食品・飲料メーカー(原料含む)に、そもそもAIは必要なのか
食品や飲料は口に入るもので、誤りが出荷の外へ出れば回収と公表に至ります。だからといって、すべての業務にAIが要るわけではありません。
値打ちが出るかどうかは、2つの軸で見分けられます。同じ判断を月に何度繰り返しているか。そして、それを誤ったときに何が起きるかです。食品メーカーのAI活用も、この2つがどちらも大きい業務から考えます。
当てはめると、次の業務が手前に来ます。
- 包材の一括表示を、配合設計書と原料規格書に照らして確かめる作業
- 倉庫に残った在庫を、賞味期限と得意先ごとの納品期限に照らして見る作業
- 申し出のあったロットについて、製造記録と検査記録をさかのぼって原因を絞る作業
いずれも 社内に残っている記録 がものさしで、そこに当てはめる判断を繰り返す仕事です。
反対に、 原料の買付 はAIの外に残ります。農畜水産物は作柄と相場で年ごとに玉の出方が変わり、同じ値段でも誰に先に回るかは産地や商社との付き合いで決まるからです。
試作で味を決める場も同じです。原料が振れれば同じ配合でも味が変わり、どこまで詰め直して世に出すかは、開発と営業が毎回すり合わせています。
この線引きは業種でひとくくりにはできません。同じ表示まわりでも、一括表示の記載を点検する仕事と、機能性表示の訴求をどこまで書くかの判断とでは、答えが逆になります。自社の業務を工程に割って見る必要があるので、次のセクションでその分解をします。
商品企画から得意先対応まで、負荷が大きいのはどの工程か
食品・飲料メーカーの仕事は、商品企画から得意先への納品まで、品目が一本の流れで進みます。工程に割ると、味や関係をつくる仕事と、決めた基準に照らして確かめる作業が、はっきり分かれて見えてきます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 商品企画 | 市場と競合の動きの調査、コンセプトと価格帯の設計 | 中:調査結果のまとめと企画書の素案づくりを任せられる |
| 試作・官能評価 | 配合の試作、社内パネルによる官能評価と保存試験 | 極小:原料の振れを口で見極め、配合を詰め直す工程 |
| 原料調達 | 産地と取引先の手当て、サプライヤーの品質監査 | 中:相場と作柄の整理、監査項目の点検まで手が届く |
| 生産計画 | 需要の見込み立て、仕込み量とラインの割付 | 中:出荷の実績と気象の記録から見込みの下書きが作れる |
| 製造・検査 | 充填や殺菌の工程管理、衛生記録の記帳と規格判定 | 大:記録の異常と、規格を外れる兆しの拾い上げに向く |
| 表示・包装 | 一括表示とアレルゲン表示の作成、栄養成分の申請 | 大:配合設計書と包材の記載の突き合わせを任せられる |
| 出荷・在庫 | 賞味期限別の在庫の引き当て、納品可否の確認 | 大:期限が迫る在庫の洗い出しが毎週の形になる |
| 得意先対応 | 小売と卸への回答、申し出のあった品の原因調査 | 大:記録を集め、原因の候補を絞るところまで進められる |
神経を使う度合いがいちばん高いのは 得意先対応 です。異物や風味の申し出は、原因が分からない状態で一報が入り、それでいて得意先は納得のいく説明を短い期限で求めてくるからです。
担当者の手元では、まず申し出の品から ロットを特定する ところが出発点になります。仕込み日とラインをたどり、金属検出機や外観検査の記録、当日の衛生記録、配送の温度記録を各部門に問い合わせて集め、同じロットで他に申し出がないかを確かめます。
そろってようやく、原因を工場の側に見るのか流通の側に見るのかという検討に入れます。ここが先に片付いていれば、担当者は記録を探す作業ではなく、説明の中身と再発防止の組み立てに時間を使えます。製造・検査の工程でも、どの検査を厚くすべきかが申し出の側から見えるようになります。
「極小」とした試作・官能評価は、農畜水産物の原料が年ごとに振れるため、同じ配合でも味が動く工程です。評価の記録は整理できても、どこまで詰め直して世に出すかの見極めは人の側に残ります。
食品・飲料メーカー(原料含む)で最初に取り組むべきAI活用、3つ
最初に手をつけるのは、繰り返しが多く、誤れば店頭の商品にまで影響が及ぶ業務です。第1セクションの2軸を当てはめると、申し出の原因分析、賞味期限別の在庫の点検、表示の記載チェックの3つが残ります。
申し出の一報から、原因の候補を先に絞る
起点は、お客様相談の窓口に申し出が登録された時点です。AIは商品名とロット番号から該当ロットを特定し、社内の製造記録、金属検出機と外観検査の記録、当日の衛生記録、過去の同種の事例と照合して、原因の候補と、同じロットに他の申し出がないかをまとめます。
結果は案件ごとの原因分析資料としてファイル保管サービスに保存され、品質保証と営業の担当者に業務チャットで知らせが届きます。各部門に記録を問い合わせるところから始めていた調査が、 候補が絞られた状態 からの検討に変わります。
候補のどれを取るかを決めるのは品質保証の担当者です。得意先にどう説明するか、回収に踏み切るかどうかを最後に判断するのは品質保証の責任者です。
