Business Type Guide

航空運輸業でのAI活用術

AIを入れる値打ちがあるかは、二つの軸で見当がつきます。同じ判断を月に何回繰り返しているか。そして、その判断を取り違えたときに何が起きるかです。両方が大きい業務ほど、仕組みで支える効果が出ます。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

航空運輸業に、そもそもAIは必要なのか

AIを入れる値打ちがあるかは、二つの軸で見当がつきます。同じ判断を月に何回繰り返しているか。そして、その判断を取り違えたときに何が起きるかです。両方が大きい業務ほど、仕組みで支える効果が出ます。年に数回しか起きず、外しても取り返しがつく業務は、手間に見合いません。

航空運輸業では、この線がはっきり分かれます。効くのは、機体整備の記録から不具合の兆しを拾う作業です。同じ機種の測定値と部品の交換履歴を、整備の基準に照らして見比べる仕事が、毎日どの機番でも起きています。

乗務員や整備士、地上職員から上がる安全報告の仕分けも同じです。自由に書かれた文面を社内の区分と過去の事例に当てはめる判断が、報告の数だけ重なります。

反対に、人が担うべき業務もあります。出発前に見つかった不具合を、その場で処置するか、規定で認められた範囲で持ち越すか、機材を替えるかという判断です。 耐空性の確認として整備士が記録に署名する 領域で、責任が人に結びついています。

搭乗口で搭乗を見合わせるかどうかも同じです。目の前の旅客の様子を見て決める仕事で、過去の記録からは導けません。

線の位置は会社によって動きます。国際線が中心の会社と、地方路線を短い区間で回す会社では、手間の集まる場所が違います。航空会社のAI活用は、 自社の業務を工程に分けて並べる ところから始まります。どこで同じ判断が重なっているかは、そうして初めて見えます。

路線計画から安全報告まで、負荷が大きいのはどの工程か

航空会社の仕事を部門ごとに並べると、それぞれが別の周期で回っていることが分かります。一便の流れに乗る工程もあれば、機体や乗員のサイクルで動く工程もあり、同じ確認の重なり方も工程ごとに違います。

業務工程主な作業AI活用の余地
路線計画新規路線の市場調査、季節ダイヤの便数と機材の割当て極小:路線ごとに前提が変わり判断が毎回違う
座席販売予約の入り具合の確認、運賃と座席在庫の調整、会員への案内大:搭乗実績の読み解きと案内の下書きを任せられる
運航準備機材繰りの確認、コードシェア便の条件調整、貨物の積載計画中:条件の突き合わせと計画案の組み立てを任せられる
乗員配置乗務割の作成、乗務時間の制限の確認中:制限に触れる組み合わせの洗い出しを任せられる
機体整備運航整備での記録記入、不具合の処置、部品交換履歴の管理大:記録に出る兆しの拾い上げを任せられる
当日運航悪天候時のダイヤ変更、旅客への案内、カウンター混雑の把握中:案内文の下書きと混雑状況の整理を任せられる
安全報告報告の仕分け、当局への報告書作成、乗客の申し出の整理大:区分への仕分けと過去事例との結びつけを任せられる

負荷がいちばん集中するのは 機体整備 です。とくに出発前の運航整備では、駐機している短い時間の中で不具合と向き合うことになります。

整備士は、機側で見つかった不具合を前に、その場で処置するか、規定で認められた範囲で持ち越すか、機材そのものを替えるかを決めます。出発時刻は動かせず、決めた内容は耐空性の確認として記録に残ります。

判断を支えるのは過去の記録です。同じ機番で以前も似た症状が出ていたのか、その部品をいつ交換したのか。

それらは整備記録の中にありますが、機番ごと・検査ごとに分かれて保存されているため、出発前に探し出すのは現実的ではありません。結果として、 その場に居合わせた整備士が何を覚えているか で、詰められる範囲が変わってしまいます。

兆しを前もって拾えるようにすると、出発前に決断を迫られる場面そのものが減ります。運航準備の側でも、交換が近い機体を避けて機材繰りを組めるようになります。

極小とした路線計画は、空港の発着枠、相手国との取り決め、競合他社の動きといった前提が、路線ごとに違う組み合わせで効いてきます。過去の路線の記録は参考になりますが、次の一本をどこに開くかは任せられません。

航空運輸業で最初に取り組むべきAI活用、3つ

先に手をつけるのは、同じ確認が繰り返し起きていて、かつ取り違えると運航や安全に響く業務です。二つの軸を当てはめると、整備記録の読み解き、会員への案内づくり、安全報告の仕分けが、そこに重なります。

整備記録から、次に手を入れる機体を絞り込む

その日の運航整備で記入された記録が、指定の保管先に取り込まれると動きます。AIが照らすのは、同じ機種の過去の測定値の幅、部品ごとの交換履歴、飛行時間と飛行回数、整備の基準として定めた限界値です。限界値には届いていないのに、測るたびに同じ向きへずれ続けている項目を、機番ごとに並べます。

並んだ結果は機番ごとの一覧表に積まれ、整備部門の担当に業務チャットで知らせが飛びます。記録は機番ごと・検査ごとに分かれているため、変化を見つけるには一件ずつ開き直して数値を目で追うほかありませんでした。 探す手前に候補が出ている 形に変わります。

