建設コンサルタントに、そもそもAIは必要なのか
見分ける物差しは二つあります。一つは、同じ判断を月にどれだけ繰り返しているか。もう一つは、その判断を取り違えたときに何が起こるかです。建設コンサルタントのAI活用も、この二つがどちらも大きく出る業務から考えると、仕組みにした効き目がはっきりします。
公共の発注者から受ける業務では、答え合わせの相手が文書として残っています。次のような作業がそれに当たります。
- 特記仕様書と要求水準書から、成果品に求められる項目を抜き出す
- 数量計算書を積算基準と歩掛に照らして確かめる
- 土木・構造・電気それぞれの設計図書が食い違っていないかを見る
いずれも 照らす先が発注図書と基準類にある 点で共通します。
反対に、発注者との打合せでその場の方針を決める場面と、住民説明会で出た質問に答える場面は、人が担う側に残ります。
打合せは予算の枠や隣接する事業の進み具合を聞き取りながら落としどころを探る仕事で、判断の根拠が事前に文書になっていません。説明会の応答も、誰がどんな不安から問うているかを読み取ることが、答えの中身を決めるためです。
ただし、この線は 業務の単位で引き直す 必要があります。同じ協議でも、場での方針決定と、打合せ簿からの論点の抜き出しとでは向き不向きが分かれます。次は、建設コンサルタントの業務を工程に分けて見ていきます。
入札・提案から納品・監督まで、負荷が大きいのはどの工程か
建設コンサルタントの業務は、入札の公告を見るところから、成果品を納めて工事の監督を支える段階までを一本の線でたどれます。工程に分けると、基準に照らす作業と、その場で読み取る作業がはっきり分かれます。
| 業務工程 | 主な作業 | AI活用の余地 |
|---|---|---|
| 入札・提案 | 入札公告と発注見通しの確認、技術提案書の作成 | 中:過去の提案と実績の整理に向く |
| 条件整理 | 特記仕様書・要求水準書の読み込み、業務計画書の作成 | 大:求められる項目の抜き出しを任せられる |
| 現地踏査 | 現地での支障物と施工制約の確認、発注者との立会い | 極小:何に気づくかが経験に依り、前例を当てはめられない |
| 調査・測量 | 測量成果の整理、点検写真からの損傷の拾い出し | 中:記録の仕分けと一次整理が進む |
| 設計・検討 | 設計計算と図面作成、工法の比較、各種計画書の作成 | 中:過去案件を引いた下書きづくりに使える |
| 照査・積算 | 設計図書間の整合確認、数量計算書と積算基準の照合 | 大:基準に照らした突き合わせを任せられる |
| 協議・説明 | 関係機関との協議、打合せ簿の整理、説明会資料の作成 | 中:協議は対面だが、論点の抜き出しは定型 |
| 納品・監督 | 成果品のとりまとめ、出来形・品質管理記録の整理 | 中:所定様式との照合を肩代わりできる |
負荷が最も集中するのは 照査・積算 です。建設コンサルタントの成果品は、そのまま公共工事の発注図書になります。数量が一つずれれば、契約後の変更協議と工期の組み直しに波及し、その責任は照査技術者と管理技術者が負います。
照査技術者は、土木・構造・電気と分かれた担当者の図面をつなぎ合わせ、境界の取り合いを一つずつ確かめます。並行して数量計算書を開き、基準の適用区分、歩掛の選び方、単価の年度が合っているかを追います。
担当が分かれているぶん、それぞれの中では整っていても、 境界の部分だけに食い違いが残ります 。ここに手を入れると、照査技術者は突き合わせではなく、工法そのものの妥当性を見る時間を取れます。前段の設計・検討も、後で照査にかかる項目を作図の段階で揃える形に整っていきます。
極小とした現地踏査は、図面と写真からは分からない地下埋設物の気配や、隣接する住宅の使われ方を、その場で読み取る工程です。何に目を留めるかが技術者の経験に依るため、判断そのものを委ねることはできません。
建設コンサルタントで最初に取り組むべきAI活用、3つ
最初に手をつけるのは、同じ点検が案件ごとに繰り返し起きていて、しかも取り違えると成果品検査や工事に響く業務です。冒頭の二つの物差しで見ると、特記仕様書からの要件整理、点検写真からの劣化の読み取り、数量算出の確認がここに当たります。
特記仕様書から、求められている項目を先に並べる
起点は、発注者から受け取った貸与資料一式が案件フォルダに保存された時点です。
AIは特記仕様書と要求水準書を読み取り、自社の成果品構成の一覧と、同種業務で補正を求められた箇所の記録に照らして、提出が求められる図書、適用される設計要領、打合せの回数と時期を並べた要件一覧を組み立てます。
要件一覧は案件フォルダに文書として保存され、管理技術者と担当者に業務チャットで知らせが届きます。これまでは仕様書を頭から読み下して転記していましたが、 抜き出された項目を確かめるところから 業務計画書づくりに入る形に変わります。
