通信販売・ネット販売に、そもそもAIは必要なのか
ネット通販のAI活用を考えるとき、置き場所を決める手がかりは二つあります。月にどれだけの回数その判断が発生しているか。そして、外したときにお客様と在庫にどう跳ね返るか。どちらも大きい業務から手を付けると、かけた手間が戻ってきます。月に一度あるかどうかの判断は、人が考えたほうが速いままです。
効くのは、 同じ型で何度も繰り返している 次のような仕事です。
- 出荷が遅れたときや在庫を切らしたときの、お客様への連絡文
- 返品とクレームの記録を読んで、原因がどこにあるかを分ける作業
- 商品説明文に、お客様が検索窓へ打ち込む言葉が入っているかの点検
どれも扱う商品と注文の数だけ起き、抜けると低い評価とキャンセルになって返ってきます。
反対に、商品を使って体調を崩した、届いた品で怪我をしたという申し出への一次対応は、人が引き受ける仕事です。事実を確かめる順も、詫びの示し方も一件ごとに違います。ここで出す言葉は、そのまま会社の責任の表明になるからです。仕入先や出店先と取扱条件を話し合う場面も同じです。
ただし、この線の位置は業務ごとに動きます。同じ商品説明文を扱う仕事でも、 既存商品の表記の点検と、来季どの品を載せるかの決定 では、起きる回数も外したときの痛みも別の話になります。次の章では、仕入から売上の点検までを工程に分けて見ます。
商品調達から売上点検まで、負荷が大きいのはどの工程か
通販の仕事は、扱う商品を決めるところから始まり、売れ行きを見てまた次の仕入に戻ります。一周を工程に割ると、どこで手が止まっているのかがはっきりします。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 商品調達 | 季節商品の取扱決め、出店先での同一商品の売価と在庫の確認 | 中:他社の売価は同じ形で並べられる |
| 商品登録 | 商品説明文とLPの原稿づくり、検索語の入り方の点検、画像と表記の法令確認 | 大:同じ規定に照らす点検を任せられる |
| 販促配信 | メルマガとメッセージの文面作成、購入履歴からの再購入の案内 | 大:配信先の切り方を記録から決められる |
| 受注処理 | 複数の販売先から届く注文の突合、在庫の引当、決済エラーの追跡 | 中:突合は寄せられるが、例外は人が見る |
| 同梱・梱包 | 棚からの商品の取り出し、同梱物の封入と緩衝材の選択 | 極小:現物を手で扱い、判断が記録に残らない |
| 出荷指示 | 倉庫への出荷データの送信、遅延と欠品が出た注文への連絡 | 大:連絡文の下書きまで用意できる |
| 問い合わせ・返品 | 問い合わせへの一次回答、返品理由とクレーム記録の整理 | 大:理由の分類と傾向の読み取りが寄る |
| 売上点検 | 日次の売上と受注件数の異常確認、滞留在庫の洗い出し | 中:異常の拾い出しまでは自動で出る |
いちばん神経を使うのは 受注処理 です。件数が多いからではありません。
自社サイトと複数の出店先から、別々の様式で注文が届きます。ところが商品は一つの棚にしかありません。同じ品が同じ時間に二か所で売れれば、片方は引当のできない注文として残ります。
担当者は注文一覧と在庫表と倉庫への出荷データを並べ、決済の失敗、届け先の不備、時間指定やのしの追加、キャンセルの申し出を一件ずつ当てていきます。出荷の締切は毎日同じ時刻に来ます。
ここで 注文と在庫の突合が先に済んでいる と、欠品が出たことに気づく時点が早まります。後ろの出荷指示では、お客様への連絡を倉庫からの返事を待たずにその日のうちに出せます。前の販促配信でも、在庫の無い品を案内に載せずに済みます。
同梱・梱包を極小に置いたのは、AIの出来を疑ったからではありません。そこでの判断が、どこにも記録として残らないからです。割れ物をどう包むか、箱の隙間をどう埋めるかは、現物を手に取った人がその場で決めています。
通信販売・ネット販売で最初に取り組むべきAI活用、3つ
何度も来る判断で、外すと跳ね返りが大きい。第1章の二つで上に来るのが次の三つです。いずれも注文と商品の数だけ発生し、放っておくと低い評価とキャンセルで戻ります。
遅れと欠品の連絡を、締切前に下書きしておく
出荷指示の工程の話です。入荷予定が後ろへずれた、または在庫記録が欠品に変わった、その時点で動きます。
AIが開くのは、その品を含む未発送の注文の一覧と届け先ごとの時間指定、そして連絡文の型と、代替や取り置きをどこまで申し出てよいかを定めた社内の決まりです。
下書きは 連絡待ちの注文一覧 に行として並び、担当者の業務チャットにも知らせが出ます。いまは欠品に気づいた人が、注文画面と在庫表を見比べて一通ずつ書いています。仕組みが入ると、並んだ文面に目を通して直すだけになり、連絡が締切前に出ます。
見るのは日数の書き方と、申し出てよい範囲を越えていないかです。返金か、入荷待ちか、送料の値引きか。その線を決めるのは、出店先ごとの規約を握る運営責任者です。
返品の理由が、どの商品ページから来ているかを見る
こちらは月に一度、返品受付のフォームに集まった記録がまとまった時点が起点です。
