アウトソーシングに、そもそもAIは必要なのか
BPOのAI活用を考えるとき、線を引く軸は二つです。同じ判断を月に何度繰り返しているか。そして、その判断を外したときに何が返ってくるかです。両方が大きい業務ほど、AIを組み込む価値が出ます。
工数の読み違いは、複数年続く委託契約の採算として固定されます。イレギュラー対応の取りこぼしは、委託元からの指摘という形で戻ってきます。
この二軸に照らすと、AIが効くのは次の業務です。
- 委託元向けの月次報告書を、SLAの集計と処理量の記録から起こす
- 新規案件の工数を、過去に受託した同種業務の実績から積み上げる
- オペレーターが残したイレギュラー対応の記録を、手順書のどこに当たるかで仕分ける
いずれも業務手順書と受託実績の記録という拠り所が先にあり、同じところを引き直す場面が毎月あります。
手を入れないほうがよいのは、オペレーターとの個別面談です。応対件数や後処理時間の数字がそろっていても、本人が今の業務量を抱えきれているかは、面談での話しぶりから読むことになります。疲弊の兆しを見つけて配置を替える判断には、管理者が本人と向き合う必要があります。
この線は業務の単位で引き直しになります。同じ品質管理でも、チェックリストの集計と、オペレーターへのフィードバックでは扱いが分かれます。そこでアウトソーシングの仕事を、引合いから月次報告までの工程に割って見ていきます。
引合い対応から月次報告まで、負荷が大きいのはどの工程か
アウトソーシングの仕事は、委託元から業務を受託するまでの工程と、受託後に回し続ける工程に分かれます。工程に割って眺めると、自社の記録を集計する作業と、委託元と向き合って決める作業がはっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 引合い対応 | 委託元の現行業務の聞き取り、対象とする作業の洗い出し | 小:業務の実態は現地で見ないと分からない |
| 見積・提案 | 対象業務の工数算定、単価の組み立てと提案書の作成 | 大:過去の受託実績から工数を積み上げられる |
| 契約・SLA締結 | 応答率や処理期限などの目標値の取り決め、業務範囲の明文化 | 極小:目標値は委託元との詰めでその場で動く |
| 業務移管 | 現行手順の聞き取りと手順書への落とし込み、オペレーター教育 | 中:手順書の初稿と研修資料の下書きまで起こせる |
| 日次運用 | 受電と処理の応対、イレギュラー案件のエスカレーション、繁閑に応じた人員配置 | 中:記録の仕分けは任せられるが応対は相手次第 |
| 品質管理 | エラー率とミス傾向の集計、監査チェックリストの運用状況の確認 | 大:判定の基準が決まっており集計を寄せられる |
| 月次報告 | 委託元向け報告書の作成、SLA遵守状況の集計、改善提案の取りまとめ | 大:散らばった数字を集めて初稿まで書ける |
人の時間と神経がいちばん削られるのは、月次報告です。この報告書は、自社の成績表を自社で作る書類にあたります。応答率が目標に届かなかった月も、処理ミスが出た月も、その数字を自分で並べ、原因と対策まで書き添えて委託元に出します。
集める先は一箇所ではありません。応対の記録、勤怠、エスカレーション票、品質チェックの結果が、それぞれ別の場所に残っています。委託元ごとに求められる指標も報告書の様式も違うため、担当者は案件の数だけ別の書式を埋めることになります。
作業が寄るのは月初です。前月の数字が確定してから提出期限までのわずかな日数に、複数案件分の集計と作文が重なります。しかもこの報告書は、次の契約更新で単価と業務範囲を見直すときの根拠として読まれる文書です。
ここが軽くなると、効きは前後に伸びます。数字が早く出れば品質管理の打ち手を月の途中で切り替えられ、改善提案も実績の裏付けを持った形で出せます。
表で「極小」とした契約・SLA締結は、応答率や処理期限の目標値を委託元と詰める工程です。自社が担える水準と委託元が求める水準のどちらを動かすかを、その場の交渉で決めます。
アウトソーシングで最初に取り組むべきAI活用、3つ
着手の順番は、同じ判断を繰り返している回数と、外したときに何が返ってくるかで決まります。先に挙げた二軸で上位に並ぶのは、新規案件の工数算定、稼働中の案件の原価の組み直し、イレギュラー対応記録の仕分けです。
工数の見積を、過去の受託実績から積み上げる
動き出すきっかけは、委託元から受け取った現行業務の資料が、ファイル保管サービスの所定の場所に保存された時点です。AIは過去に受託した同種業務の処理件数と実工数、自社の作業区分ごとの標準処理時間を参照します。
対象業務を作業区分に割り、一件あたりの処理時間と月間の件数から必要工数を積み上げ、類似案件との差が大きい区分を書き出します。
結果は見積の積算表に行として追加され、営業担当に業務チャットで知らせが届きます。過去案件のファイルを一つずつ開いて似た案件を探すところから始めていた作業が、区分ごとに積み上がった数字を確かめて直す形に変わります。
単価を決めるのは営業責任者です。繁忙期の偏りや有人応対の比率など、委託元の現場にしかない事情は資料に出てきません。採算の判断は責任者に残ります。
