、運行、帰庫後の日報の処理を経て、運賃の請求で一巡します。工程に分けて並べると、同じ判断の繰り返しがどこに寄っているかが見えてきます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 見積・受注 | 荷主からの見積依頼への回答、運賃改定の説明 | 大:一次回答の下書きまで用意できる |
| 配車・運行計画 | 車両とドライバーの割当、傭車の手配、拘束時間の確認 | 大:上限に触れる組み合わせを洗い出せる |
| 点呼・出庫 | アルコールチェック、日常点検、運行指示の伝達 | 小:対面でその日の状態を見る場が中心 |
| 集荷・積込 | 荷主構内での待機、荷台への積付け、送り状の受領 | 極小:現品と荷台を見ながら毎回積み方が変わる |
| 幹線輸送・配達 | 納品、再配達の手配、荷物追跡の問い合わせ、誤配と破損の報告 | 中:報告の突き合わせと回答の下書きに向く |
| 帰庫・日報処理 | 運行日報の受領、車載データの確認、遅延の理由の聞き取り | 大:運転の癖の拾い上げを任せられる |
| 車両整備 | 定期点検、点検記録の管理、修理の手配 | 大:入庫の順番を先に並べ替えられる |
| 運賃請求 | 運賃の締めと請求、燃料サーチャージの反映、荷主クレームの処理 | 中:クレームの仕分けと燃料費の集計が進む |
配車・運行計画 に負荷が集中します。翌日の依頼が出そろわないまま、車両とドライバーの組み合わせを先に固めておかなければならないためです。
配車担当は、荷主が指定した着時間、ドライバー一人ひとりの残りの拘束時間、車格と積載量、帰り荷の当てを同時に成り立たせる案を探します。
そこへ当日、積み込み量の変更や、渋滞と構内待機で崩れた運行が入ってきます。配車を引き直すたびに、拘束時間の上限に触れないかを 一人ずつ数え直す ことになります。
この工程が軽くなると、配車担当は数え直しから離れて、誰をどの便に乗せるかの見極めそのものに時間を回せます。前の工程の見積も、車両の空き具合を踏まえた回答が出せるようになります。後ろの帰庫・日報処理でも、無理な行程が原因の遅れが減り、聞き取りの手間が軽くなります。
極小とした集荷・積込は、荷台に何をどう載せるかを、荷物の形と重さ、降ろす順番を見ながら毎回決め直す作業です。積付けの記録を残しても、目の前の荷物をどう積むかは人が決める工程です。
道路貨物運送業(宅配便・トラック運送など)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
3件に共通するのは、同じ判断が戻ってくる回数と、外したときの重さが、どちらも上位に来ることです。冒頭の二つの問いで言えば、答えがともに大きい側に並びます。日報の束、事故と誤配の報告、点検記録という、すでに毎日たまっている記録が出発点になる点も同じです。
運行日報から、次に声をかけるドライバーを決める
起点は、その日の運行日報と車載の記録が、指定の保管先に取り込まれた時点です。AIは、ドライバーごとの過去の運行の記録、走った路線と時間帯、車格ごとの平常の幅、自社が定めた指導の線引きを照らし、急ブレーキや速度の超過が同じ人に寄っていないかを拾い上げます。
結果はドライバー別の一覧表に一行ずつ足され、担当の運行管理者には業務チャットで知らせが飛びます。いまは日報の束を一枚ずつめくり、気になった一人を覚えておくやり方ですが、 線を越えた人が先に並んだ状態 から面談の段取りに入る形に変わります。
指摘が本人の癖なのか、その路線の道路事情なのかは、運行管理者が日報の原本と照らして見極めます。乗務の制限や指導の内容を最後に判断するのは、安全の責任者です。
誤配と破損が繰り返される場所を、先に特定する
二件目は、配達先や荷主から不着と破損の連絡が受付に入り、報告の記録が起こされた時点で動きます。AIは、同じ届け先での過去の指摘、担当した営業所とコース、積み替えを経た拠点、梱包の形、配達の時間帯を突き合わせ、同じ条件でどれだけ重なるかを数えます。
出力は営業所ごとの一覧表に積まれ、月の締めを待たずに所長と品質の担当が見られる形で残ります。いまは一件ずつ経緯を書いて終わりになり、同じ集合住宅や同じ積み替えの拠点で何度も起きていることが、つながらないままです。
重なりが本当に同じ原因なのか、たまたま近い条件が並んだだけなのかは、営業所の担当が現場を見て切り分けます。コースや積み方を組み替えるかは、営業所の責任者の判断になります。
