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製紙・パルプメーカーでのAI活用術

入れる業務と入れない業務は、二つの数え方で分かれます。月に何回、同じ形の判断をしているか。そして一度外したとき、紙がどこまで戻ってくるか。

公開日 2026年9月29日更新日 2026年9月29日読了時間 約1分

製紙・パルプメーカーに、そもそもAIは必要なのか

入れる業務と入れない業務は、二つの数え方で分かれます。月に何回、同じ形の判断をしているか。そして一度外したとき、紙がどこまで戻ってくるか。製紙メーカーのAI活用は、この二つが重なるところから手をつけるのが早道です。

出荷前の検査値は、坪量も水分も平滑度も、銘柄ごとの管理幅に当てはめる判断を毎日繰り返しています。ここを外すと、巻取が客先の印刷機に載ってから戻ってきます。

印刷会社や製袋メーカーから入る不具合の申し立ても、答えの出どころは抄造の記録と過去の事例に限られます。技術的な問い合わせへの一次回答も同じで、過去に出した回答と銘柄ごとの物性から組み立てる仕事です。

反対に、断紙が出たときに抄紙機を止めるか、抄速を落として抄き続けるかの見極めは、人の仕事です。 ワイヤーの汚れ具合や音の変わり方まで含めて、オペレーターが決めて結果を引き受ける 場面だからです。

新しい銘柄の風合いを決める段階も同じです。 手触りやこしは、紙を手に取ってめくってみるまで数値の側に出てこない からです。

どこに線を引くかは、銘柄の構成や設備の持ち方によって会社ごとに変わります。次の章では、製紙・パルプメーカーの仕事を工程ごとに並べ直し、どの工程に負荷が集まっているのかを見ます。

銘柄開発から技術サービスまで、負荷が大きいのはどの工程か

製紙・パルプメーカーの仕事は、木材チップと古紙が入り、パルプになり、紙として巻き取られ、客先の機械に載るまで一方向に進みます。順に並べてみると、工程ごとに判断の性質が違うことが見えてきます。

業務工程主な作業AI活用の余地
銘柄開発機能紙の開発テーマ設定と試抄、開発提案資料づくり中:提案資料の型は決まっていますが、筋読みは人です
抄造計画銘柄ごとの抄造量の割り付け、号機と抄き順の組み立て小:需要の読みと号機の都合で、前提が毎回動きます
原料調達木材チップと古紙の手当て、受入検査と森林認証の証跡確認中:認証と受入の確認は、定められた様式への当てはめです
蒸解・回収蒸解釜でのパルプ化、黒液回収ボイラの運転と排水の管理小:集計の型はありますが、ボイラの加減は負荷を見て決めます
調成・抄造叩解と薬品の配合、抄造、断紙が出たときの立て直し中:断紙の前触れは運転記録に残りますが、抄き続けるかは現場の判断です
仕上げ・出荷ワインダーでの巻取と耳の処理、平判への断裁と包装極小:巻きの硬さや刃の当たりを、紙に触れて都度直しています
品質保証坪量・水分・平滑度の測定、品質証明書の発行大:銘柄ごとの管理幅に当てはめる、同じ形の判断の繰り返しです
技術サービス印刷・製袋の現場で出た不具合の原因究明、問い合わせへの回答大:答えの出どころが、過去の回答と抄造の記録にそろっています

この中で人の時間と神経がいちばん削られるのは、調成・抄造の工程です。負荷が集中する理由は、作業の量ではありません。 抄紙機は一度止めると立ち上げに時間がかかるため、不具合の芽が見えても、回しながら直していくことになる からです。

断紙が出る、地合が乱れる、水分が振れる。このとき効いているのが薬品の配合なのか、パルプの質なのか、ワイヤーやフェルトの状態なのかは、一つずつ切り分けるほかありません。切り分けている間も、紙は流れ続けます。

オペレーターの時間が消えているのは、条件を動かす判断そのものではありません。前に同じ銘柄で同じ症状を起こしたとき、誰が何をどう動かして収まったのかを、運転日誌と断紙記録と引き継ぎのメモから探し直す前段です。 前回の手当てが当直のノートにしか残っていない ことも珍しくありません。

この前段が短くなると、後ろの工程に効いてきます。抄造の条件が早く落ち着けば、品質保証に回る値のばらつきが小さくなり、損紙として戻る量も減ります。

仕上げ・出荷を「極小」としたのは、作業が軽いからではありません。巻きの硬さ、耳の状態、断裁の刃の当たりは、紙に触れながらその場で直しています。決まった基準に当てはめる種類の作業ではありません。

製紙・パルプメーカーで最初に取り組むべきAI活用、3つ

第1章の二つの数え方が、そのまま着手の順番になります。同じ形の判断を何度も繰り返していて、外したときに巻取が客先から戻ってくる業務から手をつけます。その重なりが、次の3つです。

幅方向のばらつきを、巻取に分ける前に押さえる

動き出す合図は、その日の検査データが指定の保管場所に保存されたときです。AIが読み取るのは、リールごとの坪量・水分・平滑度を幅方向と流れ方向に沿った測定値、銘柄ごとに定めた管理幅、過去に規格を外したときの値の動き方です。

結果は品質保証の一覧表に、リール番号と巻取の位置を組にした行として増えます。いまは証明書を発行する段になって、幅の端の値が管理幅の縁に来ていたと分かります。仕組みが入ると、 どの巻取を誰に出すかを決める前に、幅方向の癖が出そろった状態 で検討に入れます。

