コールセンターに、そもそもAIは必要なのか
コールセンターのAI活用を考えるときの判断軸は二つです。同じ判断を月に何度繰り返しているか。そして、その判断を外したときに何が戻ってくるかです。両方が大きい業務ほど、AIを組み込む値打ちが出ます。
禁止表現を一度見落とせば、委託元からの是正要求という形で返ってきます。応対履歴の書き漏れは、翌月の請求根拠が立たないという形で表に出ます。
この二軸に照らすと、効くのは次の業務です。
- 応対中の言い回しが、委託元の定めた禁止表現に触れていないかを見る
- 通話後に入力された応対履歴を、記入基準に照らして点検する
- 寄せられた問い合わせの傾向から、FAQのどこを直すべきかを割り出す
いずれも委託元の運用規定と自社の記入基準という拠り所が先にあり、同じところを引き直す場面が繰り返し訪れます。
手を入れないほうがよいのは、通話そのものの運び方です。相手が何に困っているのか、どこまで説明すれば引き取ってもらえるのかは、声の調子や言いよどみから読むことになります。怒りが収まる順序を見極める判断には、オペレーターが相手の反応を聞き取る必要があります。クレームの落としどころも同じです。
この線は業務の単位で引き直しになります。同じ品質管理でも、評価シートの集計と、オペレーターへの面談では扱いが分かれます。そこでコールセンターの仕事を、受電から委託元報告までの工程に割って見ていきます。
受電応対から委託元報告まで、負荷が大きいのはどの工程か
コールセンターの仕事は、一本の電話に張り付く工程と、フロア全体を回す工程に分かれます。工程に割って眺めると、決まった基準で判定している作業と、相手を見て決めている作業がはっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 受電応対 | 入電の一次受け、要件の聞き取りとスクリプトに沿った案内 | 極小:相手の反応を見て話の運びを毎回変える |
| 応対後処理 | 応対履歴の入力、対応区分の選択、外国語応対の記録整理 | 大:記入基準に照らした点検を任せられる |
| 応対品質の点検 | 禁止表現の有無の確認、抽出通話の評価、アンケート自由記述の読み込み | 大:禁止表現も評価項目も判定の拠り所が文書にある |
| 二次対応 | クレームの引き継ぎ、経緯の整理と報告書の作成 | 小:落としどころは相手と委託元の方針で動く |
| ナレッジ整備 | FAQの更新、トークスクリプトの見直し、研修教材の用意 | 大:問い合わせの傾向から更新箇所を割り出せる |
| 要員計画 | 入電量の見込み立て、シフトの組み立てと繁閑への増減 | 中:実績の積み上げは寄せられるがシフトは人の事情次第 |
| 委託元報告 | 月次レポートの集計、VOCの取りまとめ、仕様変更要望の整理 | 大:集計項目と様式が委託元ごとに固定されている |
人の時間と神経がいちばん削られるのは、応対後処理です。通話を切った瞬間に次の入電が待っているのに、オペレーターはその場を離れられません。後処理が長引いた分だけ、フロアの待ち呼が積み上がります。
この工程がやっかいなのは、応答率と正確さが真正面からぶつかることです。早く切り上げれば待ち呼は減りますが、履歴が粗くなって後から経緯を追えなくなります。丁寧に書けば履歴は残りますが、その間お客様を待たせます。オペレーターは一本ごとに、この綱引きを一人で引き受けています。
受託案件を掛け持ちする現場では、さらに重なります。委託元ごとに入力画面も用語も様式も違い、席に座ったまま頭を切り替えて書き分けることになります。
ここが軽くなると、効きは前後に伸びます。履歴の粒がそろえば品質の点検が回り、委託元への報告も記録の読み直しから始めずに済みます。
表で「極小」とした受電応対は、お客様と話している最中の工程です。同じ質問でも、急いでいる相手と説明を求めている相手では、答える順序も言葉の選び方も変わります。ここは会話している人にしか決められません。
コールセンターで最初に取り組むべきAI活用、3つ
着手の順番は、同じ判断を繰り返す回数と、外したときに何が戻ってくるかで決まります。この二軸で上位に並ぶのは、禁止表現の検知、応対履歴の見直し、問い合わせ傾向からのFAQ更新です。
言ってはいけない言い回しを、通話記録から抜き出す
動き出すのは、その日の応対記録が録音と書き起こしの形で保管の場所に並んだ時点です。応対品質の点検にあたる工程です。
AIは委託元が示した応対規定と、過去に是正を受けた事例の一覧を照らします。断定を避けるべき場面で言い切った箇所、金額や期日を確約した箇所、本人確認の手順を飛ばした箇所を抜き出します。
結果はSVが毎日開くモニタリング一覧に行として増えます。これまでは抜き取った数本を聞き直すほかなく、残りの通話に何があったかは分かりませんでした。全件に目を通したうえで、危ない箇所だけが先に浮かぶ形に変わります。
妥当かを決めるのはSVです。言い切りに見えても、お客様が前提を把握していれば問題になりません。報告すべき事案かどうかは、SVの判断として残ります。