単価の内訳を、稼働中の案件の原価から組み直す
二つ目は、すでに回っている案件の話です。月次の勤怠と処理件数、案件別の原価が締め日に確定した時点で動きます。AIは受注時の積算表と、実際にかかった人件費や管理費の記録、作業区分ごとの処理実績を突き合わせ、見積の前提と実績がどの区分でどれだけ離れたかを洗い出します。
洗い出した結果は案件別の採算一覧に並び、見積根拠の資料として文書に保存されます。経理側の原価の数字と現場の作業記録を別々に眺めていた流れが、離れた区分が特定された状態から検討に入る形になります。
読んで判断するのは案件責任者です。原価が膨らんだ理由が、その月限りの欠員か、作業量の見立て違いかは、現場の事情を知る人でなければ切り分けられません。
イレギュラー対応の記録から、繰り返しを見つける
毎週決まった曜日が、三つ目のきっかけです。オペレーターが応対の後に入力フォームへ登録したイレギュラー対応の記録を、AIが業務手順書と過去の改善の記録に照らし、手順書のどの箇所に当たるかで仕分けます。手順書に書かれていない対応は別に抜き出し、同じ事象が繰り返している順に並べます。
並んだ結果は一覧表に行として増え、スーパーバイザーに知らせが届きます。エスカレーション票を月末に読み返して当たりをつけていたところが、繰り返している事象が上に来た状態から見られます。
どれを手順書に載せるかを決めるのはスーパーバイザーです。自社の手順で吸収できる事象と、委託契約の業務範囲を超えていて委託元に判断を仰ぐ事象の切り分けは、契約の中身を知る人でなければできません。
業務に組み込むまでの4ステップ
例として「新規委託業務の見積・工数算定」で最後まで説明します。仕組みを一から作る話ではなく、ファイル保管サービスと見積の積算表の間に通り道を一本通す作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
参照するものは社内にそろっています。
- 過去に受託した案件の処理件数と実工数の記録
- 作業区分ごとの標準処理時間の一覧
- 委託元から受け取った現行業務の資料の保管場所
新しく作るものはなく、どこを参照先にするかを決めるだけです。実工数が担当者の手元の表計算ソフトに分かれているなら、先に一箇所へまとめます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
委託元の資料が所定の場所に保存された時点を起点にします。人が思い出して開く形にすると、引合いが重なった週ほど後回しになります。提案の期限は委託元の側にあるため、起点を定めておかないと、遅れた分だけ精度を落とすことになります。
3. 判断の基準を設定しておく
どの数字を正とするかを文章にまとめ、一箇所に設定しておきます。AIは毎回そこを引きます。見積を重ねた担当者が頭の中で当てている勘所を、外に書き出す作業です。
- 標準処理時間は、直近に受託した同種業務の実績値を先に引く
- 繁閑の波は、委託元の申告ではなく過去の処理量の記録から読む
- 件数の記録がない作業区分は推定として印を付け、積算表に分けて並べる
ここがいちばん時間のかかる工程です。ただし一度まとめれば、次の引合いから使い回せます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
積み上げた結果は見積の積算表に行として戻し、営業担当に業務チャットで知らせます。担当者は提案書を書き始める前に積算表を開き、推定の印が付いた区分を確かめます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 委託元ごとに資料の様式が違う:受け取る業務量の資料は、項目名も集計の粒度も委託元ごとに異なります。担当者が替わって様式が差し替わると、自社の作業区分と噛み合わず、積み上げが空振りします。受領した時点で自社の区分へ写し替える一枚を挟みます。
- 委託契約で定めた情報の取扱い範囲を超える:委託元から預かった応対記録や取引データには、再委託と情報の取扱いについて基本契約書で条件が付いています。どの記録を仕組みに通してよいかを契約ごとに区分し、範囲外の記録は保管場所から分けておきます。
- オペレーターの入力を増やす形にする:イレギュラー対応の記録を新しい入力項目として足すと、応答率が求められる現場では空欄のまま流れます。入力は既存の応対記録票の中に収め、後処理の時間を延ばさない形にします。
アウトソーシングのAI活用は、どこから考えればいいか
AIが効くのは、受託実績の記録や業務手順書という先に決まっている拠り所に照らして、同じ判断を毎月繰り返している業務でした。オペレーターとの面談のように、相手の様子から読む仕事は人の側に残ります。今回挙げた三つは、いずれも照らす先が自社の記録として残っています。
全部に手をつける必要はありません。まず一つの業務からで十分です。使うのは、過去の受託案件の実工数の記録、作業区分ごとの標準処理時間、業務手順書という、すでに手元にあるものです。集め直すところから始めなくても着手できます。