整備に入れる車両の順番を、点検記録から組み立てる
三件目が見るのは、日常点検と定期点検の記録です。点検の結果が保管先に入ると、AIは、同じ車型の過去の交換の履歴、走行距離と前回の整備からの間隔、消耗品の減り方、ドライバーが書き添えた異音や振動の記述を並べ、許容の幅には収まっていながら、前回から同じ向きにずれ続けている項目を抜き出します。
抜き出した内容は車両ごとの整備の一覧表に残り、整備の担当者に知らせが届きます。これまでは車検と定期点検の時期で入庫の順番が埋まっていましたが、 先に見るべき車両 が上に来る形になります。
異音の記述が部品の傷みなのか、積んだ荷物の偏りなのかは、整備の担当者が現車を見て確かめます。部品の交換を前倒しするか、走らせ続けるかを決めるのは、整備管理者です。
業務に組み込むまでの4ステップ
例にするのは一件目の「運行日報からの安全運転の傾向の読み解き」です。一からシステムを起こすのではなく、毎日集まる日報と手元の表計算ソフトをつなぎ合わせる話です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
読み解きに使う記録は、すでに営業所の中にあります。
- 毎日出てくる運行日報と、車載の記録装置から落ちるデータ
- 運行指示書に書かれた路線、届け先、着時間
- 過去の事故とヒヤリの報告、指導の記録
新しく起こすものはありません。日報が紙の束、装置のデータが端末、指導の記録が台帳と分かれているなら、先に一箇所へ寄せます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
帰庫の点呼が終わり、その日の日報とデータが指定の場所に入ったときを起点にします。運行管理者が思い出して見に行く形にすると、繁忙期ほど後回しになり、やがて表が開かれなくなります。
3. 判断の基準を設定しておく
どこから危ないと見るのかを、あらかじめ文章の形で一箇所に設定します。AIが判断のたびに読みに行く先が、ここです。点呼と面談を重ねた運行管理者が日報を見た瞬間に感じ取る線を、 言葉にして外へ出す作業 です。
- 一運行あたりの急ブレーキと急加速を何回から拾うか
- 同じ路線の同じ時間帯なら平常とみなす条件をどこに引くのか
- 経験の浅い人や、大型に乗り換えた直後は線を下げるのか
時間がかかるのはここです。ただし一度書き出せば、他の営業所でも使えます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
出力はドライバー別の一覧表に足し、業務チャットで担当の運行管理者に知らせます。 次の点呼で顔を合わせる前 に目を通し、日報の原本と突き合わせてから、面談の相手と順番を絞ります。安全会議で残す先も定めます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 手書きの日報と車載の記録がつながらない:日報は走行の合間に書き足すため手書きが残り、記録装置のデータは車両の型ごとに出てくる項目が違います。人が突き合わせている間は、流れが途中で止まります。日報の記入を入力フォームに寄せ、車載データの項目の対応表を先に作っておきます。
- 傭車に出した運行の記録が自社に残らない:繁忙期に協力会社へ回した便は、運行の記録が相手の会社に留まり、自社の一覧には空白が並びます。自社便だけで傾向を見ると、危ない運行が見えないまま残ります。日報の提出の形と時期を、協力会社との契約の時点で取り決めておきます。
- 拘束時間の判定を出力だけで確定させてしまう:上限に触れる組み合わせの洗い出しは任せられますが、拘束時間と点呼の記録を備える義務は事業者の側にあります。一覧表の表示だけで配車を固めず、運行管理者が原本で確かめる箇所を決めておきます。
道路貨物運送業(宅配便・トラック運送など)のAI活用は、どこから考えればいいか
冒頭で引いた線は、社内に残る記録と照らして同じ確認を重ねる作業にAIが効き、乗務前の点呼と荷主構内での荷役の段取りは 人の側に残る 、というものでした。今回の三つは、判断の手がかりが日報と報告書、点検記録という形で社内に揃っている業務ばかりです。
三つとも同時に動かす必要はありません。 一つの営業所の、一つの業務から で十分です。要るのは日報の束と事故の報告、点検記録の控え、それに表計算ソフトだけで、どれも営業所の中にあります。

