新エネルギー(太陽光・風力・地熱・バイオなど)に、そもそもAIは必要なのか
新エネルギーの発電事業でAIを入れる価値が出るかどうかは、二つの軸で見分けられます。一つは、同じ判断を月に何回繰り返しているか。もう一つは、その判断を誤ったときに何が起きるかです。この二つがどちらも大きい業務ほど、組み込む価値が出ます。再生可能エネルギー事業者のAI活用も、この順番で見ていきます。
発電事業は、法令で記載項目が決まった図書を何度も作り直し、決まった管理値に照らして設備の状態を毎日見る仕事です。AIが効くのは、次のような業務です。
- 環境影響評価の図書が、法定の記載項目を満たしているかの点検
- 事業計画認定や林地開発許可の申請書類の、記載内容の突き合わせ
- パネルや風車の稼働データから、発電量の落ち込みの兆しを拾う作業
いずれも判断のものさしが社内と法令の側にある作業です。
一方、地権者との用地交渉と、地域住民説明会での受け答えには入れないほうがよいと考えます。用地交渉は、代替わりや相続で所有者が変わるたびに、相手の事情から聞き直す仕事です。説明会は、反射光や騒音、景観といった懸念が集落ごとに違い、その場で顔を見て答えることが同意そのものの土台になるからです。
ただ、この線引きは業務ごとに変わります。同じ許認可でも、様式に沿って埋める部分と、自治体の担当者と詰める部分では向き不向きが分かれます。次のセクションでは、発電事業の業務を工程に分けて見ていきます。
適地調査から撤去まで、負荷が大きいのはどの工程か
新エネルギーの発電事業を工程に分けて並べると、法令や管理値に照らして同じ点検を繰り返す工程と、現地の事情に合わせて毎回段取りを組み直す工程が、はっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 適地調査 | 日射量・風況データの収集と発電量の試算、系統の空き容量と土地の権利関係の下調べ | 大:公開データに基づく試算の下書きを任せられる |
| 用地交渉 | 地権者への説明、賃貸借・地上権の条件詰め、交渉経過の記録 | 小:交渉は相手次第だが記録の整理は任せられる |
| 環境アセス | 配慮書から評価書までの図書作成、知事意見・住民意見への回答整理 | 大:法定の記載項目との突き合わせを任せられる |
| 許認可・連系 | 事業計画認定・林地開発許可・農地転用の申請、系統連系申請と単線結線図の確認 | 大:様式と記載要件の点検を任せられる |
| ファイナンス組成 | 金融機関向け事業計画書の作成、売電収支の前提の置き換え | 中:前提を変えた試算の整理を任せられる |
| EPC・据付 | 架台やブレードの据付工程の管理、試運転と系統連系の立会い | 極小:現地の地盤と天候で段取りが毎回変わる |
| O&M | 発電量と稼働データの日々の確認、定期点検の報告、故障の原因切り分け | 大:管理値から外れる動きの拾い上げを任せられる |
| 撤去・リサイクル | 廃棄等費用の積立計画、パネル・ブレードの処理先の整理 | 中:処理先の受入要件との照合を任せられる |
負荷が最も集中するのは環境アセスメントです。配慮書、方法書、準備書、評価書と段階ごとに図書を作り直すあいだに、知事意見や住民意見が積み上がり、そのすべてに答えた形を保ったまま次の図書へ引き継ぐ必要があります。
担当者は、騒音や景観、動植物の調査結果を章ごとに配置し直し、前の段階で約束した保全措置と食い違いがないかを一つずつ確かめ、参照した法令や条例の版が古くなっていないかを見ます。図書は数百ページに及び、 記載漏れが一つあれば手続がやり直しになります。
ここに手を入れると、担当者は図書の体裁を整えることではなく、保全措置の中身を地域とどう詰めるかに時間を使えます。前工程の適地調査も、アセスで問われる項目をあらかじめ押さえた調査計画に変わっていきます。
極小とした据付の工程は、地盤の状態や風向き、搬入路の幅といった現地の条件に合わせて、その日の段取りを組み替えていく作業です。過去の工事記録は参考になりますが、何を優先するかが現場ごとに変わるため、段取りの判断そのものは任せられません。
新エネルギー(太陽光・風力・地熱・バイオなど)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
最初に手をつけるのは、同じ点検が何度も起きていて、かつ見落とすと手続のやり直しや売電の停止につながる業務です。第1セクションの二つの軸で見ると、アセス図書の点検、稼働データの確認、許認可申請書類の点検がここに当たります。
アセス図書の記載漏れを、提出前に洗い出す
起点は、図書の原稿が案件フォルダの指定の場所に保存された時点です。
AIは、その段階の図書に求められる記載項目の一覧、前の段階で示した保全措置、これまでに届いた知事意見と住民意見の整理表を照らし合わせ、欠けている項目と、前段との食い違いを拾い上げます。
指摘は案件ごとの点検表に一行ずつ積まれ、アセス担当と技術担当に業務チャットで通知が届きます。これまでは製本前に章を分担して読み合わせていましたが、 指摘が並んだ状態から中身の議論に入る形に変わります。