応対履歴の空欄と区分の誤りを、保存の時点で知らせる
オペレーターが応対履歴を保存し終えた瞬間が、この仕組みの入口です。応対後処理の工程に入るものです。
AIが照らし合わせるのは、案件ごとの記入基準と、過去に委託元から差し戻された履歴です。必須の欄が空のままでないか、選んだ対応区分が通話の中身と合っているか、次の担当者が経緯をたどれる書き方かを見ます。
結果は点検一覧に並び、本人と当日のSVに業務チャットで知らせが飛びます。これまでは委託元への提出直前に、書いた本人がもう覚えていない履歴を掘り返していました。書いた当日のうちに直せるようになります。
直すのは書いた本人です。通話中に何があったかを知っているのは本人だけで、指摘が的外れなこともあります。訂正するかは本人が決め、区分の付け替えだけSVの承認を通します。
増えている問い合わせを、FAQの直し所に変える
三つ目は毎日ではなく、週に一度動きます。ナレッジ整備の工程です。決まった曜日に、直近一週間の応対履歴と問い合わせ区分がまとめて読み込まれます。
AIは現在のFAQの項目と突き合わせ、伸びている問い合わせのうち答えが無いもの、載っているのに繰り返し聞かれているもの、記載と実際の案内が食い違っているものに仕分けます。
出てくるのは改訂案の文書です。ナレッジ担当の保管場所に週ごとに保存され、どの項目をどう直すかの下書きまで入っています。これまでは問い合わせが増えてから気づき、原因を探していました。傾向のほうが先に届きます。
載せる文面を決めるのはナレッジ担当と委託元です。案内の言い回しは委託元の承認を経て確定するため、下書きはたたき台です。
業務に組み込むまでの4ステップ
例に取るのは応対履歴の点検です。新しい仕組みを買う話ではなく、履歴のある場所とSVが見ている一覧表の間を、一本つなぐ作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
点検に使う記録は、すでに社内にあります。
- 応対履歴のデータベース(案件ごとに分かれている)
- 案件ごとの記入基準や入力マニュアル
- 委託元から差し戻された履歴とその指摘文
作るものはなく、置き場所を書き出すだけです。基準が個人のメモに散っていれば、まとめ直しから始まります。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
人が思い出して開く形にすると、繁忙期に止まります。きっかけは業務側にあります。
- オペレーターが応対履歴を保存した時点
- シフトが上がる前の決まった時刻
- 委託元への提出データを締める曜日
保存の時点を選べば、本人がまだ通話を覚えているうちに直せます。
3. 判断の基準を設定しておく
ここがいちばん時間のかかる工程です。ベテランのSVが履歴をひと目見て「書き直し」と分かるとき、その頭の中にある判断の基準を、文章にして一箇所にまとめます。
書き留めるのは次のような基準です。
- どの欄が空なら差し戻しで、どの欄は空でも通すか
- 対応区分の「問い合わせ」と「苦情」を分ける境目
- 次の担当者が経緯をたどれる、とはどこまで書いた状態か
口頭では一言で済む話も、文章にすると例外が出てきます。一度書き切れば使い回せます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
画面に出して終わりにしないことです。結果はSVが毎日開く一覧表に行として増え、差し戻しが要るものは書いた本人に業務チャットで知らせが飛びます。
SVはシフトが上がる前にまとめて確かめ、区分の付け替えだけ承認を通す形にします。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 委託元が対応区分の体系や入力画面の項目を改定すると、設定しておいた基準とずれ、指摘が的外れになります。改定の連絡が届いた時点で基準の見直しまで一続きにしておくと、流れが止まりません。
- 本人確認の変則ケースは取りこぼされます。契約者本人ではなく家族が代わりに話した、途中で名義が変わったといった通話も、履歴の上では同じ区分に収まります。この区分に当たるものだけは人が開いて見る、と決めておきます。
- 通話の記録は、置ける場所が委託元の規定で決まっています。録音や書き起こしをどこまで持ち出してよいかは案件ごとに違うため、仕組みを組む前に保管できる範囲を委託元と確かめます。
コールセンターのAI活用は、どこから考えればいいか
線を引いたのは、判定の拠り所が文書になっている業務と、相手の反応を聞きながら決める業務の間でした。先に挙げた三つがどれも前者に入るのは、よりどころになる規定や基準がすでに社内にあり、同じ照合が毎日繰り返されているからです。
全部を一度に組む必要はありません。一つの業務からで十分です。要るのは新しい仕組みではなく、いま使っている応対履歴の置き場所と、SVが頭の中に持っている判断のものさしです。どちらも手元にあります。