一覧の読み取りが発注者の意図と合っているかは、管理技術者が判断します。判断が分かれる箇所は、第一回の打合せで発注者に確認する項目として切り分けます。
点検写真の損傷を、先に仕分けておく
こちらは、点検を終えた技術者が入力フォームに点検日と対象の部材、撮影番号を登録したときに動きます。
AIは、ファイル保管サービスに取り込まれた写真と現場でのメモを読み、点検要領に定められた損傷の種類と区分、同じ部材に過去の点検で記録された所見、補修の履歴に照らして、損傷の種類と程度の候補、前回からの変化が見られる箇所を仕分けます。
仕分けた結果は点検調書のもとになる表計算ソフトに部材ごとの行として積まれます。写真を一枚ずつ開いて調書に手入力していた作業が、 候補が入った状態から直す 作業に置き換わります。
損傷区分の判定は、点検を担当した技術者が現地で見た印象と突き合わせて決めます。健全性の診断として発注者に報告する区分は、管理技術者が目を通したうえで確定します。
数量の拾い違いを、提出前に見つける
三つ目は、数量計算書と図面が照査用のフォルダに揃った時点で走ります。
AIは適用する積算基準と歩掛、標準的な構造での数量の目安、同種工事で過年度に指摘を受けた拾い落としの記録を参照し、図面の寸法と計算書の数量が合わない箇所、適用区分の取り違いが疑われる項目、単位の桁が周辺と離れている項目を拾い出します。
結果は照査記録の表計算ソフトに項目ごとの行として残り、照査技術者に知らせが届きます。計算書を先頭から検算していた進め方が、 疑わしい項目から順に見る 進め方になります。
挙がった項目が本当に誤りかは、照査技術者が図面に戻って確かめます。成果品として提出してよいかを最終的に決めるのは、管理技術者です。
業務に組み込むまでの4ステップ
例にするのは「特記仕様書からの要件整理」です。新しい仕組みを一から作る話ではなく、いま使っているファイル保管サービスと文書作成ソフトの間に、情報の通り道を一本引く作業です。
1. 使う情報がどこにあるかを決める
要件を抜き出すのに要る資料は、すでに社内にあります。
- 発注者から受け取る特記仕様書、要求水準書、貸与資料
- これまでに納めた成果品の構成一覧と、業務計画書の様式
- 補正を求められた箇所と、その手当ての記録
新しく作るものはありません。部署や個人の端末に分かれているなら、案件フォルダの下にまとめます。
2. 何をきっかけに動かすかを決める
貸与資料一式が案件フォルダに保存されたときを起点にします。担当者が思い出して始める形にすると、着手が重なった時期ほど後回しになり、使われなくなります。
3. 判断の基準を設定しておく
何をもって「求められている項目」と見なすのかを文章にし、一箇所にまとめて設定します。AIは毎回そこを参照します。 仕様書のどこで引っかかるか という管理技術者の勘どころを、言葉にしていく工程です。
- 仕様書のどの言い回しが必須の提出物を指し、どれが参考の扱いなのか
- 発注者が示していなくても、同種業務では当然付ける図書は何か
- 過去に補正を求められ、以後は着手前に確かめるようになった項目
この工程がいちばん時間がかかります。一度書き留めれば、発注者が替わっても使い回せます。
4. 結果の戻り先と、確認する人を決める
要件一覧は案件フォルダに文書として保存し、業務チャットで管理技術者に知らせます。 第一回の打合せ前 に管理技術者が開き、発注者に確かめる項目を切り分けてから、業務計画書の作成に入ります。
先に知っておきたい、つまずきやすい3か所
- 基準類が年度で改定される :積算基準や設計要領は改められます。前の案件のまま参照させると、古い歩掛や旧様式で組み立てた結果が出てきます。基準類は改定の版ごとに保管し、業務の適用年度によって参照先が切り替わる形にします。
- 貸与資料が紙や画像のまま届く :発注者から受け取る過年度の成果や図面の写しは、紙や取り込んだだけの画像であることが少なくありません。そのままでは読み取りの流れに乗りません。受領した時点で決まった名前を付けて取り込むところまでを、業務着手の段取りに含めます。
- 照査そのものを任せてしまう :照査は、技術者が自らの責任で成果品の適否を判定する工程です。判定まで委ねると、その責任の所在が消えます。突き合わせと拾い出しまでにとどめ、指摘を採るか捨てるかは照査技術者が決める形にします。
建設コンサルタントのAI活用は、どこから考えればいいか
冒頭で引いた線は、発注図書と基準類に照らして同じ確かめ方を繰り返す業務にAIが効き、発注者との打合せや住民への説明は人が担う側に残る、というものでした。紹介した三つは、いずれも 判断の根拠が文書として残っている 業務です。
すべてを一度に進める必要はありません。三つのうち最初の一歩に向くのは 特記仕様書からの要件整理 です。照らす先になる成果品の構成一覧も過去の補正記録も、すでに案件フォルダのなかにあります。点検写真の仕分けのほうは、損傷区分の読み方を言葉にする手間が先に立ちます。