指摘が本当に記載漏れなのか、別の章で触れているのかは、章を担当した技術者が確かめます。図書として提出してよいかは、アセスの責任者が決めます。
発電量の落ち込みを、故障になる前に拾う
二つ目は決まった時刻に動きます。前日の発電量と稼働データが取り込まれた早朝、AIが、設備ごとの設計上の発電量、同じ日射量や風況のときの過去の実績、故障につながった変動の記録に照らして、想定から離れていく設備を拾い上げます。
結果は監視の一覧表に日々の所見として積み上がり、O&Mの担当者に通知が届きます。月に一度の検針で落ち込みに気づく動きが、 ストリングや風車一基の単位で兆しを追う動きに変わります。
曇天や点検停止による落ち込みなのか、機器の劣化なのかの切り分けは、現場を見ているO&M担当者が確かめます。現地に出向くか、次の定期点検まで待つかは、保守の責任者が判断します。
申請書の記載を、窓口に出す前に突き合わせる
三つ目の起点は、申請書の原稿がファイル保管サービスに保存されたときです。
AIは、その許認可の様式と記載要件、同じ自治体に過去に出した申請とそのときの補正指示、設備仕様書や単線結線図といった添付資料を突き合わせ、様式との食い違いと、資料の間で数値が合っていない箇所を並べた点検資料を組み立てます。
点検資料は申請の案件フォルダに文書として保存され、許認可の担当者に通知が届きます。提出後に窓口から補正を求められて出し直す流れが、 出す前に直す流れに変わります。
指摘のうち、どれが補正の対象にあたるかは、申請を担当する者が確かめます。この内容で窓口に出すかは、開発の責任者が決めます。
業務に組み込むまでの4ステップ
例にするのは「環境アセスメント資料の一次チェック」です。新しいシステムを作る話ではなく、いまあるファイル保管サービスと表計算ソフトの間に、情報の通り道を一本引く作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
点検に使う資料は、すでに社内にあります。
- 段階ごとの図書に求められる記載項目の一覧
- 前の段階で示した保全措置と、その根拠になった調査結果
- 届いた知事意見・住民意見と、それぞれへの回答の整理表
新しく作るものはありません。委託先とのやりとりに散らばっているなら、案件フォルダに集めます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
図書の原稿が案件フォルダの指定の場所に保存されたときを起点にします。担当者が思い出して始める形にすると、提出期限が近い案件ほど後回しになり、使われなくなります。
3. 判断の基準を設定しておく
何をもって記載漏れとみなすのかを文章にし、一箇所にまとめて設定します。AIは毎回そこを参照します。アセスを何件も通してきた人が無意識に見ている点を、 外に書き出す作業です。
- 段階ごとに、どの章に何が書かれていれば足りるとみなすのか
- 前の段階で示した保全措置と、どこまで表現が変わってよいのか
- 住民意見のうち、図書本文に反映すべきものと回答欄で足りるものの線引き
この工程がいちばん時間がかかります。一度書き留めれば、次の案件でも使い回せます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
指摘は案件ごとの点検表に一行ずつ積み、業務チャットでアセス担当と技術担当に知らせます。 製本に入る前に章の担当者が開き、指摘の当否を確かめてから、責任者の確認に回します。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 自治体ごとに様式と条例が違う:同じ許認可でも、自治体によって様式も添付の求めも違い、一つの基準で点検すると窓口で補正を求められます。案件の所在地ごとに過去の申請と補正指示を分けて保管し、どの自治体の案件かで参照先が切り替わる形にします。
- 機器の入れ替えでデータの形が変わる:パワーコンディショナや計測器を入れ替えると、出力される項目名や単位が変わり、兆しの拾い上げが静かに止まります。機器を入れ替える手順の中に、参照先の様式を見直す段取りを組み込んでおきます。
- 許可が要るかどうかの判定まで任せてしまう:林地開発許可や農地転用が必要かは、土地の区分と事業計画に対する法令の解釈です。様式との突き合わせまでにとどめ、該否の判定は許認可の責任者が下す形にします。
新エネルギー(太陽光・風力・地熱・バイオなど)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1セクションで引いた線は、法令の記載要件や設備の管理値に照らして同じ点検を繰り返す業務にAIが効き、地権者との交渉や説明会での受け答えは人が担う側に残る、というものでした。紹介した三つは、いずれも照らし合わせる先が文書として残っている業務です。
すべてを一度に進める必要はありません。 まずは一つの業務からで十分です。図書の原稿、過去の申請と補正指示、日々の稼働データ、表計算ソフトといった、すでに手元にあるものから始められます。