品質担当が目を通すのは、値の振れが抄き替えの直後やワイヤーの交換と重なっていないかどうかです。その巻取を出荷するか、損紙に回すかは、品質保証の責任者が決めます。

印刷現場の申し立てを、リール番号でたどり直す

申し立ては、刷り出しで紙むけが出た、製袋機でシワが入ったという形で客先から届きます。営業が受付フォームに登録すると、AIは出荷伝票から該当のリールと巻取の位置をたどり、その時間帯の抄造条件、調成の薬品配合、検査の成績、過去の申し立てに付けた原因の分類を並べます。

疑う順番を添えた下書きが案件の一覧表に並び、担当の技術者へ業務チャットで知らせが飛びます。いまは巻取のラベルを頼りに、どの号機のどの抄造分だったかを台帳から探すところで時間が消えています。記録がそろっていれば、 送られてきた紙そのものを見る時間を確保できます 。

技術者が確かめるのは、下書きの見立てと、手元に届いた紙の状態が合っているかどうかです。原因が抄造側か印刷機の条件側かの見極めと、客先への回答は、技術サービスの責任者が持ちます。

紙の使いこなしの質問に、一次回答の下書きを用意する

問い合わせの多くは、代理店や客先の資材担当から、メールと電話で寄せられます。担当者が受付の一覧表に内容を登録した時点で動き出し、AIは過去に出した回答の控え、銘柄ごとの物性データ、客先向けの技術資料を照らし、回答の案をまとめます。

案は問い合わせの行にぶら下がり、文書作成ソフトの形で保管されます。いまは、似た質問にいつ誰がどう答えたかを記憶と個人のメール履歴から手繰っています。 出どころの分かった回答の案 から始められるので、答えが人によって振れることも減ります。

担当者が読むのは、引いた過去の回答が、いまの銘柄の仕様と食い違っていないかどうかです。客先に出す回答に最後の印を押すのは、技術サービスの課長です。

業務に組み込むまでの4ステップ

例に使うのは、技術的な問い合わせへの一次回答です。一からシステムを作る話ではありません。社内に散らばる回答の控えと製品データを、一本の道でつなぎます。

1. 使う情報がどこにあるかを決める

必要なものは、すでに社内にあります。

  • 過去に出した回答の控えと、そのときの質問
  • 銘柄ごとの坪量・厚さ・平滑度・耐折強さの物性データ
  • 代理店や客先に配る技術資料と、銘柄の仕様書

作るのではなく、最新のものの置き場所を決めるだけです 。技術サービスと営業に分かれているなら、一箇所に集めます。

2. 何をきっかけに動かすかを決める

思い出した人が開く形にすると、忙しい時期ほど手が伸びなくなります。問い合わせが受付の一覧表に登録されたとき、代理店の依頼が入力フォームで届いたときが合図です。電話で受けたものも、その場で一覧表に起こす約束にします。

3. 判断の基準を設定しておく

ここがいちばん時間を食います。ベテランの技術サービス担当が、聞かれるたびに頭の中で当てはめている線引きを、文章にして一箇所にまとめる作業だからです。書き留めるのは、次の基準です。

  • どの質問に数値で答え、どの質問に試作での確認を勧めるのか
  • 物性の値を伝えるとき、規格値と実測の幅をどう添えるか
  • 湿度や保管期間に関わる質問で、必ず添える注意書きは何か

一度まとめてしまえば、銘柄が増えても同じものが使えます 。

4. 結果の戻り先と、確認する人を決める

画面に出て終わり、では使われません。問い合わせ一覧の行にぶら下げ、ファイル保管サービスに残し、担当者の業務チャットへ通知を流します。客先へ出す前に技術サービスの課長が目を通すところまで決めて、一本の流れになります。

先に知っておきたい、つまずきやすい3か所

  • 銘柄は絶えず改廃されます。米坪や仕様の枝番が変わると、過去の抄造記録と検査記録が別の銘柄として扱われ、条件の近い事例を引き当てられなくなります。銘柄を立て直すときに、 旧銘柄との対応を記録の側に残す 取り決めを先に作ります。
  • 印刷や製袋の現場で出た不具合は、紙側の記録だけでは決着しません。機械の速度、室内の湿度、インキや接着剤の条件は客先にあり、社内の記録には入っていないからです。AIには切り分けの候補を並べるところまでを任せ、 原因の断定はさせない 線を引きます。
  • 古紙の受入は問屋ごとの伝票のまま残りがちで、どの入荷分がどの抄造分に入ったのかが銘柄の品質記録とつながっていません。古紙の配合が変われば紙の性質も変わるので、受入と配合の記録を抄造ロットに結びつけるところから始めます。

製紙・パルプメーカーのAI活用は、どこから考えればいいか

第1章で線を引いたときの基準は、 答えが社内の記録に残っているか、紙を手に取らないと決まらないか でした。ここまでに挙げた3つは、どれも記録の側に答えがあります。抄造の条件、検査の測定値、過去に出した回答という形で出どころが社内にあり、それを人が毎回探し直していた業務です。

3つとも手をつける必要はありません。いまいちばん人手が張り付いている業務を、1つだけ選んで始めれば十分です。 始めるのに要るのは、すでに社内にある記録と、判断の基準を書き留めた文章だけ で、新しく買い足すものはありません。

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