挙がった項目が実際の傷みなのか、測定器の癖や記入のばらつきなのかは、現車を見ている整備士が見分けます。定例の検査を前倒しするかどうかは、整備の責任者が決めます。

上級会員への案内を、搭乗実績から組み立てる

戻り先は、文書作成ソフトに保存される案内の下書きです。毎月の搭乗実績が締まった日を起点に動きます。AIが参照するのは、上級会員の資格区分と積算の条件、搭乗クラスと運賃種別ごとの積算の扱い、提携他社便で対象から外れる区間、特典航空券の座席が開く条件です。

AIは、資格の更新が近い会員、積算が届きそうで届かない会員といった型ごとに束ね、それぞれに合う特典の使い道を書いた下書きを組み立てます。担当者が搭乗履歴を見ながら文面を一から起こしていた作業は、 型ごとに束ねた下書き への手直しに変わります。

積算の条件の書き方が会員規約と食い違っていないかは、会員制度の担当者が確かめます。どの会員にどこまで案内するかは、営業の責任者が決めます。

現場から上がる報告を、過去の事例に結びつける

乗務員、整備士、地上の職員が入力フォームから報告を出した時点で動きます。AIは、社内で定めた事象の区分、過去に同じ報告から手順の見直しにつながった事例、機種と空港ごとの特性を参照し、報告の文面がどの区分に当たるか、過去のどの事例と近いかを結びつけます。

仕分けの済んだ報告は安全報告の一覧表に行として増え、安全推進の担当に知らせが届きます。自由に書かれた文面を読み込み、同じ事象が別の言葉で書かれていないかを 一件ずつ見比べる手間 が、ここで先に片づきます。

区分が適切か、当局への報告が要る事象に当たるかは、安全推進の担当者が確かめます。手順や規程を直すかどうかは、安全の責任者が決めます。

業務に組み込むまでの4ステップ

現場から上がる安全報告の仕分けを例にします。何かを一から開発するのではありません。すでにある入力フォームと表計算ソフトを、情報が流れる順につなぎ直す作業です。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

仕分けに使う情報は、すでに社内にあります。

  • 乗務員・整備士・地上職員が出してきた過去の報告の控え
  • 社内で定めた事象の区分表
  • 報告から手順や規程の見直しにつながった事例の記録

新しく作るものはなく、置き場所を決めるだけです。部門ごとに分かれている場合は、一箇所にまとめます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

人が思い出して開くのではなく、業務の出来事をきっかけに動かします。自然なのは、報告が入力フォームから届いた時点です。ここを決めないと繁忙期に触られなくなり、結局は使われなくなります。

3. 判断の基準を設定しておく

何を基準に仕分けてほしいのかを、あらかじめ文章にして一箇所にまとめます。AIは毎回そこを参照します。安全推進の担当者が経験から無意識に見分けていることを、外に出して書き留める作業です。

  • 判断が割れやすい文面を、どの区分に入れるかとその理由
  • 当局への報告が要る事象に当たるかを見分ける手がかり
  • 同じ事象を指す言い回しの揺れ。空港ごとに呼び方が変わるもの

この工程がいちばん時間がかかります。ただし、 一度書けば以後は使い回せます 。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

出力は画面に表示して終わりにしません。仕分けの済んだ報告が安全報告の一覧表に行として増え、安全推進の担当に業務チャットで知らせが届く形にします。 当局への報告が要りそうな区分は、その日のうちに確かめる といったように、見るタイミングも決めます。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • 機種が変わると記録の様式も変わる:整備記録の項目名や単位は機種ごとに違います。機材を入れ替えたときに対応を決めずにいると、同じ名前で別の値が入り、見当違いの項目が並びます。機種ごとの項目の対応表を作り、新しい機材が入るときに誰が更新するかを決めます。
  • 規定で持ち越した不具合を、未処置として数える:一部の装備を使わないまま飛ばすことが規定で認められた案件は、手当ての済んだ扱いです。未処置として拾い続けると同じ機体が何度も候補に挙がり、担当は一覧表を信用しなくなります。持ち越しの決裁が済んだ時点で、記録に区分を書き込みます。
  • 会員の搭乗履歴を、案内の範囲を超えて使う:搭乗履歴には、どの区間にいつ乗ったかという行動の記録が含まれます。会員規約で示した利用の範囲を超えると、規約に反します。参照してよい項目と、下書きに書いてよい内容を先に決めます。

航空運輸業のAI活用は、どこから考えればいいか

はじめに引いた線を思い出してください。答え合わせの相手が記録の側にある業務はAIが引き受けられ、その場の機体や旅客を見て決める判断は人に残ります。三つの活用が線の内側にあるのは、 見比べる相手が社内に揃っている からです。

三つを同時に進める必要はありません。着手しやすいのは安全報告の仕分けです。事象の区分表がすでに文書としてあり、 基準を書き起こす手間がいちばん小さい からです。整備記録は機種ごとの様式を揃えるところから始まるため、その次になります。

#運輸・物流業界#航空運輸業#AI活用