期限が迫る在庫を、廃棄になる前に見つける
賞味期限のある在庫は、動かないまま日が過ぎると、ある日を境に納品先が受け取れなくなります。こちらは毎週決まった曜日に動く形にします。AIは倉庫の在庫データを品目とロットの単位で読み、直近の出荷の実績、得意先ごとの納品期限の取り決め、販促の予定を重ね合わせます。
まとまるのは、納品できる期限を過ぎそうなロットを、数量と残りの期間の順に並べた一覧です。在庫管理の表計算ソフトに行が増え、営業と生産管理に通知が出ます。棚卸しのたびに気づいていた滞留が、 週の単位で見える ようになります。
値引きに回すか、他の得意先に振り替えるかを選ぶのは営業部門です。廃棄に落とす判断は生産管理の責任者が下します。
一括表示の記載を、版下を出す前に確かめる
包材の一括表示は、配合設計書と原料規格書という2つの書類から組み立てられています。ここでは、校正用の版下が包材担当の共有フォルダに保存されたことを合図にします。
AIは版下の一括表示を読み取り、配合設計書の配合順と重量、原料ごとの規格書に記載されたアレルゲンとキャリーオーバー、社内の表示作成基準に照らして、原材料名の並び順、添加物の用途名の書き方、アレルゲンの抜けを箇所ごとに拾い出します。
指摘は一覧として同じフォルダに保存され、品質保証と包材担当へ業務チャットで共有されます。紙に出して赤を入れ、何往復もしていた校正が、 論点が並んだ状態 からの確認に変わります。指摘を採るかどうかを見極めるのは品質保証の担当者で、表示を最後に承認するのも同じ部門の責任者です。
業務に組み込むまでの4ステップ
ここでは「賞味期限・在庫管理の廃棄リスク分析」を例に、順を追います。新しいシステムをこしらえる話ではなく、すでにある表計算ソフトと倉庫の記録の間に、情報の通り道を一本つくる作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
使う情報は、どれも社内のどこかにあります。
- 倉庫の在庫データ(品目、ロット、賞味期限、数量)
- 直近の出荷の実績と、品目ごとの回転の記録
- 得意先ごとの納品期限の取り決め
新しく起こすのではなく、置き場所を決めるだけです。取り決めが営業担当のメールに散っているなら、一箇所にまとめます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
毎週決まった曜日の朝を合図にします。在庫は日々動くので、担当者が思い出したときに見る形では、棚卸しの時期まで滞留に気づきません。曜日が決まっていれば、出荷の山の前に手が打てます。
3. 判断の基準を設定しておく
何をもって危ないと見るのか、その線を文章にして一箇所にまとめ、設定しておきます。AIは毎週そこを参照します。ベテランが経験から引いている線を、 外に出して書き留める作業 です。
- 得意先ごとに、納品を受け付けてもらえる残りの期間はどこまでか
- 値引きや振り替えの検討に入るのは、その期限のどれくらい手前か
- 販促で動く見込みのある品目は、どの記録を見てそう見なすのか
ここに最も時間がかかります。営業と生産管理で線の引き方が食い違う点も出ます。ただ、一度書き留めれば翌週から使い回せます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
一覧は在庫管理の表計算ソフトに行として足し、業務チャットで営業と生産管理に知らせます。担当者は 出荷の指示を出す前 にこれを開き、振り替えか値引きかを判断します。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 原料規格書が古い版のまま残る :原料メーカーから受け取る規格書は、アレルゲンや同一ラインでの併用の状況が改訂されます。旧版を参照先に置いたままだと、表示のチェックが通ってしまいます。受領日と版を記録し、受領から参照先の差し替えまでを一続きの流れにします。
- 別注や季節限定の例外を取りこぼす :同じ品目でも、得意先の別注仕様、増量の企画、工場間の振り替え生産では、配合や包材が本流と違います。例外にあたる品目には人が必ず目を通す印をつけ、仕組みの判定だけで通さない形にします。
- 紙のままの記録が参照先に入らない :製造現場の衛生記録や温度記録は、手袋のまま機器を扱いにくいことから、手書きの日報で残っている職場が多くあります。原因調査で必ず見る記録から範囲を絞り、そこだけ入力の形をそろえます。
食品・飲料メーカー(原料含む)のAI活用は、どこから考えればいいか
第1セクションでは、社内に残る記録をものさしに当てはめる業務と、原料の買付や試作の味の見極めのように人の側に残る業務との間に線を引きました。紹介した3つが線の内側にあるのは、 判断のよりどころが書類として社内にそろっている からです。
三つを同時に進める必要はありません。 最初の一つ を選ぶなら、賞味期限別の在庫の点検が始めやすい位置にあります。倉庫の在庫データと出荷の実績は、日々の業務ですでに手元にたまっているからです。