AIが読むのは、返品理由の自由記述と商品番号、購入から返品までの日数、同じ注文に届いた問い合わせの本文です。そこへ社内で定めた区分表を重ね、商品そのものが原因のもの、ページの書き方が原因のもの、配送と梱包が原因のものに分けます。
出てくるのは 商品ページの直し候補 の一覧で、品ごとにどの理由が何件積み上がったかが付きます。これまでは返品率の数字だけが月次で並び、中身は担当者の記憶頼りでした。寸法の表記が足りないのか、色の見え方が写真と違うのかが、品番ごとに読めます。
商品担当が目を通すのは、原因を商品側に置くか記載側に置くかの切り分けです。ページを直すか取扱をやめるかを決めるのは、商品担当が責任を持つ判断です。
商品説明文に、お客様が打ち込む言葉が入っているか
原稿がファイル保管サービスの決めたフォルダに保存されると、商品登録の段階で動き出します。AIが照らすのは、その商品カテゴリでお客様が実際に検索窓へ入れている語の一覧と、自社で決めた表記のルールです。題名と説明文で、どの語が抜けているか、どの語が社内用の言い方に置き換わっているかを拾います。
結果は原稿そのものに書き込まれ、直しが要るものだけが 差し戻しの一覧 に積まれます。いまは登録担当が思いついた語を入れ、あとは公開後の順位を見るしかありません。公開の前に、抜けている語が分かります。
確かめるのは、入れた語が商品の中身と合っているかです。検索されるからといって、その品に無い機能の語を入れれば表示の規定に触れます。公開の可否を決めるのは、その品を仕入れた担当者です。
業務に組み込むまでの4ステップ
例に取るのは、二つ目に挙げた返品理由の読み解きです。新しい仕組みを作る話ではありません。手元の入力フォームと表計算ソフトを、一本の 情報の通り道 でつなぐだけです。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
集め直すものはありません。いま社内のどこにあるのかを一つに絞ります。
- 返品受付フォームの理由の自由記述
- 注文番号、商品番号、購入から返品までの日数
- 同じ注文に届いた問い合わせのメール本文
三つ目は担当者ごとのメール箱に散るので、表計算ソフトの一枚に写します。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
担当者の記憶を起点にはしません。 通販の側で起きた出来事で動かします 。月の締めで返品の記録がそろった時点、または同じ品の返品が定めた件数に届いた時点です。ここを決めずに始めると、繁忙期の最初の月で止まります。
3. 判断の基準を設定しておく
四つのうち手間を食うのはここです。受付窓口に長くいる人が文面を見た瞬間に振り分けている区分を、文章に起こします。まとめるのは次のようなものです。
- 「思っていたのと違う」の記述を、ページの記載不足に寄せるか、好みの問題として外すか
- 箱の潰れや破損の申し出を、配送側と梱包側のどちらに入れるか
- 同じ品で何件続いたら、ページの直し候補に載せるか
普段は口頭で引き継いでおり、書き出すと一度では収まりません。一度まとめれば、担当が代わっても同じ区分で並びます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
出力の行き先は、担当者の画面ではなく一覧表です。直し候補に行が増え、定めた件数を超えた品だけ業務チャットにも知らせが出ます。読むのは商品担当で、翌月の仕入を決める前です。直した行には短い理由を添えます。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 販売先ごとに商品番号が違う :自社サイトと各出店先で、同じ品に別の番号が振られています。照合の軸を先に決めずに動かすと、一つの品の返品が二件の別商品として積まれ、連絡の宛先も欠品の判定も狂います。軸にする番号を一つに絞り、対応表を一箇所にまとめてから始めてください。
- 予約販売と定期便を、通常の注文と同じ扱いにする:入荷前に受け付けた予約注文や、毎月同じ日に自動で立つ定期便は、在庫が無くても正常な状態です。これを欠品として拾うと、連絡の要らないお客様に遅延のお知らせが出ます。注文の種類に印を付け、対象から外す扱いを先に固めます。
- 下書きの表現がそのまま公開される :商品説明文の下書きに、効能をうたう言い回しや「最安」といった比較の語が混じることがあります。根拠の無いまま出せば、表示の規定に触れます。公開前に誰が何を見るかを決め、使ってはいけない語の一覧を基準と一緒にまとめておきます。
通信販売・ネット販売のAI活用は、どこから考えればいいか
第1章で線を引いたのは、同じ型で繰り返している判断と、一件ごとに相手を見て決める判断の間でした。三つ挙げたものは、どれも 過去の注文と記録の上で答えが決まる 仕事です。体調や怪我の申し出への一次対応と、取扱条件の話し合いが人の側に残るのも同じ理由です。
三つに同時に手を付ける必要はありません。 まず一つで足ります 。情報がどこにあるか、何をきっかけに動くか、どんな区分で判断するかを書き出すところからです。使うのは、いま社内にある入力フォームと表計算ソフト、すでに手元に積み上がっている注文と返品の記録です